魔法の鏡なんだが?
南館二階 女子トイレ
個室で一人、倒れている人物がいた。いや、違う。眠っている。彼女もまたこの七不思議の参加者。望まずして参加した一人。
もう全員の参加者が起きて探索をしているのにも関わらず、彼女が目覚めるのが最後だった。これは、何か意図があるのだろうか。
「あれ……私……」
東條シャルロット。体を起こし、扉から出ようとするが、鍵がかかっていて出られない。外からは赤くなっており、内側より施錠されていた。そのため、簡単に開けることができた。もしあの時、隆と可憐がこの場所を調べていれば、シャルロットと行動していた未来があったのかもしれない。
個室から出て周りを確認。
「学校? トイレ?」
小窓から見える景色は青色の夜空。月が見え、室内が照らされる。シャルロットが入っていた個室は二箇所ある。そのどちらもが赤くなっている。これも、室内から施錠されているということだろうか。
それとも、中に人が。
正面を向くと自分の映る鏡がある洗面所。その下は水が流れる蛇口。特に変わったない。鏡を見て、考え込む。ここはどこなのか。自分は確か寝ていたはず。
その証拠に服は寝巻き。その他には何も持っていない。何がどうなっているのかが理解できなかった。
でも、可能性があるとしたら投資業界。あの人たちならやりかねないと考える。
「ねえ、人の子?」
「え?」
どこからか声が聞こえる。周りを見渡すが誰かいるわけでもない。ラジオのようなものが流れているとも思ったが、明らかに人の声に近い綺麗な声。
シャルロットは恐怖心には耐性のある方。だからあまり怖いとは感じてはいない。それでも、不気味だとは感じていた。
「こっちこっち。あなたの目の前よ」
「目の前?」
その声は鏡から聞こえていた。若い女性のような声。でも鏡に映るのは自分の姿。それ以外は映ってはいない。
「そう、鏡の中。自己紹介しておくね。私は七不思議怪異の鏡です。よろしくね」
「は、はあ……」
状況がよく分かっていなかった。七不思議怪異? また投資業界からの刺客なのだろうか。そればかりを考えていた。なおかつ、理解ができない。鏡が喋るとかどんなファンタジーですか。と心の声が言う。
「さっそくだけど、あなたの心の中で思っている容姿を鏡で見せてあげるわ」
「容姿を……ですか」
「ええ、好きな人でもいいし、将来務める会社の社長とか。なんなら、自分の未来の姿とかでもいいわよ。鏡よ鏡って最初につけて応えてね。さあ、なんでもいいわ! 言ってちょうだい!」
シャルロットは少し考える。これは明らかな罠だと。そのくらいの考えに至ることは容易。しかし、鏡の喋る内容にも興味があった。それが本当かどうか。年頃のシャルロットにとってはどうしても気になってしまう。そのため、彼女に応えることにした。
どうしても気になることがあったから。
「それでは……鏡よ鏡」
そこから少し躊躇った。これを言って本当に大丈夫なのかと。それでも口に出すことを決心し、口が先に動いた。
「私の好きな人は誰ですか?」
すると、鏡がキラキラと輝き、鏡の中の容姿がシャルロットから隆へと変わる。鏡の中の隆は笑顔だった。そこでシャルロットは安心する。自分の好きな人は間違いなく隆さん。
それは、年頃の恋する人ならよくある話。いっときの感情で好きな人を決めているだけの上っ面な恋なのではないかと。その不安から解放され、安心に変わっていった。
たとえ隆さんが気づいていなくとも、私たちは本当は両想いなのだから。
「愛する人の顔が映ること。ああ、何と美しきことか!」
オペラのような口調で鏡は語りかける。その言葉に釣られ、もどきの顔が緩み、笑顔になる。
「さあ、続けて!」
「鏡よ鏡。私の一番の友達は誰ですか?」
シャルロットが言うと、再びキラキラと輝き、隆から容姿が変わっていく。そこに映ったのはピンク色のツインテールの少女。江南美沙。美沙もまた、笑顔で手を振っている。美沙とは確かにいつも一緒に学校に登校している。夏休みなんかはお互いの都合が合えば、美沙の家でお茶を飲んだり遊びに行ったりしている仲。
まさしくシャルロットにとっては一番と言える存在なのではないだろうか。
「今映し出されたのは友情があってこその存在! ああ、友情の尊きことか!」
「ふふっ。私たち、結構仲いいんですよ」
シャルロットは友達に話しかけるかのように鏡に笑顔で話しかける。鏡は相槌を打ち、シャルロットの言葉を返した。そこから鏡はさらに映し出す容姿を要求する。
「鏡よ鏡。私の尊敬する人は誰ですか?」
またキラキラと輝き、鏡に映る美沙の姿は輝きに消えていく。映し出されたのは母。母もまた、凛々しい顔をして映っていた。
厳密にはシャルロットの母ではない、血のつながりのない母。それでも母は、本当の親のように思ってくれていいと言ってくれて優しく接してくれている。料理や買い物は全てこなしている。隆の父が出張でいない時は、女で一つで隆の面倒を見ていたからすごいものだ。
「家のことを完璧にこなす母の鏡のような存在! そんな彼女をあなたは尊敬している! ああ、敬いの心のなんと儚きことか!」
「あははっ。でも、本当なんですよ。お母様、何でもできてすごいんです」
「では、そろそろ自分について映してみたらどうかしら?」
そう。この鏡に映るものは他の人だけではない。自分自身も映し出すことができる。それが将来的な姿でも過去の姿でも映し出せる。しかし、シャルロットは疑いを忘れてそんな鏡の言葉にどんどん引き込まれていく。
鏡の言葉に力強く頷いたのだ。
「鏡よ鏡。私の将来の姿はどんなもの?」
案の定、鏡はキラキラと輝き、母の姿は消えていく。そして映し出された。確かに映し出されてはいる。しかし、そこには何も映っていない。今の自分の容姿どころか、後ろにあるしまった個室しか映し出されていない。
「あ、あれ……?」
シャルロットは困惑していた。これが未来の姿? 私が映し出されていないってどういうこと?
「これは、紛れもなく正真正銘確定的に起こる君の未来さ」
そんな戸惑いに追い討ちをかけるかのように鏡は語る。それもさっきまでのオペラのような喋り方ではなく、かなり強く強調された言葉。その言葉にシャルロットは震えが悪寒がした。
「それって……どういうことですか……?」
「さあ。どういうことだろうね」
シャルロットの問いに対して鏡ははぐらかすかのように言ってみせる。理解ができなかった。これまでの三回の質問は全て当たっている。好きな人、仲のいい友人、尊敬する人。この三つ全てに嘘偽りはない。じゃあ、この将来の自分の姿っていうのは本当なの?
「じゃあ、次にこう聞いてくれるかな? 私を殺すのは誰。と」
「……っ!?」
その言葉はもはや狂気。さっきまでの少女の心をくすぐるようなものは感じられなかった。でも、私の姿がないのは誰かから殺されるから? それならその姿を先に把握することができて未然に防ぐとこが?それを目の前の鏡は教えてくれるのだ。
そう思うと、どうしても聞かずにはいられなかった。
「鏡よ鏡」
そこで一区切り。やはり何か嫌な予感がする。最初に感じていた。これは明らかな罠だということに。それでも、ここまで来たら――
「私を殺すのは……誰……?」
しばらくの間沈黙が続く。確かに自分は言った。いつもならこのすぐ後に鏡がキラキラと輝き、誰かの容姿が姿を表す。しかし、数秒待っても何も起きない。鏡には何も映っていないまま。
「それはね……」
鏡は遅れて声を出した。でもまた一区切り。シャルロットは目を丸くして心臓がバクバクしながら鏡を見つめる。今から映る人物が私を殺す人。そんなことがわかるなら、みないわけにはいかない。それしかもう、頭にはなかった。
「私だよっ……!!」
「……っ!?」
刹那。鏡の中から黒色の闇を持つ手が現れる。その手はだんだんとシャルロットの体に近づき始めた。
⚫︎東條隆 南館三階 廊下
⚫︎紫可憐 南館三階 廊下
▲昇龍妃 南館四階 会議室
▲赤城 南館四階 会議室
▲加賀 南館四階 会議室
東條シャルロット 南館二階 女子トイレ
天空城空 不明
七不思議怪異三つ解決(残り四つ)