捕まえる気満々なんだが?
「あなた方三名は私が捉えさせていただきます。抵抗は自由。されど、私には叶わないと思ってもらって結構です。私の力であれば、この男の命を奪うことは可能」
赤城の右腕の力は、小柄な体格とは裏腹に、ものすごい力が入っている。その証拠に、赤城の右腕により自由を奪われているトレーダー鈴木は、今にも呼吸ができなくなる寸前まで苦しめられている。
見た目は中学生くらいの相手。そんなやつが成人男性を超えている男をどうやったらあそこまで苦しめられるんだよ。
「もしも抵抗した場合は、この男の命はないと思ってください。抵抗せずに大人しく投降すれば、あなた方三名の命を救ってあげましょう。って、あなたはいつまで笑っているんですか!?」
と、脳内解説をしている僕であったが、内心先程の自分の発想にツボっているのであった。
「あっはははははっ!! 悪い悪いっ!! だがな、あまり年上を舐めんじゃねえぞ、リアル女がっ!!」
僕はしばらく笑ったあと、突然怒鳴り始めた。ラノベさながらのセリフ。これ、拙者言ってみたかったのでござるのよ!
「う、ううっ……!」
すると、赤城は目に涙を浮かべていて、涙をこぼすのを堪えていた。
「ふっ! びびって言葉も出ないでござるか――うはっ!!」
すると、昇龍がずっと握っていた手を離し、僕の腹部に強烈な拳の一撃を入れた。
「ちっちゃい女の子泣かせてどうすんのよ、馬鹿っ! あんたそれでも男かよっ!」
な、なんで僕が……
そう心で呟き、僕は倒れた。いや、今のはおかしいだろ! そりゃ、ただの子供に言えば、僕の方が悪いだろうが、こいつは僕らを捕まえる気だ! 敵なんだ! 言っていいはずの相手なんだ! んあーーー!!
「妃さんっ……! って、だめよ赤城! 今はお仕事モードなのだから!」
一瞬、昇龍にときめくような顔をしたが、首を横にブンブン振って我に帰る。
個性的すぎだろ、こいつ。
「全く、僕を忘れてもらっては困るよ。僕の名前を知っているかい?」
その時だった。トレーダー鈴木が声を力強く出し、赤城に問いかける。さっきまでの苦しい顔はどうしたんだよ、お前。
「鈴木翔平。彼女いない歴=年齢かっこ今年で二十七歳かっことじ、職業自宅警備員、埼玉県在住、おかんの土手鍋が美味しい――」
「違う違う違う! 鈴木翔平とか本名言うなよ! あと、おかんの土手鍋の話されると息子としては少し恥ずかしいんだよっ……! 僕の名前は……トレーダー鈴木さっ……!!」
すると、鈴木翔平――じゃなかった。トレーダー鈴木は高く飛び、体操選手もびっくりなほどの回転を何度もして、数メートル先の地面に着地した。
しかも彼は、ただ飛んだだけでなく、彼の手には赤城の着ていた雪男の服を手に持っていた。
一体どうやって赤城の着ていた服を一瞬にして盗んだのか。
「見たか、そこの新郎新婦! これが、大人の本気なのさ」
「おっさん! なに赤城ちゃんから服脱がしてんだよ!? せっかく可愛かったのに!!」
「な、なんでえ!?」
トレーダー鈴木は僕らにかっこいいところを見せたかったのだろうが、それとは逆に昇龍に罵倒されるのであった。
いやでも、ほんとにどうやって脱がしたんだよ。チャックのようなものもなければ、それは一瞬にして行われたもの。実はこいつ、すごいやつなのか?
雪男の服を脱がされた赤城は、さらにその下に紫可憐やモーニングスターを持っていた少女たちとは色違いのメイド服のようなものを着ていた。
多分、この服はここの制服なのだろう。だとしたらあの局長、自分だけでなく部下全員に同じ服を着せるなんて相当やばいな。
「僕はトレーダー鈴木。僕にトレードできないものはない。ある時は品を出し、お金をもらう。そしてある時は自らお金を出し、品をもらう。君の空から降ってくるものはなんだい?」
すると、赤城の上からは二枚の紙が降っていた。それを赤城は何かと思い上を見上げようとする。
「トレーダー鈴木のこの行動……まさか、この上にあるものは……!? ゆ、諭吉だあああ……!!」
赤城は手で器を作り、それを受け取る。確かにそれは本物の一万円札二枚。こいつの年齢からして一万円札二枚はでかいだろうな。
「そいつは僕からの贈り物だよ。それで好きなものでも買いな。ギブアンドテイクっていっていうやつかな」
「諭吉……! 諭吉……! これで推しへさらに貢ぐことができる……! 推ししか勝たん! 推ししか勝たん!」
またキャラ崩壊し始めたぞ、こいつ。クールなキャラは二枚の諭吉によって一気に崩れ落ちる。こいつを見ているだけで数時間は潰せそうなくらいだ。
そしてトレーダー鈴木は一見してみれば子供にお小遣いをあげているように見えるが、一周回って何がしたいんだよ。
「おっさん。あんた、その雪男の服をどうするつもりだ?」
昇龍はトレーダー鈴木を見て言う。
「そんなの、決まっているじゃないか! これを高値で売り付け、そして稼いだお金でさらなるものをサーチし、それをお金と交換する! これこそ、トレーダー鈴木流、お金稼ぎなの――」
その時だった。トレーダー鈴木の前に一瞬で姿を表す、赤城。そして、腰から短剣を取り出し、それをトレーダー鈴木が正面に突き出すように持っている雪男の衣服に向け、ひと突きいれた。短い声と共に。
「フレイムっ!!」
その瞬間、短剣の根本から炎のようなものがじわじわと溢れ出し、銀色の光沢をなぞるように炎が侵食していく。それが雪男の衣服に燃え移る。
「いやあああ!! 僕の商売道具があああああ!!」
トレーダー鈴木は雪男の衣装を手放し、その場から数歩避ける。
手放してから五秒後にはもう、雪男の衣装は跡形もなく燃えカスとなって消えていた。
「あなた、今まで黙っていましたが、闇のブローカーとしても有名のトレーダー鈴木さんですよね。高値でぼったくり、商品を売りつける。それは時に犯罪行為にも発展しているとか。汚い手口を使うあなたのお金なんていらないです」
怒った表情をして睨みつける赤城。右手に持っていた先ほどの万札を上空へ投げ飛ばし、炎の宿った短剣で再び切り裂いた。もちろん、先ほど同様、燃えカスとなっていく。
とはいうものの、さっき諭吉諭吉と騒いで万札に飛びかかったのはどこのどいつだ。
「き、貴様あああ……!!」
トレーダー鈴木は叫び声をあげる。いくら悪人といえど、彼のメンタルやプライドはズタズタになっていた。そんな彼に追い討ちをかけるかのように、赤城はトレーダー鈴木の前で剣を振るった。
「シャイニング!」
短剣からものすごい眩い輝きを見せる。その男を斬ったわけではない。何かしらの光を浴びせ、彼の視覚に光を浴びせたのだ。
トレーダー鈴木はその場で倒れ込む。突然の光に気絶したのだろう。
ついに敵も本気を出してきやがったか。
「よくよく考えれば、この男を人質にとってもあなた方にメリットなんてありませんね。関係性なんてありませんし。だったら、あなた方二人を始末すればいい話です!」
短剣を手に、高速移動をしてこちらに近づいてくる。狙いはどちらかはわからない。だが、守ると決めたからには最後まで守り抜く!
僕はその決意を胸に、足を前に一歩踏み出した。だが僕の方に軽く手を置き、さらに昇龍が二本進み、こちらを見る。
「ここはあーしに任せな。あーしにだって、カッコつけさせろっての!」
すると、昇龍は格闘技さながらの構えをとり、右足を後ろに引いた。
「昇龍さんから始末してあげます。クリティカルブリッツ」
とうとう昇龍の目の前まで追いつき、左手を大きく振るった。昇龍はそれに対抗し、右足で短剣と激しくぶつかり合う。
「はあっ!!」
普通ならば、短剣とはいえ、足を切るほどの威力を持つ。小柄ながらこの力。僕なら今頃、真っ二つだろう。だが、昇龍は違った。
赤城の腕の力よりもさらに足に力を込め、回し蹴りで対抗している。二つのぶつかり合う周りからは、激しく風が巻き起こっていた。
すると、赤城は後ろに大きく飛び、引き下がった。
ぶつかり合うのは不毛だと言わんばかりに剣から力を抜く。
「なかなかやりますね。では、これはどうですか。サンダー」
すると、先ほど同様、短剣の根本から静電気のようなものが蔓延る。それが先端まで昇り、短剣はビリビリと青色の静電気……いや、稲妻を発していた。
「あなた方を仕留めるのにこれが一番いいと思いました。先ほどのように短剣に触れれば感電します。感電させて、あなた方を捕まえて差し上げましょう」
「なんだよ、そりゃ!! そんなのズルだろ! 勝ち目なんてないじゃないか!」
「ええ、だから言ったでしょう。抵抗は自由。されど、私には叶わない、と。では、参ります」
少女は再び高速移動を始め、標的を昇龍に定めた。当たればやられ、攻撃をしても短剣で塞がれればやられる。このまま僕は何もできないのか?
ああもう、どうすればいいんだよ……!