デートなんだが?
いやいやいや! リアルなど幻想! ロジカルファンタジーのみが真実! 拙者、騙されないでござる! こうやって世の男というものは簡単に騙されるのでござる! しかーし! 拙者はロジカルファンタジーに育てられし、たくましき子! そんな拙者に、幻想やまやかしは効かないでござる!
「はっ!!」
拙者の後ろで何か輝かしき黄金の人影が見えた。気配だけでわかる。拙者より上にいる。そう、その気配の正体こそがぷらねっと神! さすがはぷらねっと神。
拙者のこの覇気すらも越え、瞬時に後ろに現れるその能力。これが、全知全能のぷらねっと神……!?
拙者はドラマチックに、そして失礼のないよう、拙者自身も覇気を出し、後ろを振り返った。
ぷらねっと神、ついに貴方様の顔を見ることが……!?
「って、美沙……!?」
突然現実に戻され、勢いよくこける。二階の階段から降りてきたのは美沙だった。美沙が来ていた服は私服ではあるが、美沙のいう「いつもの私服」ではなかった。薄い黄色の花柄に白色のワンピース。あれ? 美沙ってこんな服持ってたっけ? それに、髪もいつものツーテールではなく、ストレートにおろしている。
階段を降りると、美沙が僕のところまで歩いてくる。
「ど、どう……?」
美沙は背中に両手を重ね、僕の顔を覗き込む。あれ!? こいつ、美沙だよな!? 美沙ってこんな可愛かったっけ!? 美沙は僕の幼馴染! 家が隣! ほぼ毎日顔を合わせているではないか! いや、これはあれだ! 僕の幼なじみがこんなに可愛いわけがないってやつなんだ!
「ね、ねえ……感想言ってよ、お兄ちゃん……いつかお兄ちゃんとデートする時のためにって思って……ずっと、とっていた服なんだよ……」
さらに顔を近づけ、覗いてくる。ぼ、僕のために……そ、それってもしかして……!
「か、可愛い……」
「えっ……!」
「え?」
あれ? 今僕なんて言った? 頭の中の記憶が2.7秒ほど飛んだ。目の前にはよくわからないが驚いている美沙の顔。美沙の瞳からは少し涙が流れ、キラキラしているように見えた。
何が起きたんだ?
「と、とりあえず行こうか。ここの遊園地だったら、駅まで歩いてそこから電車に乗って……って、美沙?」
「な、なんでもないよ……! さ、さあ、行こうか……!」
美沙の顔はタコのように赤くなっていた。こんな美沙今まで見たことがない。大丈夫かよ、こいつ。
少し心配になりつつ、江南家の扉を開けて外へ出た。
数分歩き、地元の駅に着く。遊園地までは電車でニ十分。それなりにかかる。とはいえ、これが普通の感覚なのかもしれない。この一分一秒一コンマ全てが、ロジカルファンタジーの素材集めを何周回れるかを計算すれば、それなりにかかる方だろう。
そう、僕にとって秒数とは、素材周回なのだ。
感覚としては六十秒を一分というだろう。それを僕は、十八.七秒=素材周回1とカウントしている。
つまり、二十分とはすなわち、素材周回64回と1あまりの序盤のスライムとなる。
そんなことを考えつつ、電車に乗る。
席は美沙と隣。休日の午前だからか、少し混んでいて距離がかなり近い。というかもうゼロ距離。幼なじみと電車に乗っている。それも二人で。これって周りからはちゃんと、男女の幼なじみ同士っていうふうに見えているよな?
しかも、密着しているせいか、隣からすごいフレグランスの香りが。明らかに美沙からだよな。学校に毎朝一緒に行っているがこんな匂いはしない。まさか、今日のためにわざわざってことは……
いやいやいや! 考えるな考えるな! こういう時は他ごとを……!
そんなとき、あることを思い出す。さっきシゲ爺から貰ったUSBと何かしらの紙が入ったポリ袋。そのうちの紙の方は何が書いてあったのか。どうせ暇だし、見てみるか。
カバンからポリ袋を取り出す。中身の紙だけを取り出し、ポリ袋をカバンの中にしまう。
紙はどうやら八つ折りに折られており、広げるとそれなりに大きなサイズへと変わる。
そこにはシゲ爺がパソコンで打ち込まれたかのようなフォントでこう書かれていた。
【このUSB調べたんだが、どうやらあのパソコンにはウイルスが仕込まれておった。ウイルスには沢山の種類がある。本来ウイルスっていうのは、アプリケーションファイルに感染し、フォルダにも感染するANTIや、キーが繰り返されるKeyPressってのがあるんや】
なるほどな。何が書いてあるかさっぱりだ。シゲ爺はわかりやすく書いてくれているんだろうが、全く頭に入ってこない。パソコンに関しては、よく触ってはいるが、詳しいかと言われれば一般人レベルだ。
シゲ爺はその道のプロでもあるからな。
【ター坊のパソコンにかかっているウイルスはおそらく新種。とあるソフトひとつのプログラムに潜り込み、アバターのプログラムのソースコードを破壊するものやった。そしてソースコードをコピーしてから削除されていることもわかっている。すまんが、どこにコピーされたかまではわからんかった。わしはある程度のウイルスは把握している。だが、こんなウイルスはわしも知らん】
待てよ。ソースコードとかはよくわからんが、アバターってもしかしてシャルロットたんのことか? シャルロットたんのアバターは今でも透明状態で画面上に反応していない。もしかして、シャルロットたんか今でも画面に映らないのは、そのアバターのプログラムが破壊されているから?
あとソースコードのコピーっていうのもよくわからない。僕が知ったことで大した情報ではないだろう。
【このプログラムを逆探知しようとしたんだが、壁が強固で突破できなかった。バスターもかけたが消えん。しかし、アバターが映らないこと以外は特に問題はないようだから安心せい! 未来のお爺さま、シゲ爺より】
それが一番問題なんだよな。僕にとっての全てがシャルロットたん。そのシャルロットたんの姿がない状態以上にやばいことなんてないだろう。それと未来のお爺さまにはならないからな。
何がともあれ、ここまでの情報が入ってよかった。いつかこれがなにかの役に立ち、いずれはシャルロットたんを蘇らせることができるかもしれない。
ウイルスってこんなにも簡単に詳細を調べれることができるものなのか? いや、簡単でもないだろうし、多分シゲ爺が凄すぎるだけだろう。
「何見てるの?」
横から目を丸くして紙を覗き込む美沙。電車だから小声で喋ろうとする。
「シゲ爺からのラブレターだよ」
「ああ、おじいちゃんの。何が書いてあるのかさっぱりなラブレターだね」
まじまじと覗き込む美沙だが、美沙にも内容がいまいちわかっていないみたいだ。美沙は祖父が祖父だからか、僕よりかはコンピュータには少し詳しい。そんな美沙がわからないと言っているのだから、それはもう難しい内容なんだろうと改めて感じる。
「だな。内容の六割は入ってこなかったよ」
再び八つ折りに折り、ポリ袋をカバンから取り出してその中に入れる。それをまたカバンにしまい、目を瞑る。
文章を読んで少し目が疲れた。それに、隣にはいつもと雰囲気が違う幼なじみ。少し目を開けて美沙を見れば、いつもと違うからか少しドキっとしてしまうのが悔しい。目を開けることにメリットなど感じない。目を瞑り、頭を真っ白にする。そう、何も考えるな……何も……何も……