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音楽が人を引き寄せるんだが?

 


『レ ド ファ ファ レ ド ファ ファ レ ド ファ ファ ミ ミ レ ド』


 午前三時半。校舎全体に奇妙な音楽が響き渡る。ピアノでの演奏のようだった。それは館内にいた全員に聞こえていた。この音楽のメロディは「猫踏んじゃった」。ピアノの初心者でも弾ける簡単なメロディ。ではそれは誰が弾いているのだろうか。




 南館三階 三年C組


「音楽?」



 南館一階 保健室


「今度は何?」


 一同は音のなる場所へと耳をすませる。ピアノの置かれている場所といったら一つしかない。音楽室。南館四階一番奥にある場所。




 現在把握している参加者たちの名前と立ち位置とを確認しよう。


 南館三階 三年C組 東條隆。紫可憐。

 南館一階 保健室 江南美沙。昇龍妃。東條シャルロット。赤城。加賀。

 所在不明 天空城空。???。


 以上、参加者九名である。このうちの参加者八名は何らかの仕様で寝ている間に校舎に運ばれた。

 そして九名のうち、この中に一人、招かねざるべくして招かれた人物が一人混じっている。皆さんはお分かりだろうか。





 南館三階 三年C組


「この音は……音楽室?」


「ひいいいいいい……」



 南館一階 保健室


「ピアノのある場所なんて音楽室しかない」


「どうしますか?」


 一同は音楽室へ移動しようか悩んでいた。たしかに音楽室に行けば今いる参加者の何人にかは会うことができるかもしれない。しかし、この場の全員が七不思議怪異という人ならざるものを見ている。何より七不思議に一番縁のある教室と言ったら音楽室。

 奴らがいないはずもないのだ。


 隆は可憐の選択次第では行くつもりでいた。美沙たちもシャルロットの治療が終わり、行動できる状態。



 南館三階 三年C組


「どうする。行くか?」


「行っても……いいけど……」


「けど?」


 そこで可憐な言葉は止まる。やはり行くのは怖いようだ。しかし、可憐は言った。


「私から……離れちゃ……嫌だよ……?」


「ああっ!」


 そう言っていつも通り、可憐は隆の右腕にしがみついた。そこから二人は教室を出てすぐ隣の階段へと登っていく。

 だが、隆達が目にしたのはとてもこの世のものとは思えない光景だった。


「何が起きてるんだ……これは……」


 教室はすでにボロボロ。瓦礫が落ち、壁が剥がれ、額縁は落ちて焼けていた。廊下も無数のクレーターで埋め尽くされている。一体、ここで何があったのか。


「もしかして、あの爆発音ってこれだったのか」


 数時間前、二人が二階にいる時に激しい爆発音を聞いている。それが上の階ということは分かっていた。しかしそれの発生源がわからなかった。三階に行ったが特に変わった様子はなかった。そしてそれが今、四階だということを理解した。


「なんだ、あれ」


 教室に入って確信が持てた。今も鳴り響いている音はやはり、ピアノからだった。どこの学校にもあるグランドピアノ。なんの変化もない。しかし、そのピアノはおかしなことに傷ひとつなく、ピカピカの状態だった。この音楽室の荒れ具合からしてピアノに傷がないのはおかしい。

 二人は近づくと、鍵盤が押されているのがわかった。


『レ ド ファ ファ レ ド ファ ファ レ ド ファ ファ ミ ミ レ ド』


 メロディと共に一つづつ押されている。ここには誰もいないはずなのに。ピアノの前にある空席の椅子も傷一つないが、鳴っているということは何かがいるように感じた。


「なるほどな。次はピアノってわけか」


「あ、お兄ちゃんたちだ!」


 そこへ美沙、昇龍、赤城、加賀が姿を表す。四人は扉のところで立って隆達を見ていた。

 四人もまた、ピアノの音に誘われてきたのだ。


「美沙! それに、お前らまで!」


 その声で隆は振り向いた。おどおどしながら可憐もゆっくりと振り向く。すると、赤城と加賀に目がいく。


「あ、あなたたち……!」


「可憐ではありませんか!」


「やっほ〜! 可憐!」


 しかし、その二人とは反対に隆にしがみついている可憐の方を向き、シャルロットと昇龍はどこか険悪な感じを出していた。


「隆さんを離してください!! あなた、隆さんを捕まえて何をする気ですか!?」


「父さん達の復讐……!! 今からさせてもらうぞ……!!」


 二人は可憐なことを(にら)みつける。可憐は隆の背中に隠れて二人から姿を消す。可憐も可憐で何故か(おび)えていた。


「あの二人……怖い……お化け……?」


「たしかに化け物だ。僕の推しの真似ごとをするやつと、僕の前に何度も立ち塞がってはボコボコにするやつだし」


 隆は冗談っぽく言った。至って冷静。だから別に可憐に危機感を感じる必要もない。可憐は本当に怖いようでずっと隠れているが、それでも二人の怒りは収まらない。


「こ、怖いよお〜……」


「いい加減にしろ!! ぶちのめしてやるから出てこい!!」


「そうです!! いい加減な正義を隆さんに押し付けないでください!!」


「何が起きてるの?」


「よりにもよって今ですか」


「まあ、いつかはこうなるだろうとは予想はしていたよ」


「お、お前ら落ち着けって……!!」


 場の雰囲気はめちゃくちゃだった。隆達の後ろでは奇妙なピアノが音楽を鳴らしているのに、そんなことはお構いなしに険悪なムードへと変わっていく。

 このままでは何か余計な対立までもが起こってしまう。そう思ったここへ招いたものはそれを察し、音楽が止まる。そして声を上げた。


「レディースアンドジェントルメーン!! ようこそ、音楽室へ!!」


 その声で一同の声は収まり、声のする方を向いた。ピアノからだった。ピアノは鍵盤蓋をパカパカと動かしながら愉快に喋りだす。


「ワタークシのナマーエは七不思議怪異ピアノと申しマース! よろしくお願いシマース!」


 愉快なピアノの自己紹介。まるで、舞台俳優のような作られた喋り方。七人の中で一番初めに声を上げたのは昇龍だった。昇龍は戦闘態勢のままゆっくりとピアノに近づき、そのピアノに声をかける。


「今度はお前を倒せばいいんだな。ぶっ潰してやる!!」


「ノンノンノーン!! ワタークシは他の七不思議怪異とは違いマース! 物騒なことをしていいのは他の奴らだけデース!」


「ああ?」


 今までの七不思議は全員、物理的に倒して消滅させて解決となっていた。だから一同は今回もそうだと思っていたが、今回は例外だとピアノは言う。

 でもその中で隆だけは気がついていた。


「この有様でお前だけに傷一つついていないっていうことは、お前に攻撃しても無駄ってことだ」


 ここで何があったかはわからないが、これだけの被害が出ていればピアノも本来ならピアノかどうかも見分けがつかないくらいの姿になっているはず。それがこの、新品のような綺麗さ。

 ということは、爆発の攻撃に耐えられるだけの防御力を持つこととなる。


「ソウデース! だからワタークシの出す依頼をこなしてくれたら解決とシマース!」


「依頼とは?」


「ズバリ、ワタークシのピアノを修復することデース!」


 ピアノの鍵盤蓋は全開に開き、ピアノは声を上げた。その音と声にびっくりして可憐はビクッと飛び上がる。


「ピアノを修復? どこが壊れてるの〜? 新品のピッカピカじゃん」


「褒めてくれて恐縮デース! シカーシ! ある部分の一つだけが壊れているのデース! それが、ソの音デース! ほら! ほらほらほら!」


 ピアノはソの音を鳴らすが、部屋にはとても間抜けな音が何度も響いた。ソはこんな音はしない。それは、ピアノを習っていなくても誰もがわかること。

 ピアノの依頼とは、ここのソの部分を直して欲しいとのことだった。

 しかし、この七人の中でピアノを修復することができる人物はいるのだろうか。


「それはいいとして、この中にその修復を可能とする人物がいらっしゃると?」


 赤城の問いに、可憐を除いた六人は全員周りを見渡す。隆、可憐、美沙、昇龍、シャルロット、赤城、加賀。この中にいなければこの依頼をこなすことはできず、解決することもできない。それを知っていても誰も手を上げない。なぜなら、その場の誰もピアノを修復したことがないのだから。


「イマース!!」


「誰のこと言ってるの?」


 美沙がそれを問う。しばらく沈黙が続き――

 ドーンッ!! ピアノは過去最大にでかい音を校舎に響き渡らせた。その音で可憐は小さく悲鳴を上げた。ピアノは全ての鍵盤を押し、その答えを言った。


「あなたデース! ミス江南!!」


「え!!?? わ、私っ!!??」


 ピアノの出した答えは美沙だった。

☆東條隆 南館四階 音楽室

☆東條シャルロット 南館四階 音楽室

☆江南美沙 南館四階 音楽室

☆昇龍妃 南館四階 音楽室

☆紫可憐 南館四階 音楽室

☆赤城 南館四階 音楽室

☆加賀 南館四階 音楽室


天空城空 不明

??? 不明


七不思議怪異四つ解決(残り三つ)

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