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あったかいんだが?

 十兵衛の体は微かに弾丸の傷が体にはついていて出血をしていたが、応急処置により、ほぼ無傷のように見えた。

 すると十兵衛は僕をテントの裏に連れ出し、話を始めた。


「まずはお嬢を守ってくれてありがとう。旦那様に変わって俺から礼を言おう」


「僕は何もしていないさ。それより、話って?」


「正義執行管理局のことだ。あいつら、俺たちを殺そうとはしていなかったみたいなんだ」


「どういうことだ? あんな銃バンバン撃ちまくって、終いには戦車で砲撃まで撃ち込んだんだぞ」


 それもそのはず、全員が武装し、こちらに向かって射撃を行なった。スナイパー、ハンドガン、アサルトライフル、戦車での砲撃。あれを見てどこが殺意がなく見えるというのだ。


「あいつらの放った弾丸全て、麻酔弾だった。俺が昔その(たぐい)の弾を見ていたから間違いない」


「なんのためにそんなことを」


「さあな。眠らせてどこかに運ぶつもりだったっていう説が濃厚だろうが、間違いなく殺す気はなかったのだろう」


 麻酔弾。言葉通りの始末をするだけなら本物の弾丸を使えばいい話だ。それを使わず、麻酔弾を使った。警察の傘下に入っていたこの男が言うのだから間違いないのだろう。

 そうなれば確かに昇龍の話していた内容に辻褄が合う。「ほとんどのやつらが寝ているみたい」。あれは疲れていたとかではなく、麻酔弾の効果によって眠っていたということか。

 じゃあ一体、あいつらは何がしたいんだ?


「それにあんたは何で僕にそんなことをベラベラと喋る?」


「あいつらのボスである女はあんたのことを知っていたようだったし、伝えておこうと思ってな。ああ、どういう関係かは言わなくていいぞ。そこまで聞くほど俺は人間できちゃいなくないんだ。じゃあな。またどこかで会うかもな」


 それだけ言うと、十兵衛は再び黒ずくめたち人混みの中へと消えていった。よくわからないが、これが何かの情報につながるかもしれない。

 僕、投資業界、そして第三勢力である正義執行管理局。だが決してこの関係は三すくみのような関係にあるわけではない。僕は両者から狙われている上、反撃の余地すらなく、毎回のように追い込まれている僕。

 何より、投資業界と正義執行管理局は前回の蘭壽の反応からして互いを知らない。

 物凄い最悪な状況だ。もう時期夏休みだっていうのに、今年の夏休みはゆっくりできなさそうだ。


「はあ……」


 深いため息をつき、体の疲れを取ろうとする。もちろん、取れるわけではない。だが、ひとときでもいいから落ち着きたかったのだ。


「ウイッヒイー! センキュー、ソーマッチユーヒコマロー! ハバナイスシャイニングデーイズ!!」


「ん?」


 うるさい声が結婚式場から遠ざかる声が聞こえた。声の主はドン・ジョコビッチ。確かあの人、モーニングスターを持っているやつにやられていたよな。


「待ってください、ジョコビッチ様!! まだ体の傷が!! せめて走るのだけは……! 走るのだけは……!!」


「待ってくださーい! サインくださーい!!」


 それを走りながら止めようとする二人の黒ずくめ。一人はサインペンと色紙を持っているが。全速力の彼ら二人の速度の五倍を早く走るドン・ジョコビッチの姿はもう見えなくなっていた。

 あのおっさんも元気そうでよかったわ。


「東條様。お召し物をお持ちしました。どうぞ、あちらのテントで」


 声をかけてきたのは一人の黒ずくめ。彼が手に持つものは男性用のうちの学校の制服。丁寧に畳まれている。


「ああ、そういえば」


 それを受け取り、テントの中へ案内された。ここにきてからずっとタキシードで過ごしてきた。なんだか、少し懐かしみを感じる。



 着替えを終え、外へ出るとちょうど横のテントから着替え終わった昇龍も出てきた。こいつもまた、ドレスから制服に着替え終わっていた。目が合い、軽く挨拶をする。


「よ、よお……」


「おう……」


 お互いなぜかわからないが、どこか気まずく挨拶をする。今日一番顔を合わせているやつなのになんでだろうな。


「十兵衛が先帰ってろって。お前はどうすんの? こんなとこいてもあれだろ」


「そうだな、僕も帰るか」


 ここですることはもうないだろう。あとは帰るだけ。なんだか長かった一日だったな。


「なら乗ってきな。こっから歩いてもいいが、三十分以上は掛かると思いな」


 おいおい、勘弁してくれよ。この疲労で三十分以上も歩いていたら、明日の朝には骨になっているよ。


「お言葉に甘えさせてもらうよ」


 それからまたリムジンに乗り、帰ることにした。乗っているメンバーは元々乗っていた人数で、彦摩呂と十兵衛が黒ずくめに変わっただけ。元々持っていた私物の鞄もリムジンの中にあると言われて乗ったが、本当にあった。

 しかもただの鞄なのにどこか輝いて見える。黒ずくめたちが磨いてくれたのか。



 リムジンに揺られること数十分。着いたのは昇龍の家の前だった。

 そこで運転手以外の全員が降りる。


「東條様。ご自宅までお送りしましょう」


 運転手の黒ずくめは親切に言ってくれた。だが今の僕には必要なかった。


「いえ、大丈夫です。この近くにコンビニってありますか?」


「コンビニならこの家のすぐ右にありますよ!」


「まさかのご近所!?」


 僕らと一緒に降りた黒ずくめたちが後ろから答えてくれた。家の隣がコンビニって。しかもこの家はただの家ではなく、極道。威圧感半端なさそうだな。


「ここだけの話、ここの唐揚げ棒がどこのコンビニよりもサックサクでさあ!」


「あ、自分のおすすめはイカフライっすよ! 外はサクッと、中はジュワッとジューシーなイカフライがたまんねえんすわ!」


 まさかこいつら全員行きつけってことないよな。そう思っていたが、その場にいた黒ずくめ全員がおすすめのメニューを言い出した。

 さぞかし昼とかになれば、コンビニはこの黒服どもで埋め尽くされるんだろう。

 コンビニ側もいい迷惑だ。でもそれで利益がコンビニに入るなら問題はない。ウィンウィンってやつか。


「お前も来い。好きなもん、奢ってやるぞ」


「あ、あーし? わ、わかった……」


 そう言うと僕の後ろをついてくる昇龍。すると後ろから何人かの大きな声が聞こえる。


「よ! お熱いねえ〜、お二人さん!」


「ううっ……ついにお嬢にも相応しい男が……」


「ヒューヒュー!」


 うるせえ……黒ずくめたちは喜びの声を上げていたり、口笛を吹いたりしていたやつもいた。


「うっせえぞ、てめえら!!」


 昇龍は後ろを振り返り怒鳴るが、全員ニコニコとしていた。


「愛されているんだな、お前」


「そうかあ? 生まれた時からあいつらが一緒だから私にはわからん。でも、なんだかんだいい奴らだよ」


 生まれた時からか。親や兄弟とは違った存在なのかはわからないが、こいつにとってはそれが当たり前の出来事で今まで生きてきたのだろう。

 あいつらもあいつらで、今日はケーキのサプライズとかしてくれていたし。

 そう改めて思うと、なんだか色々とすごいな。

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