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有名人の来客なんだが?

 司会の言葉に続くように、二人の黒ずくめが扉を開けた。


 すると、一人の金髪の小太りの中年男性が現れ、こちらへ歩いてくる。口にはガンマンが咥えるようなでかいタバコを咥えていた。あれなんていうんだっけ、葉巻?


「人を殺した数は数知れず! その噂は偽りか真実か……ドン・ジョコビッチさんです!」


「誰だよ、ドン・ジョコビッチ!」


 司会の言葉に大声でツッコミを入れた。いや、まじで知らん。ハリウッドスター? 海外で有名なアイドル? ていうか、「人を殺した」って嘘だよな?


「オウ! ブラボーブラボー! ハッピーケッコーン! ブハハハハハハッ!」


 何を言っているのかさっぱりだ。日本人ではなさそうだけど、海外の方にしても英語の文法がめちゃくちゃだ。


「あのジョコビッチさんが!?」


「や、やべえよ! あとでサインもらいにいこう!」


 周りを見ると、黒ずくめたちは歓声を発していた。

え、マジで誰? そんなに有名なの、ドン・ジョコビッチ。たくさんの拍手とともに、その男は三席空きのある一席に座った。


「ドン・ジョコビッチさんは現在、海外で指名手配されており、海外警察から逃げているということで日本に来られたのもあるとのことですが、それは本当ですか?」


「オーイェー!」


 司会の謎のインタビューに男は両腕を上げ、ニコニコと笑いながら言い放った。それを見た黒ずくめはさらに喜びの歓声をあげる。


「なんでこんな奴が来てんだよ! 来ちゃいけないやつだろ!」


「そして続いての有名人はこの方! この世の全てのものをトレードできる男、トレーダー鈴木さんです!」


「あ、どうも、トレーダー鈴木です」


 急に日本人かよ。世界の有名人って言うんだからまた海外の人かと思ったら。あとだから誰だって。

 そんなことを心で呟きながら、中央扉を見る。白いハット帽をかぶっており、目は長い前髪で隠れている。

 しかもこの挨拶。どうせ、(ちまた)で有名なカードゲームのカードを何枚かコレクションしていて、それを値段次第で売り渡すとかいうノリだろう。


「おいおい! やべえよ、トレーダー鈴木だぜ!」


「ええ!? あの彼女いない歴(イコール)年齢かっこ今年で二十七歳かっことじ、職業自宅警備員、埼玉県在住、おかんの土手鍋がおいしいと噂の、あのトレーダー鈴木まで来てんのか!?」


「あんたら、ただディスってるだけだろ!」


 ドン・ジョコビッチの時と反応が一緒のようで違いすぎる。トレーダーより、それ以降の情報の方が印象強すぎてもうどうでもいいわ。ていうか、黒ずくめの敬意すらなくなっているのは僕の気のせいか?


「トレーダー鈴木さんはこれまで何をトレードされてきましたか?」


「ま、僕の手にかかれば、小麦の種からジェット機、某大手飲料品企業や、国を一つトレードしてきました。ああ、試しにそこの惑星一つトレードさせてみせましょうか?」


 トレーダー鈴木と呼ばれる男は人差し指のみを静かに上にあげ、なぜか自信たっぷりだった。


「こいつ絶対話盛ってるだけだろ!」


 小麦の種なら実家が農家とかであり得ただろうけど、あとは全部あり得ないだろ。しかも、惑星の話を始めた辺りから気持ちの悪い笑みを浮かべているし。下手したら僕と並ぶほどに妄想力が豊かすぎる。


「まじかよ!? 前にあの有名国の総理がお金を渡して国をトレードしたっていう噂はやはり本当だったのか!」


「え? そんな情報あったっけ? ニュース毎日見てるけど、そんなニュース――」


「馬鹿! お前も合わせとけって!」


 黒ずくめたちは小さな声で何かを喋っている。あ、ふーん。男はドン・ジョコビッチと同じテーブルに座る。結局何者なんだよ、トレーダー鈴木。


 いや待てよ、あの席はVIP枠と考えていい。そして三つの席。そのうち、二つの席はドン・ジョコビッチとトレーダー鈴木が座っている。だとしたらまだ一人来るのか。

 どうせまた、しょうもない人だろう。いや、一周回ってドン・ジョコビッチのようなやつも……


 そうこう考えていると、案の定、中央扉には人影が現れた。


「最後はこのお方! 世間から認知されなさすぎて、ついつい日本に来ちゃいました! 北極からお越しの雪男さんです!」


「オオオオオオオオ!!!!」


「そもそも人じゃ……なかった……」


 威勢よく立ち、前を歩き出したのはゴリラのような見た目をした謎の生命体だった。だが、ゴリラとは少し違う。白色の毛皮で、ゴリラと違って少し理性がある。そして若干の間抜けズラ。

 あいつ……ゴリラじゃないっ……!?


「嘘だろ……! 雪男って本当にいたんだ……!」


「あとで触りに行こうぜ!」


 黒ずくめたちは雪男雪男と連呼している。いやでも、雪男って都市伝説の生き物で実際にはいないんじゃないのか。いや、でもこうやって目の前にいるわけで……何がどうなっているんだ?


「雪男さんは普段、何を食べていらっしゃるのですか?」


「オオオオオオオオ!!!!」


「突っ込むのももう疲れたよ!!」


 かつてないほどに大声をあげてツッコミを入れる。その後、雪男と呼ばれているやつは先程の二人のテーブルの空きの席に律儀に座った。

 別にもうどうでもいいが、結局こいつらはここのグループとどう関係しているんだよ。


「素晴らしい面々が揃いましたね。ではここで、新婦昇龍妃様より、新郎東條隆様とのエピソードを語っていただきたいと思います」


 え!?

 事前にそのような情報は聞いておらず、思わず隣にいるしょうりゅうを見つめた。昇龍の顔は引き締まっており、起立した。

 そこへ、司会がマイクを昇龍に手渡す。


 そして、昇龍が口を開いた。


「東條さんとは、学校で知り合いました。高校一年生の頃から同じクラスでしたが、最初彼のことは情けない人だなと思いつつ、憐れんだ目で見ていました」


 なーにが憐れんだ目だ。その言葉、そっくりそのままお返ししてやるよ。


「ですが、二年生に入り、彼の魅力に少しずつ気がつき始めました。学校で火災が起きた時も、妹を助けるために必死に犯人と戦ったり、困っている人を前向きに助けようとしている姿に私は心を奪われました」


 犯人と戦ったりっていうのは事実ではあるが、困っている人を助けたか?

 全く身に覚えがない。多分、こいつが場を良くするために作り出した嘘だろう。


「そんな彼のことが、今では将来を誓い合った仲だということをとても嬉しく思います。私は彼……東條さんのことを……心より愛しています」


 昇龍は微笑んだ。その微笑みは、今この場にあるものよりも、何よりも輝いていた。その言葉と微笑みにしばらく我を忘れ、彼女の瞳、その一点だけを見つめていた。

 昇龍のこと言葉が本当かどうかは僕にはわからない。だけど、一つだけわかることがある。"僕は今、心の底から喜びを感じている"。


「では、新郎の東條隆様から一言お願いします。昇龍妃様、マイクを新郎へ」


 昇龍は何も語らず、ただ一つ笑みを浮かべ、僕にマイクを託した。僕はそれを頷きながら受け取る。


「昇龍さんのことは最初、僕も少し苦手だなと思っていました。でも次第に、お互いの目標のために頑張るライバルのような関係になっていき、昇龍さんのまた変わった一面を見ることができました」


 目標っていうのは僕が副業のために覗き、それを女子生徒のために僕の前に立ち向かう昇龍ってことだけどね。でもそのおかげか、こいつは本当は一思いで優しい性格をしていることがわかった。

 火災の時だってそうだ。もどきのために、僕よりも先に昇龍が動こうとしていた。

 すごいと思ったのは本当なのだ。


「そんな昇龍さんの近くにいられるということが今でも信じられません。これからも、よろしくな」


 ここで臭いセリフは言わない。言ってしまえば、何かが自分の中で壊れてしまい、取り返しのつかないことになってしまうと思ったからだ。だから、「これからも、よろしくな」。そう、僕はこいつを友達と認定することにしたんだ。


 すると昇龍は顔を赤らめ、顔を伏せた。

 やばい、なんか勘違いされたかも。

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