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お兄ちゃんなんだが?

 僕らは木にもたれた。夜は暗いし今は秋もそろそろ終わってもう時期冬に入ろうという時期。寒かった。

 僕はリュックサックからあるものを取り出して広げた。


「それは?」


「レジャーシートだ。寒いからとりあえずこれでも被ってようぜ」


 本来なら遠足で食べ物を食べるときに敷くレジャーシート。素材は市販で販売されているやつとなんら変わりはないが、風を直接受けるよりはマシだろう。今日は昼食のために使った。まさか、遠足で二回使うことになるなんて。


「あっはは! なにそれ! おっかしい〜! でも、なんかあったかいね」


「そうか?」


「うん、これも、あんたが隣にいてくれるからかな……なんてね」


 僕と美沙は体を寄り添ってレジャーシートに被さって座る。まあ確かに、お互い寄り添っていれば少しはあったかいか。美沙の顔は赤いけど、暑いってことはないよな。こんな寒いのに赤いって……暑がりなのか。


「そうだな」


「むっ!」


 なぜかわからないが、美沙は頬を膨らませてフグみたいになる。


「なんだよ」


「別に〜。本当あんたってば鈍感よね」


「はあ……」


 鈍感と言われてしまった。なにを根拠にそんなことを言うんだ。少なくとも、今のやり取りでそう判断できるものはなかったはず。それかあれか? これもまたツンデレなのか? 罵倒ごっこはもう耐性ついたからいいけどさ。

 すると美沙は突然僕と反対方向を向き始める。


「あと、さっきツンデレを否定したのは……その……恥ずかしくって……でも、あんた私のこと嫌いなんだよね? ごめんね、私なんかが幼なじみで」


「ああ、そうだったな。僕の方こそごめん。本当は美沙のことは嫌ってないよ。それに僕はお前が幼なじみでよかったと思ってる。確かにお前とは何度も喧嘩した仲。だが、いつもいいライバルだと思ってるよ」


「ほ、ほんと……!?」


「本当だとも。お前と話していると結構楽しいぜ」


「そう……なんだ……えっへへっ!」


 美沙は心の底から笑顔をくれた。いつも怒るか無表情ばかりだったのに。でもこれでよかった。やっと僕らは普通に話せるようになった。これからは普通の友達として仲良くなりたい。

 最近会ったこととか好きなゲームとか、好きな食べ物とか。いろんなことを話していける仲になれたらいいな。


「ねえ。あんたのことこれからは……その……」


「なんだ? これからは少し破れにくくなったサンドバッグとして接するからよろしくなってか?」


「ちっがっうううーーー!!! だから……その……これからは、お兄ちゃんって呼んでいい?」


 衝撃的な言葉だった。最初なにを言っているかが理解ができなかった。


「え? ええ? なんでお兄ちゃんなんだよ」


「あんたの方が誕生日早いでしょ。それとも私よりも後だった? 弟、コーラ買ってきて。おやつのポテチも忘れるんじゃないわよ」


 片目をつむってよくわからないショートコントをし始めた。確かに誕生日は僕の方が早い。いや、そうじゃなくて根本的な問題だろ。


「そうじゃなくて! なんで突然お兄ちゃんと呼ばれるんだよ! 僕はその根本的なことが聞きたいんだ!」


「理由は特にない。ツンデレに飽きたから妹設定に変更したってことで。今なら初回特典としてブラコン設定も追加できます」


 激しくツッコミを入れる僕に対して美沙は至って冷静だった。こいつの言っていることは意味はわかる。だが、意味はわからない。別に僕は今までのこいつの言うところの「ツンデレ」でいいんだけど。なにを言っているんだ、こいつは。


「なにゲームみたいに言ってるんだよ。いらないいらない。今までのツンデレとやらでいい」


「だからツンデレは飽きたの!」


「じゃあ名前で呼んでくれればいい。下の名前わかるか? 隆だ」


「あんたの名前くらいわかるわよ! 何年うちらつるんでると思ってるの! それに、その……名前で呼ぶのはなんか恥ずかしいし……」


「名前で呼ぶのって恥ずかしいのか? じゃあ美沙って呼ばずにこれからはツンデレちゃんって呼んだ方がいいか、ツンデレちゃん?」


「いつまでツンデレって単語引きずってるのよ! あんたはそのまんまでいいの! あんたは私のことを今まで通り美沙って呼んで、私はあんたのことをお兄ちゃんって呼ぶ! いいねっ!?」


 話していても(らち)があかなかった。美沙は今まで僕のことをあんたとしか呼んでいない。あとは馬鹿だのアホだの社会のゴミだの代名詞くらい。それを突然お兄ちゃんなんて呼ばれたら違和感が半端じゃない。

 なんせ、僕にそんな趣味はないのだから。

 結論、美沙は僕のことをお兄ちゃんと呼びたいらしい。本人がそうしたいなら別にそれでもいいか。僕が変に意識しなければいいだけじゃないか。


「はあ……好きにしろ。もうなんとでも呼んでくれ」


「ありがとう、お兄ちゃん! これからもよろしくね、お兄ちゃん!」


「……」


 違和感しかなかった。わかるよ、わかる。まだお兄ちゃんと呼べば百歩譲ってまだわかる。でもなんだこの、妹みたいな喋り方は! いつもの冷め切った喋り方はどこにいったんだよ! 

 美沙の声はいつもより高く、可愛げがあった。違う、可愛げがありすぎている。寒気がするわ。


「どうしたの、お兄ちゃん! あ、もしかしてお兄ちゃん照れてる!? も〜、私たちまだそういう関係じゃないでしょ〜! このこの〜!」


「誰だよ、お前っ!! 美沙はどこにいったんだよ!!」


 お兄ちゃんお兄ちゃんとお兄ちゃんラッシュ。目の前にいるのは確かに美沙。でも美沙ではない。僕には美沙の見た目をした誰かだと思った。

 一体、僕とこいつとの六年間のあの因縁の関係と対決はどこにいった?

 肘を僕の横腹に軽く突いてる。誰こいつ。


「なにを言ってるの、お兄ちゃん? 私、美沙だよ。あははっ、変なお兄ちゃん!」


「一分前の僕とお前を第三者が見たとして、どちらが変だと言われたらお前の方が変だと言う人しかいないだろ! あと僕は呼び方は了承したが、なんでそんな性格なんだよ!」


「初回特典だってば、お兄ちゃん! お兄ちゃんは私にお兄ちゃんと呼ぶことを許可したときに、初回特典のブラコンもついてきたの、お兄ちゃん! もうお兄ちゃんは私にお兄ちゃんと呼ばせることを了承してしまいました。だからお兄ちゃんと私が呼んだ時はお兄ちゃんは――」


「お兄ちゃんお兄ちゃんうるせえよっ!! 僕もお前も今は疲れている。とりあえずはここで体を休ませるぞ」


「はーい!!」


 よくわからないが嬉しそうだった。これから美沙はずっとこのままなのだろうか。これもどうせキャラ作りだ。

 あの六年続いたツンデレがキャラ作りなら、六年後にはまた別のキャラに変わっていそうだ。なんだろうな、それこそお姉さんとか理系とかになってそう。ヤンデレだけは勘弁して欲しいがな。


 ていうか今何時だ? 空はますます暗くなる。腕時計を見ると五時半ごろ。冬が近づくと日が短くなる。だから友達と遊んでいてもすぐに帰らなければいけない。こんな呑気だけどこれからどうしよう。食料もないし、出口だってどこにあるかわからない。これじゃあもうサバイバルじゃないか。

 それにさっきみたいに美沙に何かあった時、美沙を守れるのは僕だけ。


「僕は起きてるから寝てていいぞ。僕のことは気にするな。男の子だからね」


「ありがとう、おやすみ」


 寝るわけにはいかない。寝ている間にさっきみたいに襲撃があっては溜まったものじゃない。でもせめて美沙だけは寝かせてやりたい。美沙が起きた頃に移動でもするか。


「ねえ、お兄ちゃん」


「なんだ?」


「お兄ちゃんのこと、ずっと好きだったんだ……」


「はいはい」


 さっきのノリと同じだろうと思い、適当に流す。それだけ言うと眠り始めた。別にそこまでキャラ作らなくていいのに。歳の近い異性に好きって言う時は相手を誤解させてしまうからそういうのは本命だけにしといてほしいものだ、なんて小学三年生に言っても仕方がないか。


 ――あれ。


 頭がぼーっとしてきた。


 眠気? 違う、なんだ、これ……


 頭を木につけ、左手で顔を(おお)う。


 勘弁してくれ……


 せめて、もう少し活動させてくれ……

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