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斬るんだが?

 そして会場は拍手に包まれた。黒ずくめたちはもちろんのこと、十兵衛や昇龍の父も小さく拍手をしていた。


 なんだろう、どこか自分の中で幸福感を感じる。

 例え、反社会勢力であるこいつらだろうと、たくさんの人から拍手をもらい、どんな形であろうと祝福される。決して悪い気分はしないものだった。

 彼らは純粋に僕らを祝福し、今を楽しんでいる。そんな彼らの一面を見てどこか少し安心していた。


 すると、僕の目の前に一人の黒ずくめがきて、一礼をしてマイクを回収する。それを再び視界に渡した。


「新郎東條隆さん、ありがとうございます。では私どもからサプライズで、お二人のためにウエディングケーキをご用意させていただきました」


 すると、西口の扉が開き、台車に乗った巨大なケーキが黒ずくめによって運ばれてくる。それを司会の黒ずくめと協力して僕と昇龍の前の机の上に運んだ。

 大きさは僕の身長より少し高いくらいの巨大なケーキ。何段にも重なった巨大なケーキは、クリームが満遍なく塗られ、イチゴもたくさん乗っている。台車にはこれまた大きな包丁が置かれていた。それを代車を運んできた黒ずくめが手に持ち、昇龍に渡す。


 司会は小走りで自分の持ち場に戻る。


「それでは、ウエディングケーキを愛の共同作業で切っちゃってください! ちなみにこのウエディングケーキ、我々黒ずくめたちがちょっとずつお金を出して買ったものです! ぜひ、ズバッと! ズバッと!」


 すると、司会の黒ずくめは泣き始める。いや、司会だけでなく、座っている何十人もの黒ずくめたち全員が泣いていた。


「お前ら……」


 昇龍は隣で感謝しながら言った。

 昇龍のことをどんな形であれ、娘のように可愛がっているこいつらだ。そんなこいつらからのサプライズ。泣かないわけもない。


「東條」


 昇龍は僕の名前を呼んだ。「一緒にウエディングケーキを切ろう」。そう言っていることが言わずとも伝わってきた。


 黒ずくめたちの想い、そして、昇龍の期待に応えるため、昇龍の手を重ね、包丁をゆっくり落とした。

 もうすぐで切れ目が入る。そんな音はどれほどいい音なのだろう。僕にしては気持ち悪い発想だ。だが、そんな僕も悪くないと少しばかり自分に酔いしれてしまう。

 あと少しで――

 あと少しで切れ目が入る。


 切れ目が入るまでもう数センチ。


 あと少し――

 あと少しで――


 ドカアアアアアアンッ!!


 聞こえたのはケーキの切れる音なんて聞こえのいいものではなかった。何かが破壊され、重量級の何かが入ってきた加速音。

 そして、耳の割れるようなブレーキ音。


 僕と昇龍は手を止め、聞こえてきた正面を向く。


 扉は跡形もなく破かれ、用意されていた食事は皿が割れ、食べ物もたくさん落ちていた。

 なにより、ここは結婚式。それなのに、この場に全くもって相応しくない()()()()()()()()()()()があった。

 緑色に塗装され、巨大な砲撃ができる銃口まである。


 さらにそこには、一人のリアル女が戦車の上にバランスを保って立ち、その横には水色のボブの髪型をした一人の少女が座っていた。


 少女が着ている服はメイド服。戦車の上に立っている女もメイド服。そして、そのうちの一人は見覚えがあった。ロングヘアーの紫髪。


「てめえは……紫可憐……!?」


 紫可憐。

 蘭壽との戦闘後、病院で運ばれ、目を覚まして早々僕を襲ってきた正義執行管理局局長を名乗ったやつ。こんなところまで追ってくるなんて。


「あら? 東條隆さんではありませんか。今回はあなたが目的ではありません。反社会勢力である昇龍組を捕まえにきました。一人残さず、ね」


 紫可憐は不気味な笑みを浮かべ、自分より下にいる黒ずくめたちを言葉通り見下す。

 黒ずくめたちも何が何だかわからない状況だった。流石にサプライズってことはないよな。

 そう思い、昇龍の父の顔を見たが、やはり苦い顔つきをしていた。


「でもまあ、あなたが手に持っているものは危ないですね。人を傷つきかねません。没収させていただきます」


 すると、洗車の中の入り口が開き、長い銃がそいつの手に渡った。

 スコープのようなものもついており、日本じゃ到底あり得ないが、スナイパーのようなものに思えた。

 それを両手で持ち、片目を閉じる。こちらに狙いを定めている?


「十兵衛!!」


 昇龍の父がそう叫ぶ。

 十兵衛も瞬時に席を立ってこちらへ走り出す。


「くそっ! 間に合わん!!」


 十兵衛はそう呟いたのも束の間、紫可憐は一言そう放った。


「ショットっ!!」


 そして、ものすごい速度で何かが近づいてくる。他の料理の隙間や、混乱する黒ずくめの何一つ当たらず、一点だけを狙う。

 そしてその速さは避けられるようなものでもない。

 どこだ!? 何を狙っている!? 僕か!? 昇龍か!?

 違う、僕らじゃない!!


 カーンっ!!とものすごい音が鳴り響く。それは、僕と昇龍が手にしていた包丁だった。


「俺らで買ったケーキが……!」


 包丁はものすごい速度で僕と昇龍から離れていき、空中へ飛んでいく。そして、グシャリとケーキを少し斜めに切り裂き、ケーキは崩れ落ちた。


「正義執行管理局局長、紫可憐でございます。あなた方全員に問います。今から投降する人はこちらへ来てください。刑は軽くしてあげます。痛い思いをしなくて済みます。あなたも例外ではありませんよ、東條隆さん?」


 いろんな方向を向き、呼びかける。そして最後に僕の方を向く。すると、後ろから大量のメイド服を着た十代くらいのリアル女がぞろぞろと出てくる。ざっと見ただけでも四十人。全員、ハンドガンもしくはライフルをもれなく武装している。

 その場の誰もが怯んだ。動けなかった。

 何が起きているのかも理解できず、圧倒される相手の戦力。こんな奴らに対抗するのも馬鹿馬鹿しいと一瞬でも思った奴がいてもおかしくはなかった。

 ()()()()()()()()()()()()


「俺はな、どれだけ悪の道を進もうと、どれだけ世間から冷たい目線を浴びようと、おやっさんに一生ついていくと決めたあの日から決意は揺るがねえんだよ! お前らだってそうだろ! こんな奴らに負けるな! 自分の意思を強く持てっ!!」


 そう言ったのは、司会の黒ずくめだった。

 こいつは黒ずくめの中で特別上にいるとかいうわけでもないだろう。なんせ、服装が他の黒ずくめと同じで見分けがつかないくらいだからだ。

 それでも彼は声を張り上げ、腹から声を出して言った。

 彼の言葉がなければ、今頃全員捕まっていただろう。


 そして黒ずくめたちは立ち上がった。


「そうだ、俺たちが立ち上がらなくてどうする!!」


「俺もやるぜ、おやっさん!」


 黒ずくめたち全員が声を上げた。その言葉に、昇龍の父も応えた。


「お前ら、やる気満々のようだな。野郎とも! 武器を出せ! 相手が女だからって容赦するな! 俺だけじゃない! 一人の女とその旦那を守るために、死ぬ気で戦い抜けえええ!!」


「おおおおおおおっ!!」


 黒ずくめ全員が内側の胸ポケットからハンドガンを取り出し、前へ走り出した。

 投降する奴なんて一人もいない。

 これが、昇龍組の力!?

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