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愛に生きる男の強さなんだが?

 隆は可憐の拳により意識を失っていた。

 美沙はその上で必死に名前を呼び、隆を起こそうとする。息はある。しかし隆は一向に起きず、目を(つむ)ったまま動かない。そんな隆の様子を、ヒーローショーを見にきていた子供たちは悲しそうに見つめていた。

 今の子供達にとって、マジカヨレッドという存在より、隆を応援していた。しかし、その隆がやられ、悪である怪獣こと可憐が立っている。「正義は必ず勝つ」という概念が(くつがえ)された絶望がのしかかる。


 そしてその可憐は隆たちから少し距離を置き、隆を憐れんだ瞳で見ていた。


(残念です。あなたはもう少しやってくれる男だと思っていたのですが)


 可憐もまた、何を考えているか分からない。怪獣の着ぐるみを着ているから顔は隠れている。だがそういう意味ではない。隆を見つけては攻撃を毎回している。この女は何がしたいのか。


 そしてその部下である加賀も苦笑いで隆と可憐を交互に見ていた。加賀もまたいやらしい考えを持っていた。司会である加賀自身が「マジカヨレッド助けてー」と子供達に言えばこの場は収まるというものの、彼女はそれをしない。そもそもの話、この場は魔法少女マジカヨの舞台なのである。


(東條隆。あんたまだやれるでしょ。可憐はひ弱なあんたは求めていない。あの力を出すのを可憐は待ってるにえ)


 加賀がマジカヨレッドを呼ばない限り、助けなんて来ない。子供達の不安な顔は晴れない。それでもまだ呼ばない。それは、彼女は隆に期待感を持っているからだ。



「はあ……つまらないです。とはいえ、東條隆の沈黙は確認した。あとはやつを本部にでも連れて行って――……っ!?」


 可憐は誰にも聞こえない声で独り言を言っていた。しかし、そんな思考は一瞬にして(さえぎ)られた。いつのまにか目の前には脚が風にのって飛んできていた。さらには今の今まで床に倒れていた隆の姿はそこにはない。なら起き上がって地上にいるのか?

 それも違う。隆は空中に浮いていた。さらにそこから右足で可憐の胸部に狙いを定めて蹴りを入れた。

 本当に一瞬の出来事で、その場の全員が視界に確かに入っていたが、あまりの速さゆえに思考と判断が誰一人として追いつかない。

 だが可憐もプロ。反射神経は人より何倍もある。そのため左脚で強力な蹴りを入れてぶつけた。浮遊している隆が狙うのは胸部。そのため、可憐は上段蹴りを入れて対抗した。


 隆は復帰の速さだけではなく、威力も強力だった。この光景は前にも見たことがある。蘭壽との対決時も謎の力が働いて、驚異の判断力や鳥のように飛ぶ浮遊力、そしてプロボクサーを超えるほどの強力な一撃。

 蘭壽の時といい、今回の可憐の時といい、隆のこの覚醒状態のようなものになる場合は共通点があった。


 極限状態に追い込まれた時。

 何かを守りたいと思う意思。


 この二つが彼のトリガーとなっているのだ。


 二人の蹴りの間には、バチバチと稲妻が現れる。風は隆ら二人を中心に引き寄せるほどに巻き上がる。


「す、すごい……これが東條隆の本当の力……」


「うっ……!」


 美沙や子供達は風に耐えながら戦いを見守る。それは台風のように強力な風で頭上のセットはガタガタと揺れ、外の石粒や砂は舞い上がっていた。

 そんな中、加賀は一人意味深な発言をしていた。


 その瞬間、会場全体を包むほどの眩い光が。発生源は二人のぶつかる脚。そこからフラッシュのような発生し、その場の全員が目を(つむ)る。

 隆の体に何が起きているのかは誰も理解していない。それは隆すらも。ひょっとすると隆は人智を超えたなんらかの能力を持っているのかもしれない。


 二人はこのままでは(らち)があかないと思い、お互いに数メートル後ろに引いた。


「それです……! それなのですよ、私の求めている力は……! やっぱり、私の思った通りだ……!」


「僕は僕のためと僕の守りたいもののために戦う。何を言っているのかは分からないが、お前の言いなりにはならない」


 なぜか興奮気味の可憐に対し、隆はいつもの数倍冷静だった。隆の目は今までで見たことのないほどの眼光。それは美沙を守ると決意した目。そんな隆の目を見て可憐は少し笑っていた。馬鹿にしているわけではない。別の思惑が想像通り働いて笑っているように見える。


「その決意、とても心地のいいものです……! さあかかってきなさい、東條隆……!!」


 そう言って可憐は隆に向かって走り出した。隆も可憐に向かって走り出す。そこからお互い目に見えぬ速度で拳で突き、蹴りを入れた。


「ふっ……!!」


「はあ……!!」


 隆が突きを入れれば可憐は避け、可憐が蹴りを入れれば隆は避ける。お互い(かす)りはするものの、直撃はしない。全て紙一重で避けている。


「す、すごい……お兄ちゃんってあんなに強かったんだ……」


「がんばれ!! 怪獣やっつけてー!」


「いけー! 倒してー!!」


「すごい……! 先ほどまで倒れたいた男が白熱の戦いを見せているぞ……! これが愛に生きる男の強さなのか……!」


 子供たちも戦った。隆を応援して援護している。加賀は司会を続け、実況をしている。しかし、可憐はその声で攻撃を止めるはずもなく、狙い続ける。どれだけ周りから敵だと思われようと、彼女には隆を連れていかなければいけない理由がある。そのためにここで負けるわけにはいかない。

 ――そして、その時が来た。


「はああああ!!」


「ぐっ……!!」


 可憐の前蹴りがたかしの腹部に直撃。隆は宙に舞い上がる。それだけでも隆にはかなりのダメージのはず。それでも可憐は確実性を上げるために更なる攻撃を仕掛けた。隆を蹴り上げた高さは約五メートル。それだけでもあり得ないほどの力。

 可憐はその高さを超える八メートルを飛び上がる。さらに右足の(かかと)を空中であげ、隆の背中めがけて叩きつける。


「はああああっ……!!」


「ぐはっ……!!」


 上空から二人が落ちてきて一人は叩き潰され、一人は相手の背中に脚を乗せていた。


「はあ……はあ……はあ……手こずらせてくれるじゃありませんか……」


 可憐は隆の背中に叩きつけた右足をどかして息を荒くする。数歩歩き、隆の目の前にきた。

 もう彼に立ち上がる力は残っていない。可憐の最後の一撃がなければまだ可能性はあったが、声を出すことも厳しいのが現状だった。

 だからもうとどめを刺す必要もない。


「お兄ちゃん……!! もう少しだよ……!! もう少しであいつを倒されるんだよ……!!」


 美沙が声をかけている。聞こえていないわけではいない。それでも起き上がることができないくらいダメージを負っていた。

 しかし、美沙だけが味方ではなかった。


「がんばれえええええ!!」


「負けないでえええええ!!」


 子供達だ。子供達は倒れている隆を見てもまだ応援を続けた。「正義は必ず勝つ」その意思を隆にも繋いでほしいという思い。たくさんの声。たくさんの応援。全てが隆の耳に届いていく……! 心に響いていく……!


「子供達の温かい応援が一人の青年の心を動かしつつある……! これは私も応援せざる終えない……! がんばれえええ、東條隆ーーー!!」


 敵であるはずの加賀ですら隆を本気で応援していた。子供達の声に彼女の心も揺らいだのだろう。そして彼女はふと思った。

 今の可憐に攻撃できるのは東條隆だけではない。私もじゃん……!!と。


「というか、あの怪獣……いや、この際本名で言わせてもらおう! 紫可憐はなぜ彼氏ができないのか……! 年齢(イコール)彼氏いない歴は何故今この一分一秒コンマで更新されつつあるのか……!」


「加賀っ!! あんたいい加減にしないと――」


 可憐は加賀に怒鳴り始めた。それでも加賀は可憐への攻撃をやめなかった。このまま黙っていれば可憐は勝てたものを……


「その一端が私は今わかった気がする……それはズバリ、大人気なさだあああ!! 自分より年下の男をボコボコにし、子供たちの応援すらも(ないがし)ろにする! 大人気ない! 実に大人気ない! こんなんだから彼氏が生まれてこの方一度もできたことがないということなのかあああああっ!!」


「加賀あああああっ!! あんたいい加減にしなさあああああいっ!! 今晩の夜ご飯は全部抜きにしてあげるわあああっ!! ……っ!?」


 ドオオオオンっ!!とものすごい音が響き渡る。可憐の腹部に隆の拳が一突き。可憐は加賀に気を取られ、怒りのあまり判断力が鈍っていて気配に気がつくことができなかった。その突きで十メートル以上吹き飛んだ。


「ぐうっ……!! ぐはっ……!!」


 可憐はそのまま倒れて動かなくなった。隆は本来なら動かなかったはず。それは、美沙や子供達から応援として受け取った奇跡の力だった。一瞬でも隆の体は動き、可憐に悟られることなく突きを入れた。それが見事腹部に入り、可憐を倒すことができた。


「すげえええええっ!!」


「やったあああああああっ!!」


「借し一だよ、東條隆」


「お兄ちゃあああああんっ!!」


 子供達は大喜びし、その場で歓声をあげた。美沙は喜びのあまり、涙を流しながら倒れようとする隆を強く抱きしめて受け止めた。その場にいた全員が隆に力を貸し、成し遂げられた成果だった。

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