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わからせるんだが?

「ははっ! ……おじさああん!? 斬れてないよおおお!? まさか、斬るフリだけの峰打ち〜? 私を斬らなかったことを後悔させてあげ――」


「嬢ちゃん、俺、峰打ちができねえんだ。そのせいでこの道をやめたのもあることを覚えて帰りな」


 スパッ。その瞬間、加賀の近くでものすごい音が聞こえた。加賀が斬れたのではない。加賀の衣服が、微塵も残らず斬れたのだ。


「キャーーーーー!! な、なんなんだよこのおっさんー!!」


 加賀は自分の体を隠すので精一杯でモーニングスターを落とし、膝をついた。

 その光景を目の当たりにした少女たちは足を震わせる。


「怯むな、お前たち! 全員で奴を撃て!」


 可憐の指示でハンドガン部隊、ライフル部隊の全員が一斉に集中砲火で狙撃を始める。狙いは一点のみ。約四十人が一斉に狙うその弾は、本来回避はできないもの。ましてや、彼女らはほぼ毎日、汗を流して訓練を重ねている。それを十兵衛は全速力で会場を駆け抜け、弾丸一つ一つを拘束で避け続け、目の前にいる少女を次々に全裸にしていった。


「何をしている!? しっかり狙え! ましてや訓練されたお前らがどうしてそこまでやられるのだ!」


「狙ってます! 狙ってるのに何故か当たらな――キャーーーーー!!」


「もういやあ〜!!」


「助けてきょくちょ〜!!」


 次々に聞こえ、時間が経つたびに大きくなる少女たちの悲鳴。だが、十兵衛の顔は鬼のように怒り、十兵衛の腕はひたすらに衣服を斬りつけていった。


 服を無くした少女たちは、銃が持たず、ただ体を隠すだけ。これこそが、十兵衛の狙いだった。


 そして、ハンドガン部隊、ライフル部隊全員が全裸になるのを確認すると、その攻撃は今度は戦車に向けられた。


「撃ちなさい……! しっかりと狙うのよ……!!」


 可憐の指示により、戦車の中の少女は射出ボタンを押した。


「あ、あれ……? あれ?あれ!?あれ!!??」


 だが、弾は発射されない。まだ弾は十分にある。なのに、何度も押しても発射はされなかった。それもそのはず、砲身はすでに斬られていたのだ。そして、斬られていたのは砲身だけではないことを知ったのはそのあとだった。


「キャーーーーー!!」


 戦車の中にいる少女の服も斬られていたのだ。だが、砲身以外の戦車には傷一つついていない。その上、少女は戦車からは一度も出ていない。強いて言えば、最初、可憐にスナイパーを渡した時のみ。

 じゃあ、いつ斬られた? いや、違う。彼は戦車を傷つけず、中にいる少女の衣服のみを斬りつけたのだ。

 そんなの不可能だって?

 いや、十兵衛には可能なのだ。


「なんなのよ……! なんなのよおおお……!」


 十兵衛の表情は鬼のまま。普通の男性ならば、こんな四十人もの少女たちの裸体という名のご褒美すぎるこの光景なんて、一生に一度も訪れないだろう。

 そんな光景を目の当たりにしても、怒りの表情は収まらなかった。


「人ってもんはな、失っちゃいけねえもんは一つは持ってるんだよ。それを奪われた時の悲しみや怒りがどれほど自分を苦しめるものか……わかったか、このアマがああああ!!」


「ひいいいいい!!」


 十兵衛は激しく怒鳴りつけた。

 可憐はかつてないほどの悲鳴をあげ、怯えていた。

 可憐は何に恐怖しているのか、自分にもわからなかった。自分も破かれるであろう恐怖か、もしくは十兵衛の怒号か。あるいはその両方か。


「嬢ちゃんがここのボスか。外に車は何台ある? 正直に答えな」


 十兵衛は可憐に先ほどとは違い、少し優しく問いかける。それに対して可憐は震えていた。


「ご、五台……です……はい……」


 可憐は嘘をつく気力もなくし、正直に答えた。


「ほお。五台か。じゃあその五台のタイヤを全てパンクさせれば、あんたらはどうやってここから帰るんだ? 賢いあんたなら、もう俺が何を言いたいのかわかるだろうな」


 十兵衛はもし可憐が攻撃をしようとしてきた場合、乗ってきたバスのタイヤをパンクさせようとしていた。いくら正義執行管理局最高戦力である可憐ですらそこまで言われれば抵抗はできないと考えていた。


「わ、わかりました……調子に乗ってすみませんでした……あ、あんたたち! 撤収よ! 全員、バスに乗り込んで!」


「キャーーーーー!!」


 少女たちは悲鳴を上げながら全員、バスへ乗り、帰っていった。

 それは可憐も例外ではない。可憐は唯一服を着ていたが、恐怖のあまり、一目散にバスに乗っていった。


「やれやれ……最近の若造どもはこれだから……な、旦那様……ん?」


 十兵衛が彦摩呂の倒れている隣に立ち、彦摩呂に声をかける。だが、彼はそこで妙な違和感を感じるのだった。

 彦摩呂の撃たれた足。そこには、ほんの少し出血はしているものの、緑の液体が付着していた。それは彦摩呂だけではない。黒ずくめもだ。


 そして彼は一言こう呟いた。


「こりゃ少し、あやつらに悪いことをしてしまったようだな……」




 僕と昇龍はひたすら先を走った。先はまだ少し長く、何メートルもの廊下が続く。

 そこで僕は先程の昇龍の言動を思い出し、疑問に思ったことがあった。


「お前、さっき父親が撃たれる前も悲しい表情を浮かべていただろ。何か他にも気になることがあったのか?」


 そう、それは戦車からの攻撃が来た時のことだった。

 昇龍を連れ出そうとした僕だったが、彼女の瞳の光はすでに失っていた。その後に彦摩呂が撃たれたとなると、その前にも何かショッキングな出来事があったのかも知れない。


「うん。ケーキを切ろうとしたとき、あいつらが邪魔したせいで切れなかっただろ。しかも飛んで行った包丁がケーキを雑に切りやがった。それがなんでかわからないが、すごいショックだったっつーか……」


 紫可憐の攻撃により、僕らが持っていた包丁が空中に舞い、それが無惨にもケーキを雑に切り裂いた。

 理由はわからないが、昇龍はそれを楽しみにしてたってことか。

 でもなんでそれがショックだったんだ? よほどケーキを切りたかったといえば納得はいくが、こいつに限ってそんな乙女心もあるのか。

 乙女心は複雑だな。


「わかった。ここを抜けたら僕についてこい。お前と行きたい場所がある」


「え……? あ、お、おう……」


 どこかぎこちない返事をした。僕には考えがあった。手持ちのものはスマホと、百円玉が一枚、五十円玉が一枚、十円玉が四枚、一円玉が一枚の合計で百九十一円ポケットに入っていた。

 あれか。前にポテチの補充のためにコンビニに行ったが、そのお釣りがあまり、財布に入れるのも面倒くさくなり、そのままポケットに入れっぱなしだったのだろう。


 そうこう話していると、正面にはもう進めず、右に扉のようなものがあった。その前には見覚えのある二人が怯えながら座っていた。


「ひいいいいい!! 僕はもうここで終わるんですううううう!! 終わりだあああああ!!」


「オオオオオオオオ……」


「あれ、あいつら……」


 一人は下を向いている上に白いハット帽で顔が隠れており、わからなかったがトレーダー鈴木。彼はよくわからないがひたすら号泣していた。

 そしてもう一人は、雪男という名前でこの結婚式に出席した白い毛皮の謎の生命体。こちらも、会場にいたときの元気はどこへやら、悲しそうな声で(うな)っていた。

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