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なんでもするんだが?

 しばらくすると地響きと爆発音は治った。隆と可憐は二階から三階へ階段を登ろうとしているところだった。


「収まったか。なんだったんだ」


 後の発生源は南館四階音楽室。南館二階にいる隆たちにはよく聞こえた。そんな音に涙を浮かべ、(うな)りながら必死に隆の右腕にしがみつく可憐。胸がかなり押し当てられ、隆は渋い顔をする。


「音の発生源はこの上っぽいな。天空城は移動しているかもしれないし、音の発生源を探してみるか……って、おい」


「な、何かしら……あ、あなたが、今の音が、こ、怖いと思っているでしょうから、わ、私がついていてあげるわ……」


 涙目で隆の顔を見上げる。体はすごく震えていた。だからあえてそこは突っ込まない。可憐にもプライドがあるだろう。だが、隆の体の方は限界がきていた。


「ずっと言おうと思っていたが、その……」


「何よ。はっきりしなさいよ」


 頬を膨れ上がらせ、さらに腕を引き寄せる。隆は言いたい。胸が当たっていてすごく気になると。それは、あの人体模型を倒してからずっとそうだ。

 可憐自身、少し天然なところがあるため気が付いていない。しかし、それを言った場合、また正義執行だのなんだの言って殴られるのではないかと恐れていた。


「いや、だからさ、その……体が――」


 ブーブーッ! とメッセージ音がポケットから鳴り響く。


「きゃあああああっ……!!」


「あのなあ……」


 隆の腹部に抱きつき、顔を隆の服に埋める。そんな可憐に呆れつつも、ポケットからスマホを取り出した。


(芳月学園の七不思議 光る目の肖像画:達成)


 また一つ七不思議が達成されていた。


(このメッセージは先程の爆発音の直後に聞こえた。だからこの表示と関係している可能性が高いな。そしてこれで三つ目。七不思議のうち、三つ達成されたということか)


 トイレの花子さん。真夜中に彷徨さまよう人体模型。光る目の肖像画。これで三つ。ということは残り、四つとなる。意外と順調に進んでいることに驚いていた。

 何より、人体模型以外を解決した二人は同一人物? もしくは、別の二人が解決した? そんな疑問が頭に浮かんでいた。


「い、行くわよ……!」


「はいよ」


 可憐は再び隆の腕にしがみつき、上目遣いで隆の顔を見た。その瞳には少し涙が浮かんでいる。顔も赤い。また泣いたのだろうか。



 階段を登り、三階へと進む。次は三階の探索。一人でやればもっと効率がいいのだが、腕にしがみついている可憐がいるせいで思うように歩けない。


「さっきお前さ――」


「名前で呼んで」


「紫、さっきお前さ――」


「名前で呼んでってば! 可憐! 可憐って呼んで! 親しい人はそう呼んでいるわ!」


「なんなんだよ、ほんと! 別にお前と親しくなったつもりはない!」


 隆が名前で呼ぶ異性は美沙くらい。昔からの幼馴染なら呼んでいてもおかしくはない。あとは苗字呼びか、親しくなければ◯◯リアル女と呼んでいる。そしてシャルロットのことはもどき。あだ名呼び。

 可憐がなぜ名前で呼ばせようとしているのか理解に苦しんだ。


「いいから名前で呼びなさいって!」


「はいはい。可憐さ、さっきなんでもするって言っただろ。ほんとになんでもしてくれるのか?」


「ええ、なんでもしてあげるわ。一つだけだけどね。もちろん、私にできる範囲だけど。ご奉仕してあげてもいいわ」


「ご奉仕!?」


 その言葉にびっくりする。これももちろん、何かの意図があるわけではない。ただ普通にメイドのようなことをしてあげたいと可憐は思って言っただけ。ただまあ、思春期の男子高校生に言えば、隆とはいえ少し誤解をしてしまう。


「きゃあっ!! 何おっきい声出してるのよ! びっくりさせないでよね!」


「いや、ご奉仕なんて……お前もリアル女だ。そういうことは簡単に言わず、自分をもっと大切にしたほうがいいぞ」


「あなた何言ってるの。弁当とか作ったり、洗濯をしてあげたりしてあげるってことよ。それってダメなの?」


「あ、ああ……そっちな……」


 隆は自分の考えていたことが恥ずかしくなり、顔を赤らめて目を逸らす。すると、首を傾げる可憐は隆の反応を不思議に思い、その意味を深く考える。


「そっちって、他に何か意味あるの――……っ!? バカっ!!」


「うはっ!!」


 平手打ちを喰らい、一メートル吹き飛ぶ。訓練された体は軽く人を叩いただけでも吹き飛ばす威力を持つ。


「最っ低!! 何考えてんのよ!!」


「なんでだよ! お前が誤解させるような言い方するからだろ!」


「今のどこが誤解するのよ! あなたの頭が色欲まみれなのが悪いんでしょ!」


 また始まった喧嘩。思えばさっきからずっとこの調子だ。すると、唐突可憐は周りをキョロキョロ見渡し始め、体を震わせる。その後に隆の方を向く。隆は倒れるほどの力で吹き飛ばされたため、立ち上がろうとしていた。

 そこへ駆け寄り、無言で再び腕にしがみつく。顔はなぜかドヤ顔。


「情緒不安定かよ。じゃあ、今からそれを一つ使う」


「ええ、なんでもいいわよ」


 隆は可憐に言われた時からもう決まっていた。ずっと疑問に思っていたことを聞けるチャンスだと。可憐は何をいうか予想がつかなかったため、鼻を(とが)らせて耳を傾ける。


「可憐はなんで僕を狙っているんだ」


「……」


 その一言で可憐の顔は険しい顔へと変わる。そう、あの日からずっと疑問に思っていた。何もしていないのに身に覚えのない罪を被せられ、僕を追いかけ回している。時には銃火器まで使用して。かと思えば、中身は麻酔弾。殺そうとしているわけでもない。

 それがずっとわからなかった。


「本当は僕に別のことで用事があるんだろ。犯罪者って言っているのは表上なだけ。だったらそれはなんなんだ?」


「……ごめんなさい。それだけは答えられないの」


「なんでもいいんじゃないのかよ。なんで答えられないんだ?」


 確かになんでもいいとは言った。それを答えないため、不満だった。


「それが、あなたのためだから」


「あなたのため?」


 その一言が答えだった。「あなたのため」これの意味がよくわからなかった。可憐は正義執行管理局。本来は悪を取り締まるもの。なのに、罪のない隆に対して今までの行為は隆にとっては不満ではあった。

 しかし、可憐の根は悪い奴ではない。そう思い、それ以上は聞かなかった。


「はい、この話はおしまい。他のことならなんでもいいわよ」


「お前のなんでもいいは信じれないよ」


 笑顔になり、唐突に話を切り替える。しかし、その笑顔は作り笑顔。その後ろには絶対に何かがあることは隆にはわかっていた。


「ない」


「はあ!?」


「ねえよ。お前にしてもらいたいことなんて」


「ちょ、ちょっと!? せっかくこの私がなんでもしてあげるって言うのに……!! 信じらんない!!」


 一番気になっていることが聞けない以上、それ以外に叶えたいことなんて何一つなかった。あったとしても、それは可憐にはできないこと。何より、女性に関心を持たない隆にはその問いは無に等しい。だから隆はないと答え、探索を続けた。

 可憐はそんな隆の顔を隆の腕にしがみつきながらブツクサ言っていた。

⚫︎東條隆 南館三階 廊下

⚫︎紫可憐 南館三階 廊下

昇龍妃 四階 東渡り廊下

▲赤城 北館四階 廊下

▲加賀 北館四階 廊下


天空城空 不明


七不思議怪異三つ解決(残り四つ)

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