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幸せのお裾分けなんだが?

 歩いて一分もしないうちにコンビニの前に着く。って、僕の行きつけのブラザーマートではないか。

 中に入り、お菓子売り場のところまで行き、立ち止まる。


「買いたいものを買って――ってあれ?」


 思い出した。今の手持ちはなんとびっくり、ポケットにある百九十一円だった。

 財布なんて見るまでもない。以前のロジカルファンタジーで財布の中身を全て溶かしたので、全くなしの無一文でござる! っていうのは建前で、本当は投資に使ったのだよ。


「百九十一円までな!」


「自分で言っといてなんそれ!?」


 好きなものを買うなんて言うんじゃなかった。今になって後悔する。


「じゃ、じゃあ、そこの肉まんが欲しい」


 レジの前にある肉まんを指さす。肉まんは百三十ニ円。よし! いける! 小さくガッツポーズ。

 僕はレジの前に行き、店員に肉まんを一つ頼み、ケースから取り出す。肉まん一つ入りそうな包み紙を受け取るが、かなり熱い。コンビニから出ると、それを昇龍に渡す。


「気をつけて持てよ」


「あっち!!」


 警告をして丁寧に受け取ってみせたが、やはり熱かった。包み紙から肉まんを取り出し、下についている紙を取ってそれを包み紙の中にまとめる。


「あんたも片手で持って」


 片手で熱いながらも肉まんを持つ昇龍。それを僕に差し出し、持つように指示する。


「ええ? 肉まんって二人いないと食べられないやつなのか。初めて知った」


 肉まんはもちろん食べたことがある。だが、二人で食べるものとは知らなかった。じゃあ今まで僕はなんで一人で食べられたんだ。もしかして一人で食べたら本来二人で食べるときに感じる味の十分の一も発揮できない味になるのか。

 なるほどな、勉強になった。


「そうじゃなくて! 一緒に千切るんだよ! 何言わせんだよ、全く!」


「あ、あああ! わかった!」


 肉まんに指を乗せる。むちゃくちゃ熱いし……あれ? これってまさか……


「せーので千切るぞ。せーの!」


 すると肉まんは綺麗に二つに分かれた。中からはものすごい湯気が出ており、豚肉のいい香りが漂う。


 その後、僕らは黙々と食べ進める。そんな時、昇龍が言った。


「あの時さ、あいつらのせいでケーキ切れなかったじゃん。だからさ、ここでやりたかったなって……その……愛の共同作業ってやつをさ……」


「……っ!?」


 その言葉に少しドキッとしてしまう。あの時は紫可憐の狙撃によって切れなかったケーキ。しかも、無惨にもケーキは雑に切り裂かれた。

 あの時できなかったことを再現したかったということか。一瞬ドキッとしてしまったが、これはおそらく、こういうことをしてみたいという、単なる乙女心だろう。

 気にするな、気にすることはないのだぞ、東條隆! 普通の人間ならイチコロでござるが、拙者は違う! そう、拙者は違うのだ!! 拙者は! 拙者は! 拙者は! せっ――


「赤城ちゃんのことだけどさ」


「え、あ、はいっ!!」


 急に話しかけられ、でかい声を出す。びっくりした。


「タクシー代だけ渡して帰らせたよ。それに、ちょっとしたプレゼントもしといたし」


「ん? プレゼント? 何かあげたのか?」


「さあね。乙女同士の秘密ってやつさ」


 昇龍は口の前に人差し指を立て、ウインクをする。別に何をあげたところで僕には関係ないわけだし、なんでもいいんだが。

 あと、タクシーで帰らすのは正解だろう。後で聞いた話だが、正義執行管理局の連中は五台の車で来ており、撤収したという。おそらく、赤城のことを忘れ落雷の出来事があって、一目散に撤収したのだろう。

 となれば帰る足がない。昇龍組のリムジンで帰ろうにも、このあと赤城はやつらの拠点に行くはず。

 そうなれば色々とまずいことになると判断した昇龍はタクシーを読んだというわけか。


「それとあーしさ、あんたが相手でよかったなって思ってる。なんならこのまま結婚しても、あーしは別に……いいんだぜ……」


 昇龍は顔を赤らめて目を逸らしていった。口元は食べかけの肉まんで隠している。よほど今日の出来事の疲れが今出てきて、その熱で顔が赤くなったんだろうな。


「おいおい、揶揄(からか)うのはよしてくれよ――って、昇龍?」


「え? あ、いや、なんでもない……!」


 僕の言葉を聞いた瞬間、昇龍は顔を俯かせる。なんか僕、まずいことを言ってしまっただろうか。乙女心はよくわからない。乙女心ってやはり、複雑だよな。


 その後、お互いに肉まんを食べ終え、しばらく何も話さずにぼーっとしていた。


「それと一つ聞きたいことがあるんだけど」


「ん? なんだ?」


 突然真剣な顔つきになる。聞きたいことがあると言い、それからしばらく何も喋らなくなった。そのため、僕はどうすればいいのか分からず、共通の話題を頭の中で探す。


「あ、まさか、ロジカルファンタジーのクエスト攻略のことでござるか!? 最近のクエストは少々インフレ化が進んでおり、攻略しづらくなってるのはわかるでござる! しかーし! 拙者とパーティを組んでいけば鬼に金棒百人力!」


 そうなのだ。最近のロジカルファンタジーはインフレ化が進んでおり、新たなスキルやら敵の攻撃が増えたせいで古参勢の拙者から見れば、ややこしくなっている部分はあるでござる。しかし、そのビッグウェーブすら乗りこなすのが拙者でござるのだよ!


「あ、もしくは素材集めとかでござるな!? たしかに新武器が出てきて新たな進化素材もどこでゲットできるのかも分からなくなってるでござるからね! 強化合成素材集めとかの周回でも付き合うでござるよ!」


 そう、新しい武器が出て強くなるのはいいが、その度に必要な進化素材が新たに出現し、それを集めなければいけない。さらには武器強化に必要な経験値もカンスト止まりのプレイヤーが最近は多いでござる。これも時代の流れというやつでござるかね。

 しかーし! これもまた、強くなるためだと思えば火の車も虹車! 楽しくプレイ、楽しく周回でござるのだよ!


「もしくはガチャの話でござるな! 最近のガチャも新たな――」


「あんたの妹、シャルロットって……何者なの……?」


「え??」


 突然の訳の分からない質問に困惑する。


「ロジカルファンタジーをやってるあーしならわかるけど、あんたのプレイヤーネーム、シャルロットだよね。それもロジカルファンタジーをやり始めた二年前から。こんなことを聞くのもアレだけど、あいつのシャルロットって名前は本名だよな?」


「あ、ああ、本名のはず……あいつは今年の四月にうちに来た時からシャルロットって名乗ってたし、苗字は知らないけど、元の名前は一様シャルロットなわけで……」


 あいつの今の名前は東條シャルロット。僕はその名前を認めず、もどきと呼んでいる。しかし、入学した時の名前は母さんは東條シャルロットと記入したそうだ。その時も僕は勝手にシャルロットたんの名前を使われて腹を立てていて頭が働かなかったが……どうなってるんだ?


「え? あんたたち、血が繋がってるわけではないの? じゃあ、あいつはどこから来たの?」


「えっと、どこだったっけ……」


 養子でそこから逃げ出したとか……あれ? でもそれってあいつの口から聞いたわけではない。思えば僕が勝手に決めつけていたような気がする。


「しかも、あんたのゲーム内の名前が同じだなんて偶然ある?」


「それは……その……偶然偽名を使ってそれが今のいままで通ってたってことだろ……だってほら、あいつは僕の追っかけなわけだし……」


 そう、あいつは僕のファンであり、ストーカーなんだ。それでシャルロットって名乗っているだけ。ああ、そうさ。なんも疑問なんてない。不思議なことなんてない。これで全部解決じゃないか。


「悪い、やっぱり今話したことは忘れてくれ。多分、あーしの気のせいだ……」


 そう言うと、手に持っていたゴミを後ろの燃えるゴミに捨てる。気のせい? なんのことだ?


「よし、じゃあ戻るか! さーて、今晩のご飯は何かなーっと!」


 昇龍はコンビニから離れ、歩き出した。明るくわざとらしく夜ご飯の話をしている。それに僕はついていった。

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