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八人目の合流なんだが?

 

「それで、さっきの答えは?」


「……」


 隆は突然真顔になり、答えない。さっきの答えというのはシャルロットという存在をなぜロジカルファンタジーのプレイヤーネームに付けたのか。しかし、隆も答えを出すことができない。当の本人もよくわかっていない。なぜ妹がシャルロットという名前で生活し、そして自分の育てていたシャルロットと同名なのかが。

 それがわかっているならば、いつもの冗談混じりで答えるだろう。それをしないのは本当にわかっていない証拠。


「ちょっと! 聞いてるの!? 黙ってればあなた、シスコンってことになるわよ。妹の名前を付けるなんて」


「……」


「なんか言いなさいよ! 私は別に局長として聞いてるんじゃないのよ。その……あくまで……え、えっと……――」


「僕も知らないんだよ。なんであいつがシャルロットなのか」


「は、はあ!? 何言ってるの!? もう、わけわかんない!!」


「……」


 隆にわからなければ答えることもできない。小学生の子が先生に答えを教えてと言っていたとしても、その先生が回答用紙を持っていなければ答えることはできない。

 たとえ知っていたとしても、それは憶測に過ぎず、百パーセントの解答を言えるわけではない。それが今の隆。憶測では予測できても、断定はできない。それは証拠なき断定となってしまうから。


 そんな隆に可憐は呆れていた。自分の妹なのになぜわからないのか。しかし、可憐は知らない。その妹が養子ということになっていることまでは。だから血の繋がりのある妹だとも思っている。だから謎なのだ。


 ガラガラガラ。そんな気まずい雰囲気の中、美沙が重たそうなバッグを持ったまま、技術準備室から出てくる。黙り込んでいる二人を見る。


「終わったよ〜。ん? どうしたの、二人とも」


「いや、終わったのか。じゃあ行こう」


「……」


 そう言って一同は技術室を後にした。隆の言葉はどこか雲に隠れていた。まるで、ずっと続く雨に浮かぶ雲のよう。それを可憐は感じとるが、それ以上は何も言わなかった。

 でも心では言った。「彼は本当に何も知らないのだ」と。


 音楽室へ向かう三人。隆と美沙は楽しそうに話している。その横で隆の腕にしがみつく可憐。いつも通りに見えるが、可憐は二人の会話に入ろうとしない。二人もそれを気にして可憐に話題を振るが、微妙な返事ばかり。「……うん……」「そ、そうね……」「いいね……」こればかり。やはりどうしてもさっきの隆の反応が気になるのだろう。


「……ということがあってだな」


「なにそれ、面白い!! 今の話めっちゃ面白いよね、可憐さん?」


「……え? あ、ああ……そうね……」


「大丈夫か? さっきからずっとその調子だぞ」


「休む?」


「だ、大丈夫よ……大丈夫……」


 ずっと考え、考察を立てては崩す。シャルロットとはなんなのか。そればかりを考え、推理を崩し一からまた考える。だから隆達の話は耳に入ってこなかった。それがわからないことには隆を知ることができない。それはもしかしたら、本来の可憐な目的にも支障をきたすかもしれない。だから考えるしかなかった。


「そうか? 無理するなよ」


「そうするわ……――っ!?」


 可憐は目を丸くして突然後ろを振り向き始めた。


「ん? どうした?」


「い、今……誰か見ていた……」


 可憐は何か視線を感じた。今は一階東渡り廊下を渡り終え、南館に入ろうとしていたところ。その後ろ。可憐達から見て左。あそこには技術室とトイレしかない。そこの壁から誰かがこちらを見ていた。

 しかし、感じただけ。可憐はその姿を見ることはできなかった。でもその視線は人間の視線ではない。そう、人ならざるものの視線。

 隆と美沙も後ろを振り向き確認する。


「誰かって……誰もいないぞ」


「ち、違う……! 本当に誰かいたんだって……!」


「も〜。可憐さんってば急に驚かさないでよ〜。場を和ませてくれてありがとね」


「……」


(私の気のせいだったのかしら。考え過ぎて変なもので見えたんだわ。もう、考えるのはやめにしましょう)


 そう思い、シャルロットのことについて考えるのをやめることにした。それを考えていたせいで変な視線を感じたと錯覚したのなら、もう考える必要はないのだと。

 そのまま彼らは上の階段へと上がる。あの音楽室へと。そんな彼らを待ち受けていたのは――


「……っ!?」


「き、きみたち……!!」


 音楽室には、探索に行っていた四人に加え、新たに一人混じっていた。その人物は隆たちを見てさらに驚いていた。先に来た四人にも同じ反応を示していた。

 五人は円になりながら座って情報交換をしていた。


「天空城……!? お前、どうしてこの場所がわかったんだ!?」


「どうしてって……深夜にピアノが鳴るなんてただごとじゃないと思って来ただけだ」


 天空城はトイレの花子さんを解決後、ほとんど北館を探索していた。ここまで来て誰とも出会わなかったのは奇跡であろう。そして、ピアノが鳴り音楽室へ入ったところ、誰もいなかった。この数分前にここにいた全員が探索や機材の調達にいったと思われる。

 そこから探索に行っていた四人が戻って来て、その後に隆たち三人が戻ってきたのだ。

 そう、全てはピアノが引き寄せた運命。

 つまりこの場には今、八人いることになる。


「とりあえず私、あのピアノ治してくるね」


「ああ……」


 美沙は調達した機材を手に、ピアノに寄って修理を始めた。しかし、天空城にとって今はとても気まずい雰囲気。隆が目の前にいる。あの隆が。


 天空城は立ち上がり、立っている三人の前に立つ。

 隆は天空城に御礼が言いたかった。以前、気絶している間に天空城に看病してもらった覚えがある。それを言えずにずっといた。だから先に隆の口が開く。


「天空城。前に看病してくれてありがとな。ずっとお礼が言いたかったよ」


「い、いや……風紀委員として当然のことだし……ん?」


 そこで天空城は気がついた。隆の右腕に何かが巻きついていることに。よく見るとそれは女の腕。そして胸まで当たっている。その顔は少し怯え、瞳が(うる)んでいた紫色の髪を美しく伸ばす大人の女性。この学校の人ではないだろう。


「あ、あなたたち……! ここは学校だぞ……! 芳月学園校則第八条! 不純異性交遊を禁ず! 不純な異性との関係は風紀委員のこの私、天空城空が許しません!!」


「ひ、ひいいいいいい……あの人……怖い……」


 今は深夜だというのに、校則を気にしているようだ。可憐はガクガクと震えながら隆の腕に激しくしがみつく。そのせいで胸がさらに当てられる。それを天空城は見逃さなかった。


「あ、あなた……!! そこから離れなさい……!! どこの誰だか知りませんが、その人うちの生徒なので!!」


「空待つ待つ〜。そこの人うちの上司にえ〜。この学校の人じゃないなら校則は適応されないよ〜」


 一人瓦礫の床に平なところを見つけ、寝転がっている加賀が口を出す。天空城はすでに赤城と加賀がどういう人物かということは聞いている。公務員のような扱いとは言ってあるだけだが。

 その言葉で天空城は姿勢を正して頭を下げる。それから律儀に自己紹介を始めた。


「あ……そ、それもそうでした! 申し訳ありません! 私の名前は天空城空です。この学校、芳月学園の風紀委員を担当しています。わからないことがあればなんでもきいてください」


「えっと……正義執行管理局局長……紫……可憐……です。政府から直々に局長というポジションを任せられている、悪い人間を取り締まる裏の警察官だと思ってもらって構いません……きゃあっ!!」


 可憐の細い右手を天空城は両手で掴み、熱く握りしめて目を見ながら激しく上下に振る。その目は輝いていた。


「政府から直々に!? それに悪い人間を取り締まっているのですか!? すごい!! まさに正義の鏡……!! 私、あなたのような人間を目指して日々精進(しょうじん)しているんです!! それで風紀委員という委員会にも所属しているんです!!」


「は、はあ……この人、ちょっと怖い……」


 天空城は将来、日本をよりいい方向に動かそうという意思がある。そしてそれに勤めている人が目の前にいる。女性でかなり若い。そして美しい。そんな人を目の前にしているのだ。天空城は興奮せずにはいられない。

 普段の可憐ならこんな反応ではなく、応援する声をかけるのだが、今の可憐には天空城は怖い存在であった。


「その辺にしといてやれ」


「なんだ? 不純異性交遊をしているあなたに言われる筋合いはない」


 天空城は隆の顔をジト目でじーっと見ている。


「なんでだよ! おかしいだろ!」


「何もおかしくない。あなたはこの学校の人なので校則が適応される。そんなに校内で女性にくっついて」


「くっついてんのは僕じゃなくてこ、い、つ!!」


 隆は離れようと歩き出そうとするのが、さらにしがみつき始めた。首をブンブン横に振り、離れることを拒否する。それを見て隆にさらに冷たい視線を送る天空城。


「ん〜!! やだやだやだ〜!!」


「最低だな」


「えええええええ〜!?」


 そんな会話をその場の全員は聞いているが、こそこそと何かを話している人たちがいた。可憐の部下の二人。


「ねえ、赤城。可憐、てっきり東條隆を捕まえたと思ってたけど」


「捕まえたっていうより、掴まってるという方が正しい気がします」


「ひっひひひひひっ!! これは面白くなりそうだ……! 可憐をちょっとからかってやるにえ〜」


「何をする気ですか。からかうにしてもほどほどにしてあげてくださいね」


「わかってるってば〜。ちょっとね〜」


 何かを企む加賀とそれを止めても無駄だと感じる赤城。加賀の顔からはニヤニヤが止まらない。その顔は赤城にしか見せていないため、そのことに誰も気が付かない。こうなると加賀のことは誰も止められない。赤城がそう感じているのだからきっとそうなのだろう。

 悲惨なことにならなければいいのだが……

★東條隆 南館四階 音楽室

★江南美沙 南館四階 音楽室

★紫可憐 南館四階 音楽室

★東條シャルロット 南館四階 音楽室

★加賀 南館四階 音楽室

★昇龍妃 南館四階 音楽室

★赤城 南館四階 音楽室

★天空城空 南館四階 音楽室


??? 不明


七不思議怪異四つ解決(残り三つ)

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