男、女、リアル女なんだが?
バトルシューティングモンスターから出たあと、僕らは行き先も決めず、再び歩いていた。
親以外と遊園地に来たことはない。遊園地を回るときって大体こんなものなのだろうか。
「次はどこ行く?」
「そうだなあ。お昼ご飯食べよっか。ここに来る途中で美味しそうなホットドッグ屋さんがあったからそこで食べよ」
「それはいいんだが……」
「ん? どうしたの?」
今は昼の十三時過ぎ。遊びに夢中で十二時を過ぎていたし、昼ご飯を食べる時間としてはちょうどいい。お腹を満たさないとこのあと動くのもきついだろう。
ただ、僕には一つ疑問があった。
それは――
「なんでずっと手を繋いでるんだよ!」
そう、このリアル女、江南美沙は先程の店を出て十秒後、突如手を握ってきたのだ。何も言わず! そして繋いだ後は何も起きてないかのように接してきた!
言おうにも男として言いづらい部分があった。それを手を繋いだ五分後の今、僕は言った。
「え? 何言ってるの、お兄ちゃん? 病院行く?」
ジト目でこちらに視線を送る。いやいやいや! 僕はおかしくない……はずだ……
そう、おかしくない! おかしいのは美沙なんだ! 突然手を繋いてきた挙句、何事もなかったかのように接する美沙と、それを疑問に思う僕。どっちがおかしい!? 美沙だろ!?
「おかしいのは僕かよ! なんで手を繋いできたのかって聞いているんだよ!」
「じゃあ確認だけどさ、お兄ちゃん性別は?」
「男」
ジト目を止め、少し睨みつけながら僕に問う。なんなんだ、こりゃ。僕はなんの確認をされてるんだ。そしてこれから何を言われるんだ。そうは思いつつも、答える。その隙に離してやろうかと思ったが、それがバレ、強く手を握られる。
「じゃあ、私の性別は?」
「リアル女」
「リアル女って……まあいいけどさ」
僕はこの世に三つの性別があると思っている。「男」、「女」、「リアル女」。
まず男。これは主に僕や父さん、学校のやつで言うと上条のことを指す。世間一般的な「男」という概念とは一致する。これはいい。
次に女。これに関してはこの際だからはっきり言わせてもらうと、シャルロットたんしかほぼあり得ない! 他の二次元キャラなども僕の「女」という概念には当てはまる。だから彼女たちは「女」と呼んでも差し支えがない存在。とはいえ、僕はシャルロットたんしか「女」には興味がない。
そしてリアル女! これはそれ以外のものの全ての人間! 説明以下略! 以上っ!!
「今私たちは何してる?」
「何してるって……遊園地に遊びに来ている」
「ちっがーうっ!! 男と女! 男子と女子! 男の子と女の子! 男女! これはデートでしょ! なら手を繋いで当然!!」
美沙は眉を顰め、片方の手で人差し指を何回も僕の顔目掛けて指す。僕今怒られている? 周りから多数の視線を感じる。めちゃ恥ずかしい……
普段の僕なら爆弾の導火線に火がついたかの如くバチバチと言っていたが、こいつに「女」という僕の主観で見た概念を説明する気力も起きなかった。
「いや――はあ……わかったわかりました。繋いで当然ですよね。私が悪うございました」
「それでよしっ!」
否定する気も起きず、大人しく繋いだ。とても小さく柔らかい手。リアル女ってこういう手をしてい――いかんいかん! 僕ともあろう人間がリアル女なんぞに惑わされるなっ……!
そんな葛藤を頭の中でしつつ、フードコートに着く。ホットドッグ屋の他にも、クレープ屋やらオムライス屋があったが、僕らは二人ともホットドッグ屋と決めた。
「そこで待ってていいぞ。買ってくる」
「あ、ありがとう。じゃあ、お金――」
「お金はいいよ。奢らせてくれ」
財布を出そうとするが、それを止める。男女で遊びに行く時は男が奢るのはマナーみたいなもの。特にこいつの言うデートだし。だが美沙は納得していないようだった。
「い、いいっていいって! 悪いよ」
「僕の性別を忘れたのか? さっき教えただろ。男だって」
「……っ!! あ、ありがとう……!」
顔を伏せ、なぜか顔を赤らめる。財布を出すのを止めてくれたようだ。その姿を見て安心し、ホットドッグ屋の店に並ぶ。僕の前に三人か。
今の時刻は一時半ほど。やっぱり他の人たちも満喫し過ぎて時間忘れてたとかいうやつなのだろうか。そんなことを考えつつ、カバンのチャックを開けてスマホを取り出そうとする。
「……って、そういえばないんだっけ」
しばらくして気がつき、チャックを閉めて探すのをやめる。いつも手に持っているスマホ。スマホがないだけで勘違いとかするものなんだ。現代恐るべし。
そんな時、ふとあの文章が頭によぎる。
(江南美沙が江南茂に「楽しかった」を一発で言う:2400円)
スマホが爆発する直前に見えたあの表示。要約すると、美沙を楽しませなければいけないというやつ。だからといって、あいつがふざけて「楽しくなかった」とかシゲ爺に言えば、僕の命は風船の如く割れるが。
でもスマホが壊れている今、あれは副業ということでやはり推敲しなければいけないのだろうか。壊れている今なら無視しても――
「いててててててててっ!! 痛い!! 痛い!! 痛いって!! あああっ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
無視しようという思考に至るが、そんな僕の両手首が締め付けられるような感覚。血管を圧縮し、皮膚さえも千切ろうとするかのような痛みを走らせる。そう、今まで存在を忘れていたが、僕の腕にはバングルが付いていた。それが赤く光る。
インベストの連中ともどきを除いて、投資関係のことを話したり、反抗したりすると血管を圧縮させ、腕を引き千切るような痛みを走らせる。
今の考えを反抗と捉えたわけか。
このバングルも投資が始まってから。いつか外れる時がくるのだろうか。
「はあ……はあ……はあ……」
締め付けは終わり、痛みは治った。そして周りの視線が痛いことに気がつく。それもそうだ。順番待ちしているやつが急に叫び出したら驚くに決まっている。僕が逆の立場だったら呆れた目で見てやるし。
その対象は今や僕という存在。恥ずかしかった。