正義執行管理局の日常 その1
赤城は昇龍の出したタクシーに乗り、その後正義執行管理局の本部にたどり着いた。
タクシーには数百メートルのところでおろしてもらい、その後は徒歩。赤城の目の前には鉄の塊のような施設があった。そう、ここが彼女たちの本拠地。
彼女は金属でできた板に乗り、付近のモニターを見る。
「赤城です。開けてもらってもよろしいでしょうか?」
「……っ!」
モニター越しにいる本部内の少女は目を丸くしていた。あと少し笑いを堪えているように見えた。
「聞こえていますか? 開けてもらえますか? 外は暑いんです」
「き、聞こえています……! す、すみません……! い、今開けますね……!」
「……?」
少女は本部の入り口の扉を開けた。その後、すぐにモニターを切る。赤城はなぜ変な反応をされたのか疑問に思い、首を傾げつつ中に入る。
「あっはははははっ!! あんなの、笑いを堪えろっていう方が無理だよっ!! だ、だめだ……!! お腹が……!!」
モニターを切った彼女は爆笑していた。その笑い声に惹きつけられ、加賀が彼女のいる部屋の扉を開けて入ってくる。
加賀は夜だからパジャマに着替えており、もうすぐ寝るところだった。だが、笑い声が聞こえてしまえば楽しいことが好きな彼女にとって、覗かないわけにはいかない。
「どーしたの? なんか楽しそうだねえ。あ、もしや、今晩の夜ご飯がプリンだったからそれで美味しくて笑顔が止まらないのか!」
「そ、そんなことではなく……! 赤城さんが帰ってきて……! それで……その……! 赤城さんが……! あっはははははっ!!」
「赤城が帰ってきたの? お出迎えしてあげなきゃね」
歳は下でも、自分より序列が上である加賀に対しても先程の赤城の様子を思い出して笑いが止まらなかった。その笑いが気になった加賀は本部内を走り回り、玄関に向かうのであった。
その頃、赤城はいつも通りに歩く。彼女とすれ違う他の少女たちは挨拶をするも、そのあと笑いを堪えているような声が聞こえた。しかし、赤城はそれに気づいていない。
すると、目の前には局長、紫可憐の姿が。
「赤城、戻ってこられたのです……か……え……?」
可憐も戸惑っていた。次第にそれは笑い声を堪えようと必死の表情をしていた。
「ああ、ちょうどよかったです。今回の潜入調査のことですが、作戦通り非常口で待ち伏せをしていましたが、対象を無事殲滅。しかし、昇龍組の応戦によって数的に不利となり、撤退させていただきました」
赤城は昇龍たちと約束した通り、あらかじめ用意しておいた嘘を話すことにした。そりゃ、助けてもらったことを言えば何と言われることか。
「そ、そう……ふふ……ふふふふふふっ……!」
しかし、可憐な頭には全く内容が入ってきておらず、必死に後ろを向いて笑いを堪えて――はいなかった。本人は堪えているつもりだが、一度ツボに入ると数分は笑ってしまう可憐。そんな彼女に気づかず、頑張って話を続ける赤城ちゃん。
「しかし、まさかあなたたちの方が先に撤退していたなんて。頑張ってここまで歩いて帰ってきましたのよ。ちゃんと今晩の夕食は残しているのでしょう? なんせ今日の献立はプリンが出るんですって?」
今日の献立はしっかりと頭に入れていた。プリンだからだ。だから帰ったからのが少し楽しみにしていた。そのため、プリンを頭の中で浮かべ、目を瞑る。目の前で床を叩きながらゲラゲラと爆笑をしている可憐にはまったくもって気がついていない。
「ふっふふふふふふふっ……! あ、あなた、それ……! も、もう、今日の報告はいいから私の前から……! ふっふふふふ……!」
目の前で床を叩きながらゲラゲラと爆笑をしている可憐にはまったくもって気がついていない。
「あ、赤城発見! おかえ――ひゃっはははははっ!! な、何その格好っ!! あなたまさか、また新しいコスプレに目覚めたのっ!! ま、まだ十五歳のあなたが……! ウエディングドレスって……! お、おかしい……!! おかしいっ……!!」
「あっ……!」
その瞬間目を開き、自分の身につけているものを見て、自分の今着ていた服がここの制服ではなく、ウエディングドレスを着ていたことを思い出す。
そうだった。他の奴らに気づかれないようにってことで妃さんが私のためにドレスを着させてくれたんだ!と思っていても、時すでに遅し。
今まで笑いを堪えていた少女たちも、上司二人の爆笑により、声には出さないものの、一気にニコニコと笑い出す。恥ずかしくなり、赤城は赤面した。
「こ、コスプレではありません……! これは……その……」
確かにコスプレではなかった。コスプレをしていることはすでに本部内にはバレてはいるが、それを恥ずかしいためか、なぜかいまだに隠そうとしている。
「ひゃっはははははっ!! あなたがそんな服を着るなんてコスプレ以外考える人いないって! コスプレじゃないってことはじゃあ何〜!? 教えて〜! 加賀ちゃん知りたいなあ〜!」
「ふっふふふふっ……! だ、大丈夫よ……! あんたの趣味は周知の事実だから……! だからそんな恥ずかしがらなくても……! ふっふふふふふふふっ……!」
煽るように言う加賀に、地面にヒビを入れながら叩く可憐。
必死に考えた。今のこの服はコスプレではない。だけど、本当のことなんて言えない。じゃあどうするか。
その瞬間、頭によぎる言葉を掴み取る。もう少し考えればもっといい言葉が出たかも知れないが、赤城にはこの恥ずかしい空気が耐えられなかった。
「こ、これは……その……加賀、結婚しましょう……!」
加賀の手を握り、赤城は涙目で顔を赤らめて言った。
その瞬間、周りの全員の表情は固まった。
赤城は演技をしているわけではない。恥ずかしくて涙が出て、顔が赤くなった。
その上、パッと考えた言葉を口から出し、この場を何とか収めたいと純粋にただ加賀の手を握っただけ。
全ては偶然が重なっただけなのだ。
「え……わ、私と……? わ、私でいいの……?」
しかし、満更でもないかのように加賀も顔を赤らめ、彼女のルビー色の瞳を見つめる。
「加賀が……そうしたんでしょう……」
加賀がこの空気を作ったのでしょうと言っているのだが、加賀は別の意味で捉えていた。というか、この場にいる赤城以外の全員が加賀と同じ意味で捉えていた。
「ぴ、ぴやあ〜……」
そう言って赤城の手を離し、加賀は倒れてしまった。
「加賀!? よほど今日のことで疲れてしまったのでしょう。お互い、お疲れ様です。では私は寄るところがあるので」
赤城はその場を後にした。その後、残された少女たちは赤城がいなくなるや否や、キャーキャーと言い張り、騒がしくしていた。
だがそのうち一人だけはさっきまで爆笑していたのにも関わらず、悔しそうな表情に変わっていた。
「わ、私は認めません……! 私に恋人がいないのにも関わらず、幹部同士が恋人になるなんて……! 絶対に許さないんですからねえええええっ!!」
赤城は夜ご飯を食堂で食べ終わると部屋に戻り、トランクからスマホを探す。赤城はプライベート用と任務用でスマホが二台ある。そのうち、任務用のスマホは今回の任務で持ってきていたので感電して中の電子機器が破壊されていた。
プライベート用のスマホをトランクから見つけ、机の上に置く。机の上には夜ご飯に残しておいたプリンもある。ちなみにボタンを押すと出てくるプリンだ。
そこでRISEというアプリを開き、あるネームを入力する。
RISEとは、お米のマークがついたアプリ。メッセージや通話もできて、グループを作って話すこともできる。スマホを使っている人ならば今や誰でも入っていると言われているほど有名なアプリ。
ネームを入力して出た名前を友達追加。
そこには【ドラ姫】と書かれていた。その人物を追加。
「赤城ちゃん、せっかく知り合えたしRISE交換しない?」
隆が裏で十兵衛と会話をしている時、昇龍は赤城と会話をしていた。昇龍は片手にスマホを持ち、赤城の顔を見て話す。
「RISEですか。いいですけど、今スマホはなくって……プライベート用のは本部にあるので」
「あ、じゃあじゃあ……」
昇龍は机の上にあった適当なボールペンと市販のメモ用紙を見つけ、スマホを見ながらボールペンを使い、メモ用紙にIDを入力する。メモ用紙をちぎり、それを赤城に渡す。
「これRISEのID検索のとこに入力してくれたら、あとは適当なメッセ送っといてー」
それを渡されて、最初はびっくりしたものの、すぐにそれを受け取り、無言で頷いた。
【ドラ姫】と書かれたところをタップし、トークをクリック。適当に送ってと言われたが、何を送ろうか真剣に悩むこと五分。彼女は笑顔でこう送った。
【赤城です! 今度、アキバ行こうZE⭐︎】