生々しいんだが?
北館一階 玄関前
隆はその場でぼーっとしていた。何かを考えていたわけでも、足がすくんで動けないわけでもない。ただ意味もなく、ぼーっとしていた。
「いやあああああああっ……!!」
「……っ!? この声は……!?」
そんな時に聞き覚えのある声を聞いた。天空城の声。しかし、それはほぼ小声に近い声。隆から天空城までの距離はかなりある。北館一階と南館三階ではよほど大声を出さなければ聞こえないくらい。
つまり、大声を出すほどの出来事があったということ。
そして今この学校に閉じ込められているのは一人ではないということを知らせていた。
「ん?」
今度はブーブーッ!と着信音が鳴る。スマホを取り出して確認する。
(芳月学園の七不思議 トイレの花子さん:達成)
初めて見る文の形。副業ではないのはわかる。七不思議? トイレの花子さん? 訳が分からなかった。
「トイレの花子さん?」
(トイレの花子さんって確か、学校の七不思議とかに昔からある代表的なやつだ。手前から順番にノックをして、最後のトイレにノックをするとおかっぱのリアル女が姿を表すとかいうやつだよな。あれ? 七不思議……?)
七不思議という言葉に引っかかる。もしやこれは実際の七不思議をなぞっているのではないだろうか。
なんらかの方法で七不思議を一つずつ解決していくのがこの学校から抜け出す鍵になる。そして今、その一つが達成された。よくわからないが、解決すればいい訳だ。
しばらく考えて、隆は声のする方向へ走り出した。しかし、どこから声がしたかがわからない。方向的に南館ということはわかる。そして一階ではない。この学校は北館南館、それぞれ四階建て。
そのため隆はまず、階段に登ることにした。
北館四階 理科室
ここにもまた、人がいた。少女が二人。
「ううっ……」
「ここは……」
正義執行管理局ナンバーツー、赤城と同じくナンバースリー、加賀。二人はそれぞれ、赤色と緑色の服を着た寝巻きで起き上がる。
「どこだ、ここ」
「学校……のようですね」
二人はこの場所に見覚えがなかった。
「あれ? 私、ちゃんと寝た気がするんだけどなあ」
「同じく」
彼女たちも任務を終え、寝ようとベッドに入り、就寝をした。そして目が覚めれば学校。頭の中が追いついていなかった。しばらく沈黙が続く。
すると、真顔で加賀は赤城のことを見つめた。
「どうしました? 加賀」
「私、わかったよ」
「何がです?」
いつになく真剣な加賀。赤城はそんな加賀は初めてみたため、不信感を抱く。何より少し怖かった。
ずっと加賀は赤城のルビー色の瞳を見つめているだけ。何がどうなっているのか。
「これって、私の夢なんだよ」
「え? ――きゃあっ!」
加賀は赤城を押し倒し、床に両腕をついた。その間には赤城の顔。赤城は何が何だか分からなくて、戸惑っている。
「ちょっと加賀、どうしたんですか!?」
「だから私の夢なんだよ。あなたは赤城だけど私の夢の中の赤城。深夜の学校に女の子二人……最高のシュチュエーション……」
加賀は自分の服のボタンを一つずつ外していく。全部外れ、お腹や成長期の真っ最中の胸が露わになる。加賀の顔はだんだんとろけそうなくらいに変わっていき、息遣いも荒くなっていった。
すると腰を下ろして馬乗りになり、今度は赤城のボタンにも手をかける。
「さあ……赤城のその白い肌を私に見せて……にっへへへへへへ……」
「加賀、や、やめっ……! こんなところ、誰かに見られたら……」
加賀は赤城の寝巻きのボタンを全て取る。赤城もまた、色々な部分が露わになる。
「誰も来ないよ……だってこれは私の夢の中の世界……私と赤城以外はいない……そして夢の中だから赤城をたくさん可愛がられる……」
加賀は本当に夢の中だと思っている。もちろん、そんなことはない。何事もあまりの非現実的なことを説明できるのが簡単な話、夢という言葉で終わらせられることができる。そう思い、夢の中ならなんでもしていいという思考に至っていた。
赤城の目は潤んで涙を少し流していた。よほど恥ずかしかったのだろう。
「赤城って、ここが敏感なんだ……」
「ちょ、加賀、やめ――ああんっ!!」
人差し指で赤城の小さな胸の谷間をなぞっていく。赤城は声を漏らすが、それがさらに加賀の興奮をそそり立たせる。
そこからさらに指を下に下ろして、赤城のおへそをなぞることを思いついた。
「可愛い声出しちゃって……じゃあ、下らへんもいっちゃうね……」
「はぁ……はぁ……や、優しくしてね……」
赤城もなぜか満更でもない返事をして加賀と赤城はお互い顔を赤らめる。指先をだんだん下に下ろしていく。
これが百合の境地。夜の学校とは確かにシュチュエーション的にはバッチリだろう。普通に百合小説にあっても不思議じゃない。その点、この場に感謝するべきか。
しかし、冥府の住人たちはそんなことで彼女二人を呼んだのではない。
「あっらあ〜。可愛いお嬢ちゃんが二人っ! どっちの体も捨てがたいわあ〜!」
「「え?」」
その声で二人同時に声のする方向を向いた。身長は百六十センチほど。右側が筋肉がむき出しになっており、体は何本もの骨がある。その中にはたくさんの臓器。まるで人のように鼓動を鳴らして動いている。
左側だけ生身の人間のような中途半端な格好。目は開眼し、髪の毛も生えている。
よく、理科室に置いてあるような人体模型そのもの。
そしてこの部屋は理科室にあたる場所。そう、人体模型が置いてある場所だ。
「どっちをいただいちゃおうかしら? どっちの体も魅力的で捨てがたいわ!」
人体模型はオネエのようにクネクネとする。口調もオネエ。声は明らかに人体模型から聞こえてくる。
赤城と加賀は恐怖と気持ちの悪さに震えが止まらず、その場を動けずにいた。
「まあ、どっちでもいいか! それじゃあ、そこの青い髪の子、いただきまあああああすっ!!」
人体模型はスポーツ選手のような走り方をして、加賀に狙いを定めて走り出す。手の動きや足のフォームはまさしく、選手そのもの。いや、そんなことを言っている場合ではない。
赤城の上にいる加賀は馬乗り状態で動くことができない。
赤城は加賀が馬乗りしているから自分自身が動けないのもあったが、それ以上に加賀を救いたかった。
「あふん……! ……え?」
赤城は起き上がり、加賀を思いっきり横に突き飛ばした。加賀もなぜ赤城が助けたのかよく分からなかった。赤城と加賀はいつもペアで仕事をこなしていることが多かった。管理局で一番のコンビでチームワークもピカイチ。
赤城は元気がない時や任務がうまくいかない時など、何度も加賀に助けられてきた。だからこそ、最後くらいは恩を返したいと思った。
すると、人体模型は最初は飛んでいく加賀を見ていたが、その標的はすぐさま赤城に向けられた。加賀が退いたことで、赤城の体は走ってくる人体模型の正面にあった。
「あら!? あなたもよく見たらいい体してるじゃない! あなたに決めたわあああああっ!!」
「赤城っ……!?」
「くっ……!!」
加賀の声で赤城は目を瞑る。今の赤城と加賀には武器はない。体術は可憐ほどではないが、二人とも覚えている。それでも今は体が思うように動かなかった。
――その時だった。
バンッ!!と銃声のなる音。それは人体模型の顔にあたった。それは、理科室の入り口から放たれた銃。赤城と加賀はそれに気がつき、一斉に振り向く。
「私の可愛い部下に、何してくれてんのよっ!!」
「「可憐っ!!」」
正義執行管理局局長、紫可憐だった。彼女もまた、今回の七不思議の参加者なのだ。手にはハンドガンを持ち、狙い通り打ち込んだ。そして標的を思いっきり睨みつける。
「ん? 何かした?」
ギギギっと顔だけが音を鳴らして可憐の方へ向く。可憐はそれを見て少し表情が崩れた。何より先程の弾丸は確かに命中したが、人体模型には傷一つついてはいなかった。
「せ、正義……し、執行……か、かかか、管理局……む、紫……可憐がお相手しま――」
「あらやだ、ちょっと待って! あなたもよく見たらいい体してるじゃなああい! きゃあ〜! ちょ〜イカス〜! 私決めたわ! あんたの体をいただくことにっ!!」
人体模型は体制を整え、再び走り出した。ターゲットは可憐。心臓をむき出しにしながら全速力で走り出す。他の臓器も生々しく動いており、人体模型の表情はひとつも変わらず無表情で追いかけ続ける。
「いやあああああああっ!!!!」
その声で可憐はものすごい速度で理科室を後にした。しかし、人体模型も負けずと追いかける。人類最強の少女の全速力と謎の人体模型の追いかけっこが始まった。
「……」
「……」
そんなやりとりを真顔で見ている二人。
「可憐って……意外と怖がりなんですね」
「あの怖いもの無しと恐れられていた可憐が……これは局でスクープとして出せそうだ」
最強の少女はたとえ相手がギャングだろうがマフィアだろうが一切の恐怖はない。そんな彼女にも実は怖いものがあったのだと二人は驚きを隠さずにいた。
どうやら加賀はこのことを管理局の情報部に流して局の掲示板に載せようと考えていた。
「ここにいてはまたあの人体模型が追いかけてくるかもしれないので場所を変えましょう」
「う、うん……でも、私から離れちゃいやだよ……」
「加賀のことは……その……私が守りますので……」
二人は顔を赤らめていた。二人はボタンの外れた服を整える。そして理科室を後にするのだった。
東條隆 北館ニ階 西階段
▲赤城 北館四階 廊下
▲加賀 北館四階 廊下
紫可憐 不明
天空城空 不明
七不思議怪異一つ解決(残り六つ)