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冥府への誘いなんだが?

 鏡の中から伸びるおぞましい手からは腕が見え始めた。その腕はさらに伸び、人間の腕の長さよりも遥かに長い、まさに妖怪のような腕。恐怖で動くことができないシャルロットの右脚をあとができるくらいにまで力強く握りしめる。


「……え……?」


 その瞬間、腕は思いっきり鏡の中に戻っていく。シャルロットは体勢を崩し、転倒する間も無く鏡の中に腕と共に引き摺り込まれる。


「きゃあああああああっ!!」


 大きな悲鳴をあげるが、もう顔までもが鏡の中に入り込む寸前。鏡には何も映っていない。そんな鏡の中から禍々(まがまが)しい腕が生え、引き()り込んでいった。鏡の生やす腕はかなり強力な力。抵抗することすら叶わなかった。

 そしてシャルロットの顔は鏡の中に消えていった。


 ――しかし、シャルロットもまたチート級の力を待つ。そう、隆がロジカルファンタジーで育成したパラメーターの振り分け値は物理攻撃、魔法攻撃、物理防御、魔法防御、速度、幸運。何もかもを全振り9999(エンドレスナイン)に育成している。重課金者の隆の貢ぎ方は、現実でのシャルロットの強さを意味していた。


「くっ……!!」


 シャルロットはかろうじて右手で鏡の(ふち)を鏡の中から外側へと掴む。それおかげで禍々しい腕には対抗できた。顔を下に向けると、底なき暗闇。暗がりの中で何かが渦を巻いていた。そこはおそらく、冥府(めいふ)へと入り口。

 禍々しい腕はシャルロットを冥府へと連れて行こうとしていた。


「落ちなさいよ! あっちの世界はいいところよ!」


「ぐうっ……!!」


 さらに腕の力は増し、力強く引っ張り出す。シャルロットは片手で頑張って縁にしがみついているが、どんどん位置がずれていく。鏡の内側へ……鏡の内側へ……でももう限界だった。


「誰かあああああああ!! 助けてえええええええ!!」


「助けなんてどうせ来ないわ。人は誰だって自分が可愛いんだから〜。そう、鏡に映るようにねっ!」


 さらに引っ張り上げる。脚も痛いし、手も痛い。今にも滑りそう。滑れば落ちる。手を離せばこの痛みや恐怖心から解放されるのではないだろうか。頭の中にそんな悪魔の(ささや)き聞こえる。

 だが、シャルロットの決意はそれに勝らなかった。


(私はここで死ぬわけにはいかない! 隆さんが私を待っているんだから!)


 さらに強くしがみつき、なんとか(こら)えようとした。非常に強力な力の相手の腕から逃げる事は厳しい。だけど、諦めたくはない。その一心でしがみつく。


小癪(こしゃく)な……!! こっちに来なさいよ……!! さあ……さあさあさあさあ……!!」


「ぐっ……!! ううっ……!!」


 禍々しい腕は伸び縮みし、子供が(ひも)を何度も引っ張るようにシャルロットの足を引っ張ろうとする。もう、千切れそうなくらいに痛い。あと何回引っ張られたらこの脚は引き千切れてしまうのだろうか。そんな恐怖でもういっぱいだった。


「その手を離しなさいよっ……!! きっと楽になれるわ〜!! あっはははははははっ……!!」


 魔女のような笑い声が腕のさらに奥から聞こえる。その姿は見えないが、笑っている顔をしていることだけはわかる。指は窓の縁から一本一本離れていき、残ったのは中指と薬指。下手に他の指でまた掴もうとすれば、落ちてしまうからそれはできない。


(ごめんなさい、隆さん。私、ここまでみたいです……夏祭り、行きたかったな……)


 いくらチートに育成されているシャルロットですら、七不思議怪異には勝てない。ここでの生活もいいものだ思った。ゲームの世界でしか生きてこられなかった彼女にとって、現実での生活はとても充実していた。たくさん友達もできたし、いろんな体験もできて楽しかった。何より、自分のことを好いてくれる隆と一緒に暮らし、学校に行ったのが一番の思い出。

 でも、心残りはある。隆は約束した。夏休み、祭りにシャルロットを連れていくと。隆は約束は守る男。ずっとそれを楽しみにしていた。しかし、それはもう叶いそうにない。

 ここで私は消えるのだから。


 シャルロットはもう、消え去る準備をしていた。



「赤城ちゃんっ!! 加賀ちゃんっ!! 走って……!!」


「はいっ!!」


「了解っ!!」


 その時だった。外から三人の声と走る音が聞こえてくる。一人は聞き覚えのある声。もう二人はわからない。それでも、こちらに向かってくる。

 すると、最初に一番近くに来た音は止まると同時に鏡の中に腕を突っ込み、シャルロットの右腕を掴み取る。その腕は細く、白い肌だった。


「ふっ!!」


 シャルロットの腕を必死に引っ張り上げようとする。それは加賀だった。加賀の力は自分よりも何倍も重いモーニングスターを軽々と持ち上げれるほど尋常じゃない。そのため、シャルロットを引っ張るのは容易なことだった。シャルロットの腕は鏡から引っ張り上げられるが、それ以上は引っ張ることができない。それほどまでに禍々しい腕は強力なのだ。


「な、何事っ……!? いいわ……! あんたもろとも、冥界へ案内してあげるわ……!」


 鏡は驚いたが、それ以上にシャルロットの腕を掴む加賀も引き摺り込もうとしていた。加賀は少しは怯えたが、彼女また、正義を愛する一人。負けるわけにはいかなかった。


「助太刀します!」


 すると、女子トイレからさらにもう一人入ってくる。赤城だ。赤城は加賀の腹部に手を回し、力一杯引っ張り上げる。赤城は管理局の中でも小柄な方だが、力がある。だから加勢には十分だった。


「く、くそっ……! まだだ……! まだだあああああああっ……!!」


 その証拠にどんどんとシャルロットの姿が出てくる。シャルロットの顔と体が現れ、もう少し。二人は気合で頑張った。絶対に離すわけにはいかない……! 管理局の名にかけて……!!


「どっりゃあああああああっ……!!」


 その時、加賀の渾身の一撃を出した。今出せる最大の力を腕に注ぎ込み、シャルロットを思いっきり引っ張り上げた。

 そして――


「うっ……!」


「うわあ……!」


 シャルロットは無事に鏡の外に飛び出し、床に倒れる。二人はその反動で同時に転んだ。


 その瞬間、さらにもう一人の人物が女子トイレに入って入ってくる。


「ふんっ……!!」


 空中に浮遊。そして右足を上げ、回し蹴りを繰り出す。狙う先は先ほどの鏡。腕は引っ張るので疲れたのかもう引っ込んでいた。バリン!と激しい音が女子トイレに響き渡り、ガラスが飛び散る。


「あああああああっ……!!」


 それだけ言い残し、鏡は歪んで消えていった。飛び散った鏡の破片も床に落ちることなく、空中で消失する。そこには最初から鏡などなかったかのように跡形もなくなっていた。

 そのかわり、消えると同時に何かが床に落ちる。青色の勾玉。それを昇龍は不思議に思うことなく、ポケットに入れた。これが何かを示すことは予想はついていたから。

 全員は息切れをし、昇龍以外は立てずにいた。


「あ、あの……どなたか存じませんが……助けてくださってありがとうございます……」


「いいっていいって。最近の鏡は人を吸い込むんだね〜。びっくりしたよ〜」


「やっぱりここ、普通の学校じゃありませんね。人体模型の次は鏡ですか」


 最初にシャルロットが大声で叫んだことで同じ南館で、さらにその真上の四階にいた昇龍たちにはそれが聞こえていた。それで三人は全力疾走をしてたどり着く。女子トイレだと分かったのは、加賀と赤城の音の探知能力。二人は日々の訓練から直径何メートルから聞こえているのかが瞬時にわかっていた。

 あとは、足の速い順から到着。加賀が一番最初に入ったのは、足が速いだけではなく、この中で一番力があり、何かあった時に一番に対応できるため。昇龍自身も二人が速いだけで脚はクラスでトップクラスに速い。かつて隆もアスリート並みと恐れていたほどに。そのため、この三人の足が速くなければ、もっと悲惨なことになっていたかもしれない。


「とりあえず、場所を変えよう。一階には確か、保健室もあったし」


 昇龍の言葉に一同は立ち上がり、保健室へと場所を移すことにした。これで七不思議怪異の残る数は三体となった。隆たちは無事に解決することができるのだろうか。

⚫︎東條隆 南館三階 三年C組

⚫︎紫可憐 南館三階 三年C組

▲東條シャルロット 南館二階 女子トイレ

▲昇龍妃 南館二階 女子トイレ

▲赤城 南館二階 女子トイレ

▲加賀 南館二階 女子トイレ


天空城空 不明


七不思議怪異四つ解決(残り三つ)

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