チェックできないんだが?
南館二階 廊下
南館に入ったところで隆と可憐は一つずつ教室をチェックする。天空城の声の発生源がわからない以上、手当たり次第にチェックするしかない。と言っても、チェックしているのは隆だけ。可憐は隆の右腕にぎゅっとしがみついて隆の体から周りを少し覗いているだけ。
しかし、隆にはどうしてもチェックしずらい場所が一箇所あった。女子トイレだ。トイレの花子さんと表示されたからには女子トイレにいるかもしれない。もしかすると天空城がトイレの花子さんを倒している可能性だってある。
だから調べないわけにはいかなかった。
「なあ」
「ひいっ!? お、驚かさないでくれるかしら!?」
「いや、普通に話しかけただけなんだけど」
可憐に話しかけた途端に激しく可憐は飛び上がる。もちろん、隆が大声を出したわけではない。むしろ、さっきのような奴らに気がつかれないように小声で喋ったくらい。今の可憐はかなり敏感なのだ。
「女子トイレ入っても問題ないよな?」
「はあ!? あなたっ――!? 最っ低っ!! 失望したわっ!! 正義執行させてもらうわよ!」
「違えよっ! さっきも言っただろ! 知り合いがいるかもしれないんだ! ここが一番怪しいんだよっ!!」
可憐の所属する正義執行管理局はいかなる犯罪者も許さない。そんな可憐に対してよくも軽々と言えたもの。でも、入らないわけにもいかない。何より今は深夜の夏休み。学校のある日なら問題ではあるが、こんな事態になればそうも言っていられない。
そんな隆を可憐はさらに別の観点から疑っていた。
「そうやって言って……あなた本当は女子トイレに入りたいだけなんじゃないの!!」
「いい加減にしろ!! だったらてめえが調べてこいよ!! 僕は男です、女子トイレには入れません。なので僕は外でお待ちしていますのでどうぞ」
「いやよっ!! なんで私が一人で調べなくちゃいけないの!?」
「だってそうだろ!! 今この場には僕とお前しかいない! そして僕は男! 僕は男だから女子トイレには入るなって言いたいんだろ! だったらお前一人で行けよ!」
「うっ……」
隆は現実との区別がつくオタク。だからこそ、愛を侮辱されたと思い、怒り出す。対して可憐も今一人で行けばまた襲われるかもしれないという恐怖心から必死に言い分を考えて対抗する。
結局、可憐は言葉を詰まってしまう。
「どうした! お前、正義執行管理局なんだろ! だったら僕の友達を助けに行けよ! 僕に行けなくてお前が行けるってんだろ!!」
「うううっ……」
可憐の目からはだんだん涙が溜まっていく。鼻の啜りも聴こえ、上を向いて隆の顔を見た。そのどちらもがだんだん大きくなる。
「お、おい、お前……」
「なんでそんなこと言うのおおおおおおおっ!! 私だって女の子なんだよおおおおおおおっ!! 私を一人にしないでよ、バカあああああああっ!! うえええええええんっ!!」
可憐は大泣きして隆の腰にしがみつく。可愛らしい顔は涙でぐちゃぐちゃになり、顔を隆の服で擦り付ける。これには隆も参ってしまい、困った顔をして少し言いすぎたと感じた。
「わ、悪かった……!! 僕が言いすぎた……!! お前の気持ちを考えないでごめん……!」
「ほ、ほんと……?」
隆は人生で一番の謝罪をすると、可憐は泣き止み、隆の顔を見る。
「あ、ああ……! ほんとうにごめん……!」
可憐は頭を下に向け、顔を逸らす。
「じゃあ、頭撫でて……」
「なんで?」
「いいから撫でなさいよ、バカっ!!」
「はあ……」
隆はよくわからず、右手で可憐な頭を撫でた。女子トイレの前で頭を撫でる男女はあまりに不思議な光景。一分くらい撫でると、可憐は立ち上がり、無言で再び隆の右腕にしがみついた。
「行くわよ……!」
「へいへい」
結局女子トイレを調べることができずにその場を後にした。男子トイレも同様、隆には調べることができても女性の可憐には入れないと言い張ったので出来なかった。こんなときにまで無駄に真面目な可憐であった。
南館四階 音楽室
七不思議と言われて一番に思いつくのがこの場所。肖像画の歴代の音楽家やピアノ。普段の学校生活なら何も思うことはない。しかし、今は深夜十四時過ぎ。ここもまた、不気味でしかなかった。
ギロ……ギロギロギロ……
音楽室からは何か赤いものが動いていた。二つの赤くて丸いもの。それはぐるぐると部屋を見渡していた。
「センメツタイショウゼロ……ケイカイイジ……」
肖像画の音楽家の一人から声が聞こえる。赤色の光も彼の目が放っていた。そんな中、四階の教室の一番奥が開く。そこは、会議室。普段は生徒会や風紀委員が話の場として使う場所。そこから一人の人間が出てくる。
「……ッ!? ターゲットカクニン! センメツスル!」
その出現を肖像画は見逃さなかった。音楽室の扉は開いたまま。その存在の直前数十メートルの距離にその人物は見えていた。すると、肖像画の目がさらに赤く光り、目から無数の激しいレーザーがその人物に放たれる。
レーザーは完全にその人物だけを狙い、逃げ場がないほどに滅多撃ちかつ無作為に放つ。
「アクセル」
その人物は小さく何かを言った。それを言った途端、尋常じゃない速度で音楽室に向かって走り出す。無数のレーザーをかすりもせずに全て避け続ける。
南館二階 廊下
「な、なんだ!?」
四階 東側廊下
「ん?」
南館二階にいる隆と昇龍にはその爆発音が聞こえていた。昇龍に限っては同じ四階にいる。数メートル歩いて突き当たりを曲がれば何が起きているかがわかる距離。しかし、まだ傷が癒えずに立てなかったうえ、死角だったのでわからなかった。
レーザーの落ちた場所は爆発し、クレーターがいくつも出来ているがその人物はそれに巻き込まれることはない。
「ターゲットヒダンリツゼロ! シャゲキタイプヘンコウ!」
肖像画は目にさっきの何倍もの赤色の光を貯める。その人物の距離はすでに五メートルにまで縮まっていた。そのため、無作為に撃つのをやめ、一箇所に集中して狙う。そこは音楽室の入り口。その人物が音楽室に入ると同時に仕留める気だ。
直後、ドカアアアンッとものすごい音が音楽室どころか館内に響き渡る。肖像画が放ったレーザーの爆発音だ。一気に煙が四階に充満。音楽室は煙で何も見えないくらいにまで広がっていた。音楽室はその肖像画とピアノを除いた何もかもが粉々にされていた。
この一撃ならば確実に仕留めれたはず。そう思い、肖像画はギロギロと周りを警戒する。しかし、肖像画も煙のせいでその人物を探知できていない。とはいえ、これだけの爆発なら撃破したに決まっているので探知するだけ無駄。
「じゃあね」
「――ッナ!?」
その人物は飛び上がり、肖像画に銃口を向け、発射した。バンと小さな音が音楽室に響く。肖像画はその人物の手にいつの間にか持っていた銃で青色の弾丸を受け、肖像画はみるみるうちに歪み、消滅した。そこからオレンジ色の勾玉が落ちる。
その人物はそれを手に取り、ポケットに入れる。
爆風が止むと、彼はその姿を表した。彼の着ている服はこの学校の服装。この時間に学生服を着ているのは違和感がある。その人物の手には肖像画を撃ち抜いた銃。右手の親指をポケットに突っ込み、視線を天井に向ける。
「今行くよ、隆」
それだけ言い残すとその場を後にした。
⚫︎東條隆 南館二階 廊下
⚫︎紫可憐 南館二階 廊下
昇龍妃 四階 東渡り廊下
▲赤城 南館四階 東廊下
▲加賀 南館四階 東廊下
天空城空 不明
??? 北館四階 音楽室
七不思議怪異三つ解決(残り四つ)