学校の七不思議なんだが?
八月一日。
皆さんは幽霊や怪異を信じますか? 科学的には証明不能な存在。夏のお盆の季節になると、日本では霊が帰ってくると言われております。中にはこの世に未練や恨みがあり、成仏できずに彷徨うものもおります。
幽霊が出てくるときのお決まりの言葉、「うらめしや」なんてまさしくそれを指しています。
他人事だと思っていますよね。では、それを直接自分の目で見たらあなたは信じることが出来ますか?
ほら、あなたのすぐ後ろに……
「あれ……ここは……」
目を擦り、周りを見る隆。教室の後ろに片づけられた机。室内は薄暗く、人型の置物の影が伸びている。外には窓があり、そこから見える景色は庭園。空を見れば月が見え、暗い青色の輝きを放っていた。
「今何時だ……?」
寝ぼけ気味の隆はポケットにスマホがあると思い、取り出す。ホームボタンを押した。
「ええ……? 八月一日……一時四十七分……? 圏外って……」
一時四十七分。午後の一時ではない。午前の一時。隆は自分が覚えている最後の記憶を思い出した。
夏休みに入ったことで引きこもり生活を満喫。そんな日々が続き、六日目。気がついたらいつも通りベッドの中に入り、寝ていた。ただそれだけ。
本当にそれしか覚えてはいなかった。
「どうなってるんだ、こりゃ……」
頭を掻きながら混乱していた。隆はいくら引きこもりとはいえ、そこらへんの感覚は狂わない引きこもりが隆。というか、この場所自体見覚えがないわけでもなかった。
ここは、隆たちの通う学校、芳月学園の美術室。北館一階にある。よく美術の授業でも使う場所。デッサン用の銅像が置かれているが、夜に見ると不気味そのもの。
訳がわからないまま、自然と体は入り口の方へ向かっていった。扉に手をかけ、ここから出ようとする。
「あれ?」
ガチャガチャと音が鳴るだけで開かない。施錠されている? 中に人がいるのに? もう片方の後ろの扉にも手をかけるが同じだった。
「どうなってるんだよ……」
ちなみに、隆は確認していないが、窓も施錠されている。窓は室内からのロックで施錠できるが、室内からのロック自体が解除できないようになっている。今、隆の目の前にある扉と同じ。
そんな時、スマホから音がある。この音はメッセージを受信した音。取り出し、中身を確認。
(芳月学園の七不思議全てを解決し、脱出する:100000円)
「七不思議? ていうか、報酬やば……」
これが副業だということはわかるが、七不思議ってなんだ? 脱出というのもよくわからない。この部屋から脱出ということ? これはいわば脱出ゲーム?
そんなことを隆は考えていたが、その直後、もう一通メッセージが届く。
(挑戦を受理する。また、受理すれば参加者全員の全ての室内ロックを解除:10円)
「なんなんだよ、ほんと……」
わけのわかない内容が続いた。だが隆に拒否権はない。受理しなければ隆の選択はいつも通り死を意味する。何が待ち受けているのかはわからないが、とりあえずやるしかなかった。
受理というのが明確にどうすれば受理になるのか書かれていないため、上を向いて叫んだ。
「おい! 聞こえてるいるんだろ、投資業界! どうせまた、お前らの仕業なんだろ! やるよ! やればいいんだろ! どうせ僕に拒否権がないくせによお!!」
その言葉でスマホから再び音が鳴り、副業達成の文字。そこでさっきの文章を隆はもう一度読み直す。
「ロック解除ってことは扉が開くってことか?」
独り言を呟き、少し考えたが扉に手をかけた。扉はスライド式。横に引くが、先ほどと同様に開かない。隆はやけになり、両手を扉の銀の部分に当て、力一杯引いた。
「ふんっ……!! ふんっ……!! うおおおおっ……!!」
しかしまだ開かない。いくら引きこもりの隆とはいえ、決して隆が非力というわけではない。それでもまだ開かない。少し苛立ち、さらに力が込められる。
「だあああああっ……!! う、うわあっ……!! ――いってえええええええっ……!!」
カチッと扉から音が鳴り、突然開いた。しかし、力を込め過ぎたせいで勢いよく扉が開き、指を扉の隙間に挟んだ。全力でやった末、ダメージを受けている。なんと可哀想なことか。
室内を転げ、パニックになること数分。痛みが引いていき、廊下へ出る。
「うっわ……」
廊下は暗闇そのもの。非常ベルの赤いランプが唯一光っているだけ。スマホの光を頼りに、いつも自分たちが出入りしている北館の出口へと進むことにした。
特に変わった様子もなく、直進して下駄箱にたどり着くことが出来た。玄関は当然のことながらつまみで施錠されている。つまみを回そうとするが、これもまた動かない。さっきのような力任せで開くのではないかと思い、再び力を入れるが回ることはない。
道中あった体育館へと繋がる扉も同じ仕組み。
閉じ込められているな、これは。
そう確信し、壁にもたれかかって大きくため息をついた。少し休んでから動くことにしたのだ。
同時刻。
天空城空もまた、わけがわからず学校にいた。彼女がいたのは南館三階、三年D組。目が覚めたら教室にいた。お腹が冷え、トイレに行く。
個室に入ろうとするが、赤く施錠されている。
「誰かいますか?」
ノックをするが、反応はない。ノックの回数は三回。彼女は状況がよくわかっていないのもあるが、比較的落ち着いていた。個室は全部で三つ。一つ目は返事がない。しかし内側から施錠されている。謎だと思いつつも、奥へと進む。
「誰かいますか?」
ノックをするが、返事はない。こちらも先程同様、内側から施錠。彼女はこの学校の風紀委員会。設備の点検も学校のある日は毎日しているが、夏休みに入る前には施錠の故障はないはず。こんなことは初めてだ。
天空城はさらに奥に進んだ。
「誰かいますか?」
「……」
やはり、返事はない。そして内側から施錠。もうここはダメだと思い、別のところを探そうとしたその時――
「はい」
小さな少女の声。それを聴き、少し安心した。しかし、ここは高校。その声は小学生のような幼い声。それでも今のこの状況を何か知っている人物なのだはないかという安心と、個室に人がいたという二つの安心でホッとした。
個室の施錠の赤色は青色に変わり、少しずつ開いていく。
「……え?」
天空城はその動作に不気味に感じた。ギギッと小さく音が鳴り、少しずつ開かれていく。何より、施錠を解除するには手をかけなければ不可能。もちろん、自動ドアではない。それは天空城自身が一番よくわかっている。
しかし、隙間から見える間には手はかけられてはいなかった。
天空城の目の前には赤い吊りスカートを履き、白いワイシャツを着たおかっぱ頭の女の子が便座に座っていた。目はガン開きで赤く、血を流している。
「いやあああああああっ……!!」
天空城は大きく悲鳴をあげ、あまりの恐怖で開いた扉を勢いよく手で押しこんだ。ものすごい速度で力強い。扉の立て付けは壊れ、百八十度しか動かない扉が三百五十度に曲がった。さすがは合気道七段。
「ううっ……!!」
中から少女の声が聞こえた。扉に足が挟まり、少女は小さく悲鳴を上げた。
「あ、あれ……? ご、ごめんなさい……!! 驚いてしまって……え?」
反射的にやってしまったことを謝り、扉をゆっくり開いた。しかし、中には誰もいなかった。
本来ならば彼女はトイレの花子さんとして来た相手を冥府へと引き摺り込ませる役だったのだが、来た相手が天空城となれば運の尽き。そのまま押しつぶされて消滅した。
そして花子さんに変わり、個室には赤色の勾玉が一つ置かれていた。大きさは八センチほどの手に収まる大きさ。
「これは……?」
誰かの落とし物だろうとポケットにそれを入れた。さっきいた少女は幻。天空城はこの頃、夏休みという長期期間を活かして武道に励んでいる。その疲れが出たのだろう。
そう思い、その場を後にした。
東條隆 北館一階 玄関前
天空城空 南館三階 女子トイレ
七不思議怪異一つ解決(残り六つ)