花を持たせたいんだが?
ドンッ!と床に大きな音が響き渡る。運が悪かったのはシャルロットだった。シャルロットは加賀の下敷きになるように倒れていた。しかし、これが逆だった可能性もある。全ては運なのだ。
「いっ……! シャルロット……! シャルロット……! しっかりして……!!」
加賀は必死にシャルロットの肩を揺らす。すると、閉じた目が徐々に開いていく。
「私なら大丈夫ですよ……私、結構頑丈なんです……」
「が、頑丈の域を超えてる……」
頭から打ち付けられたシャルロット。十三階から落ちればタダじゃ済まない。でも、シャルロットは怪我一つしていなかった。そんな彼女を見て加賀は驚きを隠すことができない。
そして運でもなかった。シャルロットは落下寸前、自分の物理防御9999を活かし、加賀の腕を空中で引っ張り、抱き抱えて自ら下敷きになったのだ。
「私のことを命懸けで助けてくださってありがとうございます。二度も助けてもらって。それなのに私、加賀さんが悪い子で何かされるのではないかとずっと加賀さんのことを恐れて疑っていました」
シャルロットは今までのことを正直に謝った。思えば、一回目から助けてくれた時から疑う必要なんてなかった。それを意味もなく疑ってしまった。途中まではよかったが、可憐が現れたことにより、それが疑いへと変わってしまった。
だからそれを正直に言った。
「大丈夫だよ! そんなこととっくに知ってたし、あれは可憐が悪いんだし、全然気にしてない! そして、シャルロットも気にしちゃダメ!」
加賀には全てお見通しだった。最初から全部。加賀はこう見えてかなり計算高い。だからシャルロットがそう思っていることはすぐに考え付いていた。あの意味不明な壁ドン顎クイも加賀なりのスキンシップだろう。
「加賀さん……」
「でもね、」
加賀は今、シャルロットの上にいる。馬乗り状態。だから加賀はシャルロットの自由を奪っている。それをいいことに、シャルロットの寝巻きの服の一番下に両手をかけた。シャルロットの心はほっとしたが、その行動で一瞬にして目が丸くなる。
「私、悪い子なんだ!!」
「きゃあっ!!」
服を首元まで思いっきり上に捲り上げた。シャルロットの胸はあらわになり、それを楽しそうにニコニコと加賀は見つめる。
「ひっひひひひっ……赤城の体もいいけど、育ち盛りのふっくらお胸もたまんねえな、こりゃ……! ああ、ダメだもう……! 我慢できない……!」
わけもわからず自らも服を脱ぎ、それを廊下に投げ捨てた。まだこれから育ち盛りの綺麗な身体が窓の光より照らされる。おじさんのような抑えきれない声を出して、興奮しているようだ。何がしたいのか本当によくわからない。シャルロットは動くことができず、加賀にされるがまま。
「加賀さん……! やめっ……! ああんっ……!」
「加賀は悪い子なのでやめることができません! ほれほれ〜! おっほほほほほほ〜!! 手のひらにも収まらないこのアンフィット感!! 今私は最高潮よ!!」
加賀は両手でシャルロットの両胸を掴み、揉みしだいていく。見た目は可愛らしい青髪のボブの少女。しかし、中身はおじさんでしかない。それを何度も続けていると、上半身裸の加賀は息が荒くなる。
「か、加賀さん……も、もう……勘弁してください……ひゃうっ……!」
「とか言っちゃって〜! 本当は言われるがまま! いつしかその快楽が全身を駆け巡っちゃってるだけなんじゃないの〜! ほらほら〜! 体はいつだって正直だ――アヘンっ!!」
その瞬間、加賀は倒れた。体は上半身裸のシャルロットに重なる。シャルロットが見上げると二人の人物がいた。赤城と昇龍だ。赤城は右手を加賀の頭に目を瞑り一回チョップ。
「すみません、うちのものが。加賀! あなたはほんとうに何をやっているんですか! ほら、シャルロットさんに謝って! そして服を着て! あんなところに服なんて投げちゃって! 風邪ひきますよ!」
「ひい〜! ごめんなさ〜い!」
赤城は母親のように加賀に注意した。赤城にとってはいつものことだ。加賀は女なのに女癖が悪い。いつも部下に手を出しては赤城に怒られている。
それを言われると恥じらうことなく、投げ出した服のところへちょこちょこと走っていく。シャルロットは加賀に捲られた服を下ろす。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
赤城はシャルロットに手を差し出す。右手を伸ばし、その手を握って立ち上がった。
「ありがとうございます、赤城さん」
「あの子、女癖がいつも悪いんです。部下にもよく手を出して。注意しても治らないんです。でも、本当に悪い子ではないんです。だから、仲良くしてあげてくれたら私と加賀は喜びます」
「もちろんですよ。だってさっき、加賀さんに助けてもらいましたから」
「加賀が? そうですか。そういうところだけならいいのですが、なぜあんなにも女癖が悪いのだか……」
その後、そこであった出来事を二人に話した。昇龍と赤城は上の階を調べたが、何もないため、下にいる二人と合流しようと思っていたところ、二人の落ちる音が聞こえ、急いで駆けつけた。そうしたらあの様子。二人には加賀がシャルロットをただ押し倒したように見えていたが、本当は違ったのだ。
加賀が命懸けでシャルロットを助けた。でも加賀はそれを自ら言おうとはせず、シャルロット一人で解決したと言っていた。加賀はシャルロットに花を持たせてあげたかったのだろう。その優しさを一同は理解し、加賀に納得したフリをしてあげた。
そして、シャルロットもまた例のものを拾った。十三階の階段から転げ落ちたと思われ、二段目に置いてあった緑色の勾玉を。
北館一階 技術室
ブーブー。スマホを取り出し、確認。
(芳月学園の七不思議 十三段目の階段:達成)
(十三段目の階段? 解決したということは、もどきたちが解決してくれたのだろう)
それだけ確認すると隆はスマホをポケットに仕舞い込む。別行動した二組のどちらかが解決したのだろうと思っていた。その動作が終わるのを可憐は確認してから隆に声をかけた。
「私、あなたと話したら一つ聞きたいことがあったの。差し支えなければいいかしら?」
「質問次第だな」
「あなた、ロジカルファンタジーでのシャルロットさんは消滅したと言ってるけど、あなたの妹の名前もシャルロットでしょ? なんで妹の名前つけたの?」
「いや、だからそれはあいつがその後に家に来て――って、なんでお前そのことを知っているんだよ!?」
隆は可憐にロジカルファンタジーのシャルロットが消滅したことは話していない。
(でもこいつと出会った時もたしか――)
「そんなんじゃ、消えたシャルロットさんに見せる顔はありませんね」
(こんなことを言って僕を煽ってきた。可憐は何か知っている……?)
あの病院で出会った時からそのようなことを言っていた。可憐はその時からロジカルファンタジーでシャルロットが消滅していることを知っている。
それを隆は覚えていた。それを今、シャルロットや他の人がいないタイミングで聞いている。とは言っても、隆も返事に困っている。勝手に消えて気づいたら家に人の形をしたシャルロットが現れたのだから。
「何も知らないから聞いてるんでしょ。その、何? ロジなんとかからシャルロットさんが消えたということしか。それでいざ会ってみればあなたの妹さん、シャルロットって名前だし」
「だからそれをなんで知っているんだって聞いているんだよ。僕はお前にそのこと話してないぞ」
「ああ、そんなこと。ターゲットにしている人物の詳細を調べるのは当然でしょ。そこは警察と同じよ。あなたが週に何回コンビニ行くとかも調査班に聞けば簡単にわかるわ」
「ちょ、調査班!? はあ……僕にプライバシーはないんですか……」
隆は俯いた。管理局はいくつかの班に別れている。戦闘班、調査班、医療班、その他色々……
そして調査班はどこからともなく情報を仕入れ、それを局長である可憐に流している。でも可憐の言う通り、警察のような張り込みのようなものだと言われれば何も言い返すことはできない。といっても隆は何もしていないが。
「一様言っておくけど、管理局は政府直属の存在。だから張り込みをしようが家に押し込もうが犯罪じゃないのよ。なんなら今度、あなたの家に行ってあげてもいいわよ」
「来るな。母さんに変な誤解されたらどうする」
「誤解って何? お友達って言えば別に――あ、あなた何考えてるの!! な、なんであなたのか、か、彼女に私がならなくちゃいけないのよ!!」
可憐は顔を上げ、隆の顔を見る。目が大きく見開き、かなり動揺していた。可憐は体を動かして可憐に言い寄る。激しく動いているため、胸が揺れ、さらに隆の右腕が幸せなことになる。
ばいんばいん!! しがみついている上、胸が激しく当たるのは隆も想定外だった。さらに可憐な顔を見ようとすると、パジャマの隙間から見える大きな谷間。
隆は顔を逸らし、横を向いた。
「彼女になって欲しいなんて言ってねえだろ!! お前こそ何言ってるんだよ!!」
「それ以外変な誤解って何があるのよ!!」
「それは……その……」
「ほら〜!! 私の言った通りじゃな〜い!!」
「……」
「……」
しばらくの沈黙。可憐はドヤ顔で隆をずっと見つめる。しばらくして恥ずかしくなり、赤くなった顔を逸そらす。
何がしたいのだろう、この二人は。
●東條隆 一階 技術室
●江南美沙 一階 技術室(準備室)
●紫可憐 一階 技術室
▲東條シャルロット 北館一階 西階段
▲加賀 北館一階 西階段
■昇龍妃 北館一階 西階段
■赤城 北館一階 西階段
天空城空 不明
??? 不明
七不思議怪異四つ解決(残り三つ)