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チャレンジするんだが?

 僕たちはご飯を食べ終わったあと、そろそろ行こうかという雰囲気になっていた。待て、ここで少しでもポイントを稼いでおかなければいけないのでは?

 ポイントというのは楽しませるというポイント。こいつを楽しさなければ僕の命はない。ならば――


「じゃあ、そろそろ行こ――」


「待てえええいっ!!」


 木製の机をバンと叩き、立ち上がる。チラリと視線を美沙にやると驚いた顔をしていた。


「お、お兄ちゃん?」


「美沙! あのカップル専用トロピカルハッピードリンクを飲もうではないか! もちろん、僕の奢りさっ!」


 カップル専用トロピカルハッピードリンク。それは、決して一人で行ったり、親子同士では飲めない禁断のドリンク。その名の通り、カップルのみが頼める南国の木の実をふんだんに使い、パチパチのフレーバーが入ったやつ。だが、一つ問題がある。


「で、でも……こ、これ……さ、流石に……は、恥ずかしいよ……」


 こやつ、ドリンクにストロー二つあり、捻れてハート型を作られているのだ。さすがはカップル専用と言ったところ。あんなにもデートだの手を繋ぐだの言っていた美沙ですら顔を赤くして少しためらっている。


「せっかくのデートだろ。もちろん、意義はないな?」


「う、うん……」


 少し強引すぎたか? とはいえ、美沙も満更でもなさそうな顔をしている。合意の上なら問題ないだろう。

 レジへは二人で並び、店員に声をかけた。ニコニコしながら会計を済ませ、僕に例のブツを渡す。


「お、お兄ちゃんからどうぞ……」


「み、美沙から飲めよ」


 どっちが先に飲むかの攻防戦。お互い譲ろうとせずって感じか。とはいえ僕も男。恥じらいというものはあるのだよ。


「お兄ちゃんが飲みたいから頼んだんでしょ! それにその……恥ずいし……」


「僕だって恥ずかしいよ……! じゃあ、二人で一緒に飲むか」


「うん……」


 結局二人で飲むことになった。あれ? これって美沙が先に飲むでもなく、僕が先に飲むでもない。一番恥ずかしい選択肢を選んでしまったのでは?

 そんなことを考えつつ、お互いストローに口をつけた。ストローを吸う。


 お、おお! 南国の味がする! 行ったことないけど! 

 口の中には南国の木の実とやらのトロピカルな味が広がった。結構美味しい。これがカップル専用ではなく、普通に売っていてもいいおいしさじゃないか。


 おいしさで自分の顔は(とろ)けていないだろうか。気持ちの悪い顔になっていないだろうか。そんな顔を美沙に見られていないだろうか。不安になり、美沙を見る。


「……?」


「……っ!?」


 顔を赤らめ、美沙は僕の目を見ながら飲んでいた。思わず目が合い、心臓が口から出そうだった。

 あ、あれ……美沙ってこんなに可愛かったっけ……



「お兄ちゃん? お兄ちゃんってば! お兄ちゃんが飲まないと減らないし、何時間止まったみたいになってるの?」


「あっ……」


 気がつくと目の前の美沙はストローから口を離し、僕に声をかけていた。僕の口はストローにくっついたまま。十秒ほど記憶が飛んでいたようだ。さっきもこんなことがあったな。

 今日の僕疲れているのかもしれない。


「美沙に見惚れていたんだよ。飲むぞ」


「み、見惚れていた……!? も、もう! からかわないでよ!」


 適当に嘘ついたんだが、美沙は顔を赤らめ、再びストローに口をつけた。その後は僕ら二人で頑張って飲んだ。昼食よりもなぜか時間がかかった。だがこれで好感度は上がったはず。僕らはフードコートを出て、再びアトラクションを回ることにした。たくさん回った。日が暮れそうなくらい回った。


 ――そしてその時はきた。


「ジェットコースター乗ろう!」


「え? お前、今なんて言った?」


「ジェットコースター乗ろう!」


 美沙は満面の笑みの奥の瞳に小さな闇を見せ、恐ろしい言葉を放った。ジェットコースター乗ろう? いやいや、僕の聞き間違えだろう。


「よし! 帰るか!!」


「お兄ちゃん……? 乗るんだよ……乗らないと許さない……乗らないっていう選択肢はない……乗らないなんて言わせない……」


 美沙は笑いながらこちらに近づく。その瞳の奥の闇。それを見てしまったのだ、僕は。こいつ、絶対に僕を乗らす気だ! だがこれもまた運命。ここで機嫌よく乗れば、更なる好感度アップも期待できる絶好の機会だ! 覚悟を決め、決断した。


「なんだよ、その四段活用! じょ、上等じゃねえか! ああ、乗ってやろうじゃねえか!」


「そうこなくっちゃっ!」


 落ち着け……落ち着くんだ、東條隆……ジェットコースターが怖かった? ははっ、そんなのは幼稚園の頃の話。今僕は何歳だ? そう、今年で十七歳! あれから十年以上経っているじゃないか! なーんだなーんだ! 何も怖いことなんてないじゃないか!

 心の中で安堵(あんど)し、自身が百五十%付く。これなら問題ないだろう。


 ――だが、現実はそう甘くはなかった。


「いやあああああああっ!!!! 殺されるうううううううっ!!!! 吹き飛ばされるって、これえええええええ!!!!」


「あっはははははっ!! 楽しいねえ、お兄ちゃんっ!! ひやっふううううううう!!」


 爆速で走り出す悪魔の列車。角度をつけるたびにガタンガタンといって勢いをつけて、からの急降下。安全バーはしていても、体が自然と飛び出そうなくらい浮き上がる。悲鳴をあげる以外僕にはできなかった。

 多分ここで僕死ぬんだ。それならせめて最後に愛を語りたらせてもらうぞ、拙者。


 シャルロットたん、拙者は夫として相応しい男になれたでござるか。お主と出会って早数年。楽しかったでござるよ。初めはスライムを倒す毎日であったでござったが、今や我ら二人、トップに君臨する身。これは拙者だけの力ではない。シャルロットたんの力。そして、拙者とシャルロットたんとの愛の力があったからこそ、成し遂げられた成果だと思うでござる。

 そんな妻であるシャルロットたんを残して先立つことを許してくれ。拙者がいなくなっても、シャルロットたんならきっと新たな試練が待ち受けようとも、それを乗り越え、更なる高みへ――


 急降下。


「いやあああああああっ!! いつになったら終わるんだよおおおおおおおっ!! 助けてえええええええ!!」


「私、風になってるわ!! これがエクスタシーってやつ!? きゃはははははははっ!!」


 ガタンと大きな音が鳴り、悪魔の列車は動きを止めた。やっと終わったか。本気で死ぬかと思っぞ。ていうか、実は死んでるんじゃないだろうか。

 頭の中がふわふわする。空中に浮いているかのよう。頭がおかしくなりそうだ。


「楽しかったね!!」


「お、おう……」


 美沙は満面の笑み。対して僕は砂漠に咲く枯れ果てた雑草のような声と顔をしていた。もうジェットコースターには生涯(しょうがい)乗らない! 絶対に乗らない! メリーゴーランドで十分なんだよ!

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