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遊園地なんだが?

 電車の少し激しい揺れと共に目を覚ます。しばらく夢を見ていた。懐かしい僕と美沙との出会い。あんな時期もあったものだ。


「あ、起きた」


 美沙は僕の顔を覗き込み、目が合うと声をかける。周りを見ると、電車の中の人混みは無くなっており、この車両にはポツポツと十人ほどがいるだけだった。何でもこの路線の降りた駅の一つには、ものすごい美味しいカレーパン屋さんがあるとか。遊園地は終点。そのカレーパン屋さんは遊園地の一つ前の駅。上の電子掲示板を見るとカラフルな二色の色で【まもなく終点――】と書かれていた。え? さっきの人だかりは全員そこで降りたのか? いや、まさかな。


「もうすぐで着くと思うから準備してね」


「うん……」


 眠そうな声で返事をする。元気がないとか思われないだろうかと心配するが、美沙の顔は少し俯いていた。どうしたんだ? さっきまで元気だったのに。その顔は今日初めて見るもの。何か心配ごとでもあるのだろうか。


 電車を降りるが、その感じは変わらない。思い切って聞いてみるか。


「どうした? 元気がないみたいだが」


 少しだけ顔を上げて僕と目を合わせる。


「お爺ちゃんのことなんだけどさ、お兄ちゃんあのスマホ、爆発するかもしれないって言ってたでしょ? それがちょっと心配で」


 美沙のことをとても大切に思っているシゲ爺。そんなシゲ爺のことを尊敬し、大好きな存在だからこそ心配しているのだろう。それは僕も同じ。僕もシゲ爺とは美沙ほどではないが、子供の頃からの長い付き合いだからこそわかることがある。


「シゲ爺なら大丈夫だろ。機械にも強いし、そこら辺の判断もできる人だ。それにいざとなればもどきもいる。爆発しそうになったら僕のスマホを壊すか投げるかしてくれるぜ」


「で、でも……」


 それでも暗い表情は晴れない。だったら――


「シゲ爺はさ、美沙に楽しんでもらいたくて行ってこいって言ってくれただろ。だったら、精一杯楽しもうぜ。僕も楽しむからさ」


「お兄ちゃん……」


 シゲ爺はそのためにわざわざ遊園地のチケットまで用意して、僕まで誘って美沙を連れて行かせた。それは一孫に楽しい思い出を作って欲しいから。それは僕も同じだろう。僕は美沙のことを任せられたんだ。だから僕も楽しむ。シゲ爺の気持ちを(ないがし)ろにはさせないさ。

 我ながら柄にもないことをまた言ってしまっただろうか。


 美沙は僕の言葉で次第に笑顔になり始める。


「そうだね! じゃあ、精一杯楽しまなくっちゃねっ! ほら、行くよお兄ちゃん! あの輝きは絶対に私たちを歓迎してるって!」


「お、おい……! ほんとお前調子のいいやつだな……」


 目の前には遊園地の色とりどりな門の奥に、さまざまな光が使われている遊具がたくさん。僕の手を引っ張り、そこへ向かい走り出す美沙。さっきまでの暗い表情はもうどこにもなかった。


「早く早く〜!!」


 まあ、楽しければいいか。元気なことで悪いことなんてないわけだし。

 最近は僕もシリアスなことばかりが続いていた。学校での火災からはしばらく経っているとはいえ、その後も上条のこととか昇龍との結婚式とのこととか。よく考えれば僕って最近息抜きしていない?


 そうと決まれば、この僕も楽しませてもらいますかね!



 受付をくぐり、「楽しんできてね〜!」とこちらに手を振る受付の人に言われ、中へと進んだ。美沙はテンション高くして手を振った。当然僕が手を振るわけもなく、軽く会釈。流石の僕でもここら辺のマナーは(わきま)えているつもりだ。

 そのあとは行き先もなくとりあえず歩く。


「最初どこ行く?」


「そうだなあ、刺激を求めてメリーゴーランドとかどうだ?」


 ここだけの話、僕は絶叫系といわれるアトラクションがこの上なく苦手。僕にはメリーゴーランドぐらいがちょうどいいのだ。


「メリーゴーランドって刺激になる? 刺激ならジェットコースターの方が――」


「いやあ、今日もいい天気だね!」


 いつもの倍ほどの大きな声を出して美沙の声をかき消す。美沙はジト目でこちらを見続けている。やばい、バレたかこれ。


「あ! お兄ちゃんジェットコースター苦手でしょ! へえ〜! ふう〜ん! 結構可愛いとかあんじゃ〜ん!」


「僕にだって苦手なものの一つや二つあるんだよ! あんな死にそうな思いをするのに楽しいという人が理解できない! た、頼む! ジェットコースターだけは……勘弁してくれえええ……!」


 情けない。ひたすら叫んだ。それもそうだ。死ぬか生きるかの選択で命乞いくらい誰だってする! あれはいつだっけか、確か幼稚園の頃、父さんに連れられて幼児用ジェットコースターに無理やり乗らされて号泣したっけ。そりゃ幼稚園の頃だからっていうのもあったが、(あなど)れん……


「はいはいわかったわかった! ジェットコースターは行かないから! メリーゴーランドね。ほんっと昔から辺なところでビビリなとこあるよね」


 そんなこんなでメリーゴーランドに乗った。僕の相馬は「フランセル」くん。金髪で白馬。それでいてこの金属でできたような鍛えられた硬い体!

 ロジカルファンタジートップオブザトップに立つ我が相棒に相応しい。

 ちなみに、一番下に降りていて乗りやすいから選んだだけでそれほど深い意味はないのだ。


 知らない人のために説明をしておくと、メリーゴーランドというのは動くたびに馬が上下する。曲が終わり、終了時には上にあって乗りにくかったりすることがある。普段運動をしていない僕にはそれはきつかったため、下に最も下がっている馬を選んだというわけだ。


 ちなみに美沙は、ピンク色の髪でツノの生えた「ユニコーン」ちゃんに乗っていた。

 楽しそうにはしゃぎながらめちゃ笑顔。それはいいんだが、気になることが一つあった。

 ユニコーンって馬なのか? メリーゴーランドとは。


 次に僕らはバトルシューティングモンスターというエリアに来た。どうやらここは、二人乗りのトロッコに乗り、モンスターをどちらが倒せるかを競うゲームのようだ。赤い点の丸に、赤外線レーザーの出る銃で撃ち抜くのがルール。合計で百体いて、雑魚は一体一点。ボスは一体三点。ラスボスが一体十点らしい。


「美沙、勝負しないか? 拙者、ロジカルファンタジーでは銃も扱える戦士としてもそれなりに名が通っているのでござるよ」


「その勝負、受けて立つ!」


 美沙とはこういう場じゃないとなかなか力比べはできないし、なんといってもこの手のものは僕の心が躍る。なんせ、遊園地といっても乗るだけが全てじゃない。そう! 乗って撃つゲームだってある!

 こうして、僕らの白熱した戦いが始まるのであった。……はずだった。


「ま、待って……! 敵が過ぎるのが早い……! あ、また逃した……! ていうか、そもそもこの銃重いすぎるだろ……!」


「おららららあああ!! 普段家の手伝いで重いものを持つのは慣れてるからねえ〜! あと、過ぎた敵追っかけるより、次出てくる敵を確実に撃った方がいいよ」


 逃げていく敵を撃つので必死。それに対して美沙の照準はほとんどズレず、狙いを確実に定めている。シゲ爺はいつも機械をいじっている。パソコンやらそのサーバーを運ぶことだって毎日のようにしている。それの手伝いをしている美沙が鍛えられるのは何もおかしいことではない。


「み、美沙!? お前のエイムなんでそんなにいいんだ!? そっちの銃絶対強いやつだろ!」


「お兄ちゃんは銃が重く感じてるから、疲れて毎回エイムがズレてるんでしょ。ほら、次のフロアラスボスみたいだよ」


「ならこのフロアは休憩させてもらうよ。やっぱり、戦士たるもの時には休息をね」


 本音を言うとかなり重くて手が疲れた。いや、本当は重くないのかもしれない。だってこのアトラクション明らかに子供向けだし。ある程度重みはあるが、子供が持たない物ではないはず。普段、物を持たないのが仇となったか……


 フロアが移動し、ラスボスが出てきた。紫色の禍々(まがまが)しい敵。いかにもラスボスって感じだ。口を開け、赤い点の丸が姿を表す。


「丸の大きさが違う? ふっ! ラスボスだから連打ということでござるか! 連打なら任せるでござる! この連打で数々の死線をくぐり抜けてきたでござる。ネトゲーマーの連打、とくと受けてみよっ!」


 目にも止まらぬ速さで撃ちまくる。ネトゲーマーの連打がまさかこんなところで生きてくるとはな。仲間を助けるための連打。火力を上げるための連打。そして敵に攻撃するときの連打。この連打があったからこそ、ロジカルファンタジートップに立つことができたと言っても過言ではないのでござる。


「えええ!? お! お兄ちゃんがなんか知らないけど急に覚醒した!? だ、だめだ……! 私、連打は苦手なんだよ〜!」


「チェックメイトでござる!」


 最後の一発を打ち、ラスボスは倒れた。銃を片手で頑張って持ち、赤外線レーザーが出ているところに軽く息を吹きかける。西洋劇にありそうなガンマンのように。たしかこいつ十点だったか。これで美沙よりはアド取れたな。



【プレイヤーワン、二十九点】

【プレイヤーツー、八十七点】


「あ、あれえ!?」


「やったあ! 私の勝ち!」


 明らかに差がついていた点数だった。最初に結構雑魚敵逃してたからそれが響いたか。対して美沙はほとんど倒していた。強いて言えば、最後のボスと雑魚敵数体逃したことだろう。

 そもそも、ロジカルファンタジーってFPSではなく、普通の育成RPGだったからシューティング関係ないじゃん……



「お客様、お待ちください!」


 帰りの受付のところでポニーテールのリアル女スタッフに止められる。なんかめっちゃ目を輝かして美沙のことを見ている。


「わ、私ですか?」


「そうそう! あなたです! あなた、すごいじゃないですか! うちのアトラクションで過去最高得点ですよ! そんなあなたにはこちらのストラップを二つ贈呈します!」


 美沙が手を出し、スタッフから何かを受け取る。青色のイルカとピンク色のイルカのストラップ。なぜイルカかと一瞬疑問に思ったが、ここのアトラクション海王生物が舞台のゲームだったからか。

 ん? イルカ……?


「わあ! ありがとうございます! はい! お兄ちゃん!」


 するとすぐに青色のイルカの方をストラップの上の金属の部分を摘んで僕に渡す。

 スタッフの奥に飾られているボードを見ると、【八十点〜一個。八十五点〜二個】と書かれていた。


「いいのか? 美沙が二つ分手に入れたじゃないか」


「二つ持ってても意味ないでしょ。私とのデートの記念にってことで」


「そういうことならありがたく受け取っておくよ。ありがとう」


 美沙から青色のイルカのストラップを受け取る。記念か。記念として形に残る物としてなら欲しい。こいつとは付き合いは長いが、記念という記念の物はこれといってあまりない。だから正直嬉しかった。

 帰ったらどこかに付けておくことにしよう。

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