乱闘が始まるんだが?
「それがあなた方の答えですか。やりなさい! 一人残さず始末するのよ!」
「はいっ!!」
すると向こうのメイド服のリアル女たちも威勢良く返事をし、銃を構え、発砲を始める。それに対抗するかのように、男たちも容赦なく発泡。何がどうなっているんだよ。
すると、VIP席にいた三人も立ち上がる。そのうち二人は慌てている様子で僕らの後ろの非常口の方向へ走り出すが、一人だけその場を立つだけで動かなかった。
「ウッヒョオオオオオオ!! マイブレッドパーリーナイツッ!! ランチャープリーズッ!!」
ドン・ジョコビッチだ。
彼は遠くにいる昇龍の父に向けて手を伸ばした。
「ジョコビッチ! 派手に暴れてこいっ!!」
すると昇龍の父は、ドン・ジョコビッチに向けて服の内側に手を入れ、サブマシンガンを二丁渡した。
それを受け取り、両手で銃を持ち、左右の人差し指で両方の銃をぐるぐると回す芸当を見せつける。
狂ってる……!あいつらもそうだが、こんな状況で顔を赤くして興奮しているドン・ジョコビッチは最高に狂ってやがる……!
そして両方の手にある二丁のサブマシンガンを前へ突き出し、狙いを紫可憐に合わせた。
「グッパイ! ビューティフルランチャーガールッ!! フオオオオオオ!!」
彼の二丁の銃口からは、激しく火を吹き始め、満面の笑みで撃ち始める。サブマシンガンはそれなりに重いであろう。だが、それもハリウッド映画の如く、彼は器用に扱い、反動がないかに見えるくらい、狙い通り打つ。
すると、ただ一人戦車にずっと座っていた水色のボブの髪型をした少女が立ち上がり、どこからともなく、黒い球に黄金のトゲトゲのついた武器、モーニングスターを取り出した。
小柄な少女よりも大きいサイズをなんとも無しに持ち上げる。
こちらも銃火器同様、かなり重い。いや、サイズによってはこちらの方が重いだろう。
驚くことに、武器を簡単に持ち上げ、少女自体が飛んでみせた。少女についてくるかのように、モーニングスターも高く飛び上がる。
彼女が飛んだ先は、紫可憐から1.5メートルくらい前の距離のところ。
そして、少女の前にはドン・ジョコビッチが放った弾が無数に襲いかかっている。
「エイトシールド!」
すると少女は、前方に向かってモーニングスターを八の字を目にも止まらぬ速さで描き始める。かなり重いのに、あんなにも軽々と美しく振り回している。その上、対空時間も長い。紫可憐もそうだが、あいつも普通じゃない身体能力だ……
弾丸は全て八の字を描くモーニングスターによって弾かれ、カキンカキンと音が鳴り、弾丸の雨は床に散りばめられる。
「ホワアイ!?」
ドン・ジョコビッチは驚いた表情をし、猫背になり、目を泳がせていた。
そんな彼の前に、少女は静かに着地する。だが、モーニングスターは少女の手の中でまだぐるぐると回っていた。
「正義執行管理局幹部ナンバーツー加賀だよ! 私のモーニングスターの威力はどう? 最強でしょ? 次はあなたが身をもってその強さを味わって! くらえ、ハイパーショット!」
加賀と名乗る人物は、それをドン・ジョコビッチの腹に突いた。彼は勢いよく吹き飛び、三十メートル先の僕らの方の壁に穴を開けた。壁は蜘蛛の巣のようにひび割れ、口にずっと咥えていた葉巻を落とす。
「ぐはっ!!」
「ドン・ジョコビッチ。米国から逃亡中の殺人鬼でしたっけ。米国の警察から情報は我々の方にも入っています。全く、米国の警察の方々は何をしているのだか。せっかくですので、私が米国の警察署の前まであなたを送ってあげましょう」
まずいだろ、こりゃ。
このおっさんは僕たちのために戦ったくれた。いや、ただの快楽者だったのかも知れない。それでも、戦ってくれた事実には変わりない。
ありがとう、おっさん。あとはゆっくり休めよ。
「さて、次はあなたたちです。火災、暴行、殺人未遂を起こしたあなた、東條隆さん。そして、身内が悪に手を知っているのを知りつつもそれを見過ごしてきた、昇龍妃さん。あなた方です」
この野郎……!! もう、許さん……!! 僕だけでなく、昇龍までも恥に晒す。許しては置けなかった。
「ざっけんな、このくそビッチ! お前らの方がよほど犯罪じゃねえか! お前のそのデカ乳こそ、犯罪級にエロいじゃねえか! そんな乳、犯罪だ! はーんざい! はーんざい!」
気の狂ったように人差し指で紫可憐の胸を指差し、手を叩き、「はーんざい!」と繰り返した。周りの奴らは口をぽかんと開け、固まった。
ああ、だめだ……!
流石の僕でもこの空気は恥ずかしい……! 恥ずかしいよお〜、お母さ〜ん……!
「なっ……! なっ……なっ……!! 私が犯罪者ですってえ!? 消し炭にしてあげます! 砲撃部隊、砲撃用意!!」
怒るとそこ!?
いや、それどころではない。紫可憐の指示で大砲の砲身が上がる。狙いは今度は間違いなく、僕と昇龍だ。
くそっ……! 逃げるか……! いや、逃げれない! だが、少しでも遠くへ逃げて受けるダメージを減らすことはできる。
「昇龍! 逃げるぞ! あいつら、僕を狙う気だ!」
僕は昇龍の手を引き、連れ出そうとする。だが、彼女の瞳に光は宿っていなかった。
希望が消えたような瞳。いつもの自信満々な昇龍の姿はどこにもなかった。
「大丈夫か! しっかりしろ! くっ……!」
今なら僕一人ででも逃げられる。だが、僕は逃げない。逃げたら命は助かっても、絶対に後悔するからだ。後悔しながら生きていくくらいなら、後悔なく誰かのために死んだ方がマシなんだよ……!
僕は昇龍の前に立ち、両手を広げた。
「ファイアッ!!」
紫可憐の言葉に、砲身の中から巨大な弾丸が襲いかかる。もうダメだ……! おしまいだ……!
僕は唇を噛み締め、覚悟を決めた。
その時だった――
スパッと綺麗な音が会場に響く。目の前には襲いかかる弾丸はなかった。いや、違う。弾丸が真っ二つに斬れたんだ。
それは一瞬の出来事だった。遅いから弾丸を刃物一つで切り裂き、左右に飛んで行ったのが一瞬だが目に映っていた。
「弾も大きく、撃つ速度も対して速くない砲弾。今まで切ってきた中で最もつまらぬわ」
そしてそれを切ったのは、十兵衛だった。
可憐な剣捌き。一筋の銀色の閃光のように、刃物を振り、弾丸に当てる。そして、相手を鋭く睨みつける眼光。こいつ、何者なんだ。
「ほおう。元警察特殊部隊隊長、コードネーム瞬殺の斬撃の十兵衛さんじゃないですか。確か、わずか一秒で十人の兵士を倒すとか。そんな人がどうしてこんなところにいるのです?」
元警察特殊部隊隊長!? そんな人がなぜこんなところで。それに一秒でだと!? 「十人の兵士を倒す」。だから十兵衛なのか。というか、この人もこの人でやばすぎだろ……
そしてそこまでの情報を持っている正義執行管理局。やはり、只者ではない集団だ。
「そのコードネームで呼ぶな。虫唾が走る。昔の俺は捨てたんだ。自分がなんのために仕事してるのかわからなくなってやめたとだけ言っておこう。そんな時、旦那様と出会い、その旦那様の右腕になることにした。ただそれだけだ」
なんか、かっこいいな。
「じゃあ、これはどうでしょう?」
その瞬間、大砲の上に置いてあったスナイパーを再び取り出し、それを昇龍の父に向けた。
あいつ、まさか……!?
「さようなら、極悪犯罪者」
スコープ越しに標的を片目で見つめ、引き金を引き、再び射撃された。ここから昇龍の父までの距離はそれなりにある。
「しまった! 旦那様!」
十兵衛は聞いたことのないような声をあげる。走り出そうとしたが、それには間に合わないと思い、その場に留まった。いや、違う。十兵衛はさらに被害が出ないよう、僕らの前に立って守っているのだろう。
「ぐっ……!」
そしてその弾丸は昇龍の父の足首に命中した。
彼は倒れ、目を瞑り始めた。
そんな彼は小さな声だが、何かを言って静かに眠った。
「妃を頼んだ」それはおそらく、僕に言ったのだろう。
父の眠りにつく姿を目の当たりにした昇龍はさらにショックを受け、膝をついた。
「おやっさん!?」
さらに、黒ずくめの男たちは一堂に昇龍の父の方を向く。
だが、それが甘かった。
「みんな、撃っちゃえー!」
その隙に加賀が指示を出し、一斉にハンドガン部隊、ライフル部隊の猛攻撃が始まり、黒ずくめの男たちを襲いかかる。
「ああっ……!」
「うはっ……!」
黒ずくめは誰一人残ることなく、その場で倒れてしまった。
「なんだよ、これ……楽しい結婚式じゃなかったのかよ……」
数分前までは笑顔の飛び交う結婚式だった。黒ずくめたちも笑ってた。少しぎこちなかったが、昇龍の父や十兵衛も笑っていた。あのVIP席の奴らも笑ってくれていた。そして、昇龍だって笑っていた! それは、僕が初めてこいつの心の底から笑っているのを見る、笑顔だった。
それなのに……なのに……
「麻薬密輸、買収、横領、その他もろもろを犯した犯罪者、昇龍彦摩呂を黙らせただけでこれほどまでに効果を示すとは」
こいつの言うとおり、昇龍の父、本名昇龍彦摩呂が倒されただけで一気に戦況は傾いた。本来強いはずの昇龍は床に手をつけ、十兵衛は剣を床に突き刺し、目を瞑って震えていた。だが、一番の役立たずは僕だ。僕なんて戦力にすらなっていないじゃないか。
「あと残ったのは東條隆。昇龍妃。そして十兵衛。あとこの場におらず、見落としているような気がしなくもない人もいますが、まあいいでしょう」
いや、僕にだってできることがあるはずだ……!
僕は再び、昇龍の手を強く握る。
「逃げるぞ、昇龍! ここは危ない! あんたも危ないぞ!」
昇龍に呼びかけ、十兵衛にも呼びかける。だが、彼は黙りっぱなし。昇龍は涙をこぼしていた。
「父さん……! 父さん……! うううっ……!」
そりゃこうなるのもわからなくもない。目の前で父親が撃たれれば、誰だってこうなる。
僕だって身内がやられれば、おそらく今の昇龍と同じ状況になるだろう。でも、やるしかない。
「お前の父親はどうなるかは正直わからない。だが、今の僕たちは生きてる! 生きてるってことはこれからなんだってできる! だが、死んでしまったら何もできないんだよ!」
彦摩呂は僕らを生かすために撃たれてしまったのかもしれない。もし、彦摩呂ではなく、僕らだったら。そう考えたら、彼が僕らを生かしてくれたと考えることもできる。
「で、でも、父さんが……!!」
「だったらお前が悲しくなくなるまで僕がそばにいてやる! 悲しくなくなってもそばにいて欲しければいてやる! だから僕について来い!! 僕がお前をさっきみたいに守ってやるから!」
「東條……」
僕はその手を引く。昇龍も手を強く握る。
離れないように。その手はとても暖かく、心がどこか落ち着いた。昇龍は立ち上がり、小さく微笑みながら僕の瞳を見つめた。
「あんたも早く逃げねえとやられるぞ!」
「俺はいい。そこの非常口を突き当たりにまっすぐ進め。そこから逃げろ。俺は旦那様の右腕だ。右腕は主人の最後の最後まで離れないってのがおきてだ」
「行こう……東條」
十兵衛に言われたとおり、緑色に点滅している非常扉を開ける。閉めている暇はない。とにかく進むんだっ……! そう思っている矢先のことだった。
「待て待てーーー!!」
後ろからブンブンとモーニングスターを振り回す音が聞こえる。あいか。
その音はだんだん近くなっていく。すると、少女の横からものすごい速度で何かが通り過ぎていくのが見えた。
「秘技、裸身斬り!!」
「……なっ!?」
「坊主! そのままお嬢を連れて突っ切れ! こっから先は大人の世界だから見んじゃねえぞ!」
あのおっさん、何をする気だよ!? まさか、相当グロテスクなことするんじゃないだろうな!?
いや、でも足を止めている暇はない。僕は非常口をくぐり、長い道を直進した。