壁ドンからの顎クイなんだが?
北館二階 廊下
シャルロット、加賀。二人は北館二階を調べていた。しかし、特に見つけられるものもなく、一階へと降りる階段へと向かおうとしていた。
シャルロットはまだ警戒している。加賀がいつ、自分に手を出してもおかしくはない。そんなことを考えつつ、加賀に目をやる。
「ふんふんふ〜ん」
鼻歌を歌ってスキップをして廊下を歩いていた。気にしている自分が馬鹿みたいだった。こんな人が自分を裏切るわけもない。そうは分かっている自分もいた。
「ん? どうしたの?」
「い、いえ、何も……」
視線を少し強くしただけでスキップを止め、こちらを振り返る。視線を感じたというのだろうか。その声は陽気そのもの。すると、ニヤニヤしながらだんだんと近づいてくる。シャルロットは後ろに後退るが、壁にぶつかる。距離はもう、人一人分もない。
ドンッ!とシャルロットの顔の横の壁に右手を広げてぶつけ、顔を近づける。壁にはヒビが入るほどの威力。歯を出してニヤニヤと笑って。
それがシャルロットには怖かった。やはり、自分はこのままされるのではないかと。
「私のファースト壁ドンをプレゼント! あれ? というか、シャルロットってよく見たら可愛い顔してるにえ〜」
「……っ!?」
左手でシャルロットの顎を触り、持ち上げる。その後にさらにとろける顔を見せ、シャルロットの耳元で小さく囁いた。
「嘘だよ。よく見なくても可愛いよ」
それだけ口にすると腕を引き、手を離した。何をしたいのかもよくわからない。シャルロットは自分を殺そうとしたのではないかと考えていたが、そうではなかった。当たり前だ。あんな破壊力抜群な壁ドンをされれば、殺意があるのではないかと感じてしまう。
シャルロットは目を丸くして小さく震え、その場を動けずにいた。
「さあ、行こー!」
加賀は右腕をあげ、左足を曲げる。この人を見ていると本当の恐怖を感じる。まだこの空間にいる方がマシだと思えるくらい。何を考えているのかもわからないし、この空気でのその元気さにただ怯えていた。
「ふふんふんふふ〜ん」
一階への階段を降り始める。そんな中でもまだ鼻歌を歌っている。だからシャルロットは加賀よりも早く降りようと加賀の先を歩き、階段を降りて行った。
「あれ?」
一番下に降りると何か違和感を覚えた。
(なんだろう、この違和感。何かが違う)
「どうした〜?」
そう思うと途端にまた階段を登る。すると今度は一段ずつ数え始めて降りる。
「一、二、三、四……」
シャルロットのその行動を上から不思議そうに見つめる。何かに気づいたようで、それを邪魔しないよう、加賀はシャルロットが口を出すまでは黙ることにした。
そのうちにだんだんと降りて行くシャルロット。
「九、十、十一、十二、十三……やっぱり」
独り言を言い終わると加賀の方を見上げる。
「この階段、おかしいです!」
「おかしい? 私には普通の階段に見えるよ」
「私、この学校の階段の数暗記しているんです。ここの北館の階段の数は全て統一されていて十四段。他もそうでした。でも、ここだけ違うんです」
「階段の数なんて普通覚えるものかな……」
シャルロットは隆のパラメータの割り振りで記憶力もよく育てられている。厳密には賢さというパラメータ。それは全振りの9999。だから頭も良く、大概のことは記憶することもできる。
「そんなの、ここを作った時のミスかもしれないし、偶然かもしれないよ。たまたまたまたま〜」
「いえ。夏休み前に来た時はこの階段は十四段ありました。だからそれはありません」
そう言うと階段をまた登り始める。シャルロットは十三段目で足を止めた。そこは、折り返し階段。階段でも一番広い場所。そこの中心にシャルロットは立つ。加賀は何事かと思い、シャルロットに注目した。
「加賀さんは危ないので離れていてください」
静かに離れる。上の階の七段目にとどまり、シャルロットに改めて注目する。すると、シャルロットの顔は険しくなり、拳に力を込めた。全身の神経を拳一点に集中させ、股を八の字にする。
「ふっ!!」
そしてその拳を勢いよく地面に叩きつけた。その力は並大抵の人間には出せない力。攻撃9999の力!
地面はドン!という音とともに、別のものが聞こえた。
「うおっ!! やるな……! 七不思議怪異階段のこの俺を見抜くとは……!」
「七不思議……怪異……」
加賀は驚きを隠せずいた。隆といつもセットでいるようなただの少女だと思っていたが、力もあり、記憶力もある。普通の人間ではないと感じ、ますますシャルロットに興味を抱く。
シャルロットは予想通りとしか思っておらず、その険しい顔は変わらない。
「俺は見破られたらお役御免の存在……! だがな……」
「……っ!?」
「貴様一人を道連れにすることは許されている!! 覚悟しろ……!! う、うおおおおおおお……!!」
階段は雄叫びとともに歪み始める。すると、シャルロットの十三階の足場は黒ずみ、ぐちゃぐちゃになっていく。その足場にシャルロットは巻き込まれ、地面が不安定になる。
「うっ……! しまった……!」
「はっはっはっはっは!! 冥府へと誘ってやるよ……!! うおおおおおおお……!!」
シャルロットは抜け出そうとするが、足が全く動かなかった。地面は泥で作られた沼のようになっており、普通に自力で足を引っ張るだけでは抜け出すことができない。そして下手をして転倒なんかすれば、腕も沼にハマり、動けなくなる。
だからどうすることもできなかった。
さらに沼はどんどんシャルロットを沈ませ、溺れさせようとしていた。
そんな光景を加賀は見ていた。しかし、加賀に迷いはなかった。
「手を伸ばして歯を食いしばって!!」
加賀は登っていた階段を駆け足で降りて行き、飛び跳ねた。普通に引っ張ろうにも十三段目の折り返し階段は広く、とてもじゃないけど届かない。だからシャルロットのさらに奥の壁に向かって足をぶつける。
その間にシャルロットは飛び跳ねている加賀に右手を伸ばした。加賀はシャルロットが伸ばした右腕を掴み、壁を思いっきり蹴り飛ばした。
しかし、シャルロットの足では抜け出せなかった沼。もし、抜け出せなければ自分も沼に溺れることはわかってる。そんな沼からどうやって引っ張り上げようというのか。それは、加賀の怪力だった。
力一杯シャルロットを引っ張る。加賀の手の力だけでなく、壁を蹴り飛ばした威力も力に反映される。
それらが全て足され、シャルロットを沼から引き上げたのだ。
「ぬわ!? くそおおおおおおおっ……!!」
その最後の雄叫びと同時に沼と階段は消滅した。しかし、ここからが問題。空中に投げ飛ばされている加賀とシャルロット。それは、階段十三階分の高さ。その高さから落ちれば、打ちどころが悪ければどちらもタダじゃ済まない。こればかりは加賀ももう、運に任せるしかなかった。
●東條隆 一階 技術室
●江南美沙 一階 技術室(準備室)
●紫可憐 一階 技術室
▲東條シャルロット 北館二階 西階段
▲加賀 北館二階 西階段
■昇龍妃 北館四階 廊下
■赤城 北館四階 廊下
天空城空 不明
??? 不明
七不思議怪異四つ解決(残り三つ)