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都合が良すぎるんだか?

 ―江南家―


 美沙の家につき、客間の部屋に案内される。あの呪いの合言葉を言わされたという説明は省いておこう。面々は前と同じ。僕にもどき、美沙にシゲ爺。僕とシゲ爺とでしばらく世間話。もどきはそれを黙って聞いている。その間に美沙がお茶を入れ、僕らに出す。その後に美沙が座ったところで本題に入る。


「でえ? 今日は何のようだ?」


 お茶を一口飲み、体を温めるシゲ爺。そんなシゲ爺の目を見て真剣に言う。


「シゲ爺。今度はスマホが壊れた。直してくれ」


 僕はカバンから壊れたスマホを取り出し、直球に言った。しかし、シゲ爺は顎に手を当てしばらく考える。流石にあれだよな、前回の副業でお金はたくさん入っている。お金は出すからそこは問題ない。


「お前はよー壊すなあ……少しはものを大切にせんかい」


 そう言うのも無理はない。前回僕はパソコンを壊してその中のデータが入ったUSBをシゲ爺に預けている。シゲ爺からしてみればまたかよとなるわけだ。

 といっても、前回はもどきがジュースをぶち撒け、今回は赤城の攻撃を(しの)ぐためにやったこと。どちらも僕が好意でやったわけではない。


「それに、今回ばかりはタダとはいかんなあ……」


「もちろんだ! お金なら払う! スマホがないと夜も眠れなくて……! スマホがないと今にも体から何かが出てきそうで……! スマホがないと幻覚が見えそうで……!」


 そう、今やスマホは日常において欠かせない存在! 何をするにも今はスマホ! そんなスマホを数日間触っていないともなれば、気が狂いそうになる! あれがないとロジカルファンタジーができないことは愚か、今日が何月何日かも忘れてしまう……!


「完全にスマホ依存症じゃん」


「だから頼むよ、どうかスマホを――」


「なら今すぐに美沙とデートしてこおおおい!!」


「……」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の背後から吹雪のような寒さが通り過ぎていった気がした。そういえば前、そんな約束してたっけ……いや、でも、今すぐって……おい、嘘だろ……


「お、お爺ちゃん! それはもういいから……!」


 美沙が顔を赤らめ、しっかりと拒否する。美沙も僕なんかとは行きたくないはず……! よし、その調子だ! いけ! いけ!

 僕は心の中で小学生の頃、運動会でしていた三三七拍子を心の中で唱える。いけいけ美沙! おせおせ美沙!いけいけおけおせ美沙美沙美沙!!


「そ、それに、お兄ちゃんだって家の用事とかあったりするだろうし……」


「そ、そうだ……! 思い出した……! 今日は母さんから夜ご飯の買い出しを頼まれていたんだった! あー、しまったなあー! これじゃあ行けないなあー!」


 大きな声で棒読みすぎる発言。もちろんそんなものはない。その場(しの)ぎの嘘だ。ほら、嘘も方便とか言うだろ? それは紛れもなく、今使うべきことわざなのだろうよ。


「買い出しなら私に任せてください! 記憶力はいい方なので! というかそもそも、お母様からの買い出しに滅多に応じない隆さんが行くなんてことそもそもあるのですか?」


 吹雪の次は雪雪崩がどこからともなく落ちてきた気がした。もどきめ……天然だからわからないのか、わざと嘘をついているのか知らんが、この僕を(はめ)めやがったな……

 黙っていれば僕は引きこもりライフを満喫できたものの……!

 歯を食いしばり、歯軋(はぎし)りをさせる。


「よし、決まりだな。あ、こんなところに遊園地のチケットが二枚あるぞ! わしはもうこの歳だし行けないし、よし! ここは美沙とター坊にでもやるとするか!」


「そんな都合がいいことがあるかよ!」


 ソファの下を覗き込み、チケットが二枚置いてあるのを確認すると、手に持ち、ニマニマと笑みを浮かべる。僕が今日スマホを持っていくということは知らない。だとすると、最初からこれを渡すつもりであらかじめソファの下に忍ばせておいたのだろう。

 それから適当な理由をつけて僕と美沙に押し付ける。なんて頭の鋭いジジイだ……


「安心しろい。お前らが帰ってくる頃にはター坊のスマホはちゃんと渡してやる。だが、条件がある」


「条件?」


 シゲ爺は手に遊園地のチケット二枚を持ちながら腕を組み、目を瞑り考え始める。頼む、猿でもできる簡単なのにしてくれよ……


「もし、帰ってきたときに美沙が楽しかったといえば返してやる。だが、言わなければ言うまで毎日遊園地デートだあ! もちろん、言うまでスマホはわしが持っておくぞい!」


 雪雪崩の次はついに地割れが起き、床が崩れ落ちて僕も落ちていった。まあ、修理代の代わりと言えば聞こえはいいが、あまりに釣り合わなさすぎる! 僕に休日はないのか!?


「え!? じゃあそれって、私が楽しかったって言わなければ毎日お兄ちゃんと遊園地デート!?」


「ああ、そういうことだぜえ!!」


「お前らやっぱグルだろ!!」


 はしゃぎ出す美沙に、笑顔でグッドポーズをするシゲ爺。美沙? お前やっぱりそっち側の人間なのか?

 こいつの反応からして、たとえ美沙が楽しいと感じても、楽しいと言わなければノーカン。つまり、毎日こいつとの遊園地デートという名の拷問に付き合わされることに。

 その上スマホは没収とか……

 シゲ爺は二枚のチケットを美沙に託した。


 その時だった。机の上に置いてある僕のスマホが鳴り出す。鳴り出す? 何を言っているんだ、僕は。スマホは数日前に感電してつかなくなったじゃないか。だが、こうしてメッセージを受信した音が鳴っている。しかし、音が鳴るだけで画面は真っ暗。

 そんな不思議なことがあるのか?


「んん? どういうことだ? お前のスマホは使えんのじゃないのか?」


 シゲ爺も困惑している。修理のプロであるシゲ爺もこの反応。何かの誤作動ということもあり得る。スマホを持ち、ホームボタンを押す。


(江南美沙が江南茂に「楽しかった」を一発で言う:2400円)


 それを見て僕は固まった。そんなの、僕がどうこうできるものじゃないだろ……


 そう考えているのも束の間、次の瞬間――


 バアアン!と音が鳴り、スマホから眩い光と煙が発生し、爆発した。たった一台のスマホに恐ろしくなり、思わず床に落としてしまう。おいおいおいおい、どうなっちまってんだよ、僕のスマホはっ!? 誰でもいい! だれかこれを科学的原理で証明してくれ!!


「えぇ……?」


「……」


「な、何が起きてるんだ……?」


 落ち着け。違う。これはあいつらしかいない。投資業界。奴らならやりかねない。そうでなくても、絶対あいつらが絡んでる。くそっ……!!


「だ、大丈夫だ……ど、どうせただの誤作動だろ……あはははは……」


「そ、そうだな、ただの誤作動やろ……わ、わしにも……まだ……わからんことがあるんやろうな……これはわしが預かっておくから早くいきーや」


 シゲ爺の頭からは大量の汗。誤作動ではない。それはシゲ爺のこの動揺を見ればわかる。まるで、長年生きてきて初めて見たあり得ない光景。美沙やもどきを怖がらせないとわざと僕の意見に乗ってくれた。

 ありがとう。


 美沙は少し怯えていた。手足の震えが止まらない。まずい。美沙はお調子者なところがある。それが長所なのかもしれない。だが、一度怖いものを見るとその場を動かなくなる。だからこそ、僕が何とかしてやらないと。今度は僕が助ける番なんだ。


「え……?」


 怯える美沙の手を握り、客間の扉へと歩いていった。一瞬後ろを振り返り、シゲ爺と目を合わせる。


「気をつけろよ、シゲ爺! また爆破するかもしれんから気をつけて! あと、もどきは用事がなければシゲ爺のそばにいてやってくれ!」


「わかりました!」


 万が一、誤作動という可能性がゼロではないかもしれない。その場合も想定してもどきを置いておく。もどきはあれでも反射神経や運動神経はなぜかいい。この前のスポーツテストでも、野球選手並みの投球力を持っていた。

 なぜあそこまでハイスペックなのか分からないが、こいつがいれば、また僕のスマホが爆発しそうになったとしても外に投げれば大丈夫だろう。

 それを察しとり、もどきは大きく頷いた。


「待て、ター坊」


「ん?」


 シゲ爺は小さなポリ袋を僕に向かって投げつける。


「それとこいつを受けとれ! 調べ終わったから返すぜ!」


 慌ててそれをキャッチし、中身を確認する。その中にはUSBと何枚かにおられた紙が入っていた。

 このUSBは僕のパソコンのバックアップのやつ。後この紙は……なんだ?

 見るからにシゲ爺が入れたっぽいが、読んでいいやつだよな? 後で読むか。


「ありがとう」


 ポケットにそれらを入れ、部屋を出る。


「美沙のこと頼んだぞー!」


「おう。任せとけー」


 そう言い、部屋の扉を閉めた。その直後、後ろから服が引っ張られた感じがした。

 後ろを向くと、美沙が手を離し、僕のシャツを右手で掴んで引っ張っていた。顔を逸らし、目も逸らしている。口元に左手を当て、顔を赤らめる。


「どうした?」


「ちょっと……準備してきてもいいかな……? 今日行くなんて知らなくて、服とかいつもの私服だし……」


「いつもの私服? いつもの私服でダメなのか?」


「も、もう……! お兄ちゃんってば、ほんと乙女心わからないんだから……! わ、私だって……女の子……なんだから……」


 さらに顔を伏せ、シャツから手を離して二階へ上がっていった。なぜだろう。その時、僕は少し可愛いと思ってしまった。

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