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戦力分散なんだが?

 一同は美沙のいる方向を向いた。そう、この中で修理が可能な人物は美沙しかいない。しかし、言われた本人も驚いている。これはどういうことなのか。


「私、ピアノなんて治したことなんてないよ。そんなこと言われても……」


「でも、ワタークシはミス江南が修理を得意とすることを知っていマース! 私のこのソを治してくだサーイ!」


「……」


 美沙は困っていた。たしかに美沙は祖父の茂ほどではないが、修理はできる。これまでの経験から修理という修理をなんでもこなすことができるだろう。しかし、ピアノの修理はまだ経験したことがなかった。

 たとえこの中で一番修理に適した人とはいえ、それが結果に結びつくとは限らない。


「美沙ならできるだろ。だって、パソコンのサーバーとか車のエンジンの修理とか修理してるんだ。ピアノだってできるはずだ」


 でも隆は美沙の経験と実力から美沙を信じていた。昔からの馴染みということもあり、美沙ならできると確信している。


「で、でも……失敗したらどうするの? それでもし、完全に壊れて動かなくなったら――」


「その時はその時だ。僕らの誰がやろうがそうなる。けど、美沙は一番その確率が低いだろ。みんな、いいだろ」


 隆は他の五人を見る。誰も首を振ることはなく、全員が頷いた。それを確認し、隆と美沙も頷く。そして美沙はやることを決意した。


「わかった。私、やってみる」


「その息デース! では、後は頼みましたヨー!」


 ピアノは上機嫌に返事をした後、ソ以外の音で上機嫌に音を鳴らした。それを聴くだけで機嫌の良いことがわかった。しかし、修理するには機材がいる。その機材はこの部屋のどこにもない。あったとしても、この瓦礫(がれき)だらけの部屋ではその機材も使えない。


「となると機材だけど、機材ってここの教室にあるの?」


「ありまセーン!」


「技術室にならあるんじゃないのか? あそこには工具がたくさんあるし」


「そうだね。でも技術室ってここから一番遠い場所だよね? 全員で行く?」


 そうなのだ。音楽室の場所は南館四階 西側の端。対して技術室は北館一階 東側の端。この校舎で一番正反対にある場所ともいえる位置関係。

 そして、美沙の言う通り全員で行くというのも手ではある。せっかくここに七人もいれば、敵がいても対抗できるだろう。


「……」


 隆は考えていた。どうするべきか。全員で行くべきなのか。でもそれでは何かダメな気がしていた。


「可憐。どうすればいい?」


 隆は可憐にどうするべきか尋ねた。


「な、なんで私に聞くのよ」


「局長のあんたなら、戦力分散とかも得意だろ。ここで全員で技術室に行ってもいいが、残りの七不思議怪異を探しにも行きたい」


 ここに閉じ込められて数時間が経過していた。肉体的にも精神的にも全員がもう危険な状態にある。だからこそ、戦力を分散させた上で行動しようと考えていたのだ。

 可憐も同じことを考えていた。可憐もまた、ここにいる全員のことを考えて行動している。今は敵味方関係ない。生きてみんなでここから脱出することが大事。


「そういうことならそうしましょう。じゃあ、美沙さんと私と東條隆で技術室へ。あとはうちの子一人とそこの二人のどちらか一人ずつでペアになって二人一組がいいんだけど」


「そうしましょう。では、私は昇龍さんと」


「よろしく」


「じゃあ、私はシャルロットとだね」


「よろしくお願いします」


 可憐が考えた戦力分散はこうだ。まず、美沙は必ず技術室へ行かなければならない。修理に関して美沙を除いた素人の他の六人だけが行ってもどういった機材を持ち出せばいいのかわからないのだから。

 なおかつ、技術室までは一番距離がある。その距離の中で他の七不思議怪異に遭遇してもいいよう、男手の隆と、管理局最高戦力の可憐自身を護衛としてつけることに。今の可憐には信頼できる隆もいる。だからいつも通り、本気を出すことができるだろう。


 あとは、赤城と加賀に昇龍とシャルロットのどちらかがつけばいい。赤城と加賀は日々訓練を重ねている。いざとなればどちらかを守ることができるだろう。

 四人行動ではなく、二人行動にしたのは少しでも効率を上げるため。そして部下である二人を信頼しているからだ。

 とはいえ、昇龍とシャルロットも力はある。この二組を心配する必要はないだろう。


「では、四時半になったらここに集合ということにしましょう。異論はある?」


「大丈夫です」


「オッケー!」


 その場の全員は納得した様子だった。しかし、納得とは別に昇龍とシャルロットは可憐をまだ警戒していた。その可憐が今は全員を仕切っている。昇龍は赤城と仲が良く一緒で大丈夫と考えてはいるが、シャルロットは加賀とは初対面。だから、何かこれは自分をはめるためのものなのではと警戒していた。

 しかし、その加賀に助けてもらったこともまた事実。警戒心半分、信頼半分という心情であった。


 一同はそれぞれ与えられたことのために動き出した。





 一階 東渡り廊下


 隆達三人は特に何もなく、一階東側渡り廊下までたどり着いた。しかし、ここからまた何があるかはわからない。そのため、隆と可憐は警戒心を張り詰めていた。しかし、それが時に命取りになることだってある。そう感じたのは美沙だった。


「ねえ。可憐さんってさ、彼氏とかいるの?」


「私? いないわよ、彼氏なんて」


 場を和ませようと何気ない会話で緊迫の雰囲気を壊す美沙。それを返事をしないのは悪いと思い、可憐は答える。とはいえ、可憐もそれは散々加賀にからかわれてネタにされてきた。だから答えづらくはあった。


「え!? いないの!? 可憐さん、めちゃくちゃ美人で性格良くてナイスブアデイーなのに!?」


「ふふっ、ありがと。これまでいたこともないし、もしかしたらこれからもいないかもしれないわ」


「可憐ってそういえば何歳なんだ?」


 二人の会話に隆も入る。可憐が少し答えづらそうにしているのは隆にはわかった。だから話題を変える。


「何歳に見える?」


「二十五」


「十七!」


「あなた、蜂の巣にされたいようね」


 隆は二十五と答え、美沙は十七と答えた。十七といったら美沙たちと同じ歳。美沙にはそう見えたのだろう。

 可憐は隆のその言葉に少し苛立ちを覚え、瞳に闇が宿る。明らかに自分より歳の上の数字を出されたから。女性ならわかるだろう、この気持ち。美沙も隆のその答えに対してはドン引きだった。


「うっわ……お兄ちゃんそれはないわ……」


「なんでだよ」


「私ってそんなに叔母(おば)さんに見えますか!?  ごめんなさいね、叔母さんで!!」


「そうじゃない。なんか、大人っぽさがあるっていうか。ほら、可憐ってしっかりしてるだろ。十九くらいかなって会った時思ったけど、それにしてはしっかりしているなって思って二十五って答えたんだよ」


「……」


「ああ、そういうことね。たしかに。それならお兄ちゃんにも一理納得」


 隆は悪気があって言っているわけではない。その若さにしてはしっかりし過ぎているという、褒め言葉で言った年齢だった。それを聞き、美沙も納得。可憐は顔を俯いて赤くしていた。


「せ、正解よ……」


「お! やっぱり、二十五であっていたか! さすが、僕――」


「そっちじゃなくて、十九の方! 全く、もう……」


 可憐は二人に見えない方向を向いてそっぽを向いた。言葉ではそうは言いつつも、嬉しかった。若いと言ってくれた美沙に対してもそうだが、しっかりしていると言ってくれた隆に対しても嬉しかったようだ。局長という立場上、人の上に立つのだからしっかりしなくてはならない。それを直接的ではないに知ても、隆は「しっかりしている」と言ってくれた。


 可憐は二人に見えないように、顔を赤らめながらニコニコと笑うのであった。

●東條隆 一階 東渡り廊下

●江南美沙 一階 東渡り廊下

●紫可憐 一階 東渡り廊下

▲東條シャルロット 北館二階 廊下

▲加賀 北館二階 廊下

■昇龍妃 北館四階 廊下

■赤城 北館四階 廊下


天空城空 不明

??? 不明


七不思議怪異四つ解決(残り三つ)

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