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第71回投資議会

 ―インベスト―


 いつもの会議室には本来いるべきはずの六名の投資家はおらず、その半分の三名しかいなかった。

 篆、龕您、極兒。この三名しか集まっていない。


「……」


「うひょ〜! 峰子ちゃんの峰パイサイコー!」


 その上、篆は相変わらず無言。極兒に関しては会議だというのに、愛読の熟女本、月刊おかみさんを読んでいた。

 まともに議論しようとしているのは龕您しかいなかった。


「いやあ、それにしてもここも数が減ってしまったのお。鉦蓄さんは牢獄行き、斬賀さんは前回の玄橆との戦闘で相変わらず意識不明。蘭壽さんに至っては行方不明じゃとか。我々もとうとう終わりかね、のお、龕您さん?」


 沈黙を破ったのは意外にも極兒だった。といっても、視界に映るものは全て峰子という熟女。手に持つものは月刊おかみさん。一様話してはいるが、顔を本にかなり近づけていて、それ以外は何も見えていなかった。


 そんな極兒を見る龕您だったが、怒る気力すらなく、ため息ばかりついる。しかし目線はしっかりと龕您を見ていた。


「蘭壽の所在はわかっている。隆くんの家の地下室だ」


 龕您はこの投資業界ではいわば司令塔のような存在。彼は隆たちの次元の全てを監視できる権利を持っている。その権利さえあれば、蘭壽の居場所なんて簡単にわかる。


「ええ!? 地下室!? 監禁されとるんか!? どうするんじゃ!? 助けに行かないと!?」


「そのつもりだ。ではあとは頼んだよ、極兒」


「はいいい!? わし!? ……はいはい、わかりましたよ。どうせまた、私のレディたちを人質にするつもりじゃろ」


 極兒は実は弱みを握られている。それは前回同様、働かなければ月刊おかみさんを処分されるという。だからこそ、逆らうことはできないのだ。それに、極兒も龕您が全て悪くないというのは承知の上。だからこそ、従うしかないのだ。


「物分かりがいいじゃないか。あと、今後はお前にもあいつらが復帰するまではそれなりに動いてもらうからな」


「冗談きついのお、大将……」


 極兒は顔をテーブルに落とし、本で隠れてしまった。よほど働きたくないのだろう。

 だがこれも仕方がないこと。龕您は司令塔であるためにここを滅多なことがない限りは動くことがない。ここの防衛、部下への指令、そして、インベストや隆たちの投資運営の管理を任されているから。


「でもそれって、篆さんの能力でなんとかなるんじゃないかの? 玄橆の確保だって」


 篆の能力があれば、隆たちの次元に行かずとも容易に玄橆や蘭壽をこちらに送ることができると考えていた。


「玄橆は厳重な結界によって篆の能力を無効化している。蘭壽の奪還だってそうだ。玄橆は意識を失う直前、蘭壽の能力や外部からの能力が無効化させる、例の縄で封じ込めている。そうなれば、我々直々に動くしかないだろう」


「んー、それは難しいのお」


 顔を上げ、再び本の中にいる峰子の胸を直視する。話だけは一様聞いているようだ。


「それもそうだが、もっと難しいことがあるであろう。正義執行管理局。女性のみで構成された、悪を撲滅する組織だ」


 その言葉を聞き、立てていた本を置き、目を輝かせて龕您の目を見る。熟女好きの極兒にとってはことと次第によってはいろんな意味で注目必須な存在であったからだ。


「女性のみ!? ま、まさか、四十代から五十代の食べごろ系霜降り熟女たちで構成された、熟女戦士なのか!?」


「残念だったな、十代の少女ばかりだ」


 それを聞き、再びテーブルに顔を落とす。今度は音の勢いが先程の二倍はあった。


「なんじゃ……まだ芽が出るどころか種すら撒かれていないやつらか……それでその正義なんちゃらかんちゃらが何だというんだ……」


 顔を失せたまま会話を続ける。彼女たちが熟れた女性ではなく、十代の少女ということによほどショックを受けたのだろう。といいつつ、龕您が難しいと話すのだから気にはなって話を続けていた。


「先程、隆くんや隆くんの友達の親のグループである昇龍組を襲っていてな。見るからに戦闘力の高い連中揃いだ。特に紫可憐という女は……普通じゃない……」


 龕您は彼女たちを警戒していた。特殊能力を持つ、彼らですら対抗できないと悟っている。いや、戦力である六名のトップたちが集まれば敵わないことはない。しかし、現段階では太刀打ちできないことだろう。

 その中で最も警戒されている人物が紫可憐。彼女は人並みの何倍もの訓練を積んでおり、この世のすべての武器を扱えることができる、管理局最高戦力の少女。

 特殊能力対この世の全ての武器。そう言い換えれば、彼らの勝ち目も薄いだろう。


「もしも我々と敵対するようなことがあったら、我々も覚悟を決めなければ。だが、我々の目標は変わらん。玄橆の確保。場合によっては始末。そして蘭壽の奪還、それだけだ。そうだろう、篆」


 龕您は篆の顔を見る。その顔はいまだにベールに包まれ、仮面を被っている。篆は仮面の目を赤く光らせ、ゴオンと音を鳴らした。

 篆の答えはイエス。龕您の意見に異論はなかった。


 龕您の作戦はこうだ。現在、上条樹こと、玄橆は斬賀との戦闘時、自らの特殊能力で生み出した注射。それを彼は自分の体に打ち込んだ。一時的ではあるものの、強力な回復力と引き換えに、数日間幻覚を見せられている。それが原因で現在は精神病棟に隔離されている。

 その上、彼自身に篆の力を無効化させる結界が張られていれば、篆の力によっての奪還は不能。

 だからこそ、彼自身が自我を取り戻し、精神病棟から出た時がチャンスだと考えた。

 極兒は顔をあげる。


「相変わらず物騒じゃのお」


「これもインベストのためだ。先ほども言った通り、次の任務からは奴らが復帰するまでお前が動いてもらう。頼んだぞ、極兒」


「わかったわかった。だがずっと思っていたんじゃが、これを聞くのは野暮かもしれぬ。なぜ篆さんはずっと動かないんだ? 私よりあっちの方がサボっとるじゃろうが」


 極兒は少し、篆のことが気がかりでいた。篆とはトップ同士のビジネスチームではあるものの、あまり知らない。その直近である龕您なら何か知っているかと思って聞いているのだ。


「お前と一緒にするな。篆は投資の運営を裏でしているのだよ。それに、篆が動くには早い。その時が来れば、我々は愚か、誰も篆の力の前には敵わないであろうな」


 龕您は鬼も恐れるような恐ろしい目をしていった。冗談ではなく、本気だった。それがわかった途端、極兒は少し恐怖し、眉を(ひそ)め、体を少し震わせる。龕您だけは篆の本当の力を知っていて、それを他のトップたちに隠している。

 彼以外には篆の能力は知らない。一体、彼らは何を隠しているのだろうか。

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