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赤裸々トークなんだが?

 あれから数分が過ぎたころだった。

 再びスマホが鳴り出す。僕は脱いだズボンのポケットから自分のスマホを取り出し、確認した。


(今すぐ布団にくるまる:400円)


「ぐっ……! だがやるしか……!」


 副業の命令は布団の中に入ることだった。この部屋にある布団は今昇龍が入っている布団のみ。僕は立ち上がり、昇龍の入っている布団の方に向かった。昇龍は反対方向を向いている。


「なんか言ったか東條――って、お前何してんだ!?」


「僕も寒いんだよ! 入れさせろ!」


 お互い顔は合わせず、裸で会話する。体も反対方向を向く。


「だったら服着ろ!」


「しょうがない。ここまできたら本当のことを話そう」


「な、なんだよ……」


 真剣な声で話を進める。ここで変に疑われたら困るからな。


「僕は裸にならないと気が済まないし、裸の人間が近くにいないと気が済まない性癖を持っているんだっ!」


「きめえよ、このクソキモオタがっ!」


「キモくて結構! 貴様なんざには拙者、興味はないでござるっ!」


 今になって思う。なかなかなことを言ってしまったのではないかと。だがこれも副業をこなすため。多少の犠牲は仕方がない。

 その後、再び沈黙。しかし、その沈黙はすぐに破られた。


「な、なあ……東條?」


「なんだ」


「その……去年の三月のこと……その……悪かったな……」


 またか。去年の三月とはおそらく、僕が学校に行かなくなった時のことだろう。だが前も謝ってきた。ぶっちゃけ、別にそんな気にしていない。


「もういいって。お前もクラスの風紀を守るためにやったことだろ。それなら、あの程度のこといじめにはならない。まあ、度は過ぎていたとは思うがな」

 

「……」


 僕の言葉に昇龍は黙る。反応に困ったってんじゃねえよ。後味の悪いのは僕は嫌いだ。


「もし悪いと思うなら次に活かせばいい。その分、人を愛せる人間になることだな。なんていうか、その……もう少し素直になってみるのもいいと思うぞ」


「そ、そうか……」


 返ってきたのはそうかの一言。それは僕が反応に困るんだが。ていうか、後何分ここにいればいいんだよ。


「そ、それと……さ……ロジカルファンタジーのことなんだけどさ……」


 ん? ロジカルファンタジー? 昇龍からはロジカルファンタジーという単語が出てきた。これはまた意外だ。


「ロジカルファンタジーだと!? ロジカルファンタジーがどうした!? ロジカルファンタジーをプレイしてみたくなったのか!?」


 と、その時だった。言葉に反応した反動で反対側を向いてしまった。そこには、顔を赤らめた昇龍の顔があった。


「え!? おま――どうしてこっち向いて――」


「こ、こっちみんなっ!!」


「うはっ!! な、なんで……」


 布団の中で膝蹴りされ、腹部にダメージを負う。まじで腹部だけはやめてくれ……この前の傷がまだ癒えてないんだ……ガク……



 その後、僕は再び反対方向を向き、壁を見つめながら昇龍と話した。


「それで、ロジカルファンタジーがどうした?」


「だから、最近素材集めとかクエストの調子はどうだって聞いてんだよ」


「まあ、ぼちぼちってとこだな。最近は忙しくてな」


 忙しいっていうのは主に副業だな。それに、シャルロットたんのアバターも今は消滅している。やりたくてもシャルロットたんのいないロジカルファンタジーなんて考えるだけでゾッとして、少しやる気が削がれている。

 やはり、シャルロットたんがいないと拙者、ダメでござるよ――って、あれ?


「なんでそんなことを聞くんだ?」


「いや、だってお前最近、ログイン見ても十六時間前とかがほとんどだぞ。前までは見るたびに必ずオンラインか五分前以内には入っていただろ」


 確かにそれは事実だ。四六時中オンラインになっていた。五分前以内というのは、トイレやお風呂の時の数分間のことを示していて――


「え!? なんでお前が僕のログイン状況を知っているんだ!? そもそもログイン自体、ロジカルファンタジー内でのフレンドにしか公開されていないはず!!」


 そう、例えばロジカルファンタジー内で仲のいいプレイヤーを見つけたとしよう。だが、そのプレイヤーとたとえ仲良くなったとしても、フレンドにならないとオンライン状況は確認できないのだ。


「あんた、まさか気づいてない?」


「まさか、総プレイ時間5桁を超える拙者にもわからない、相手のログイン状況をわかる方法があるとでもいうのか!?」


 わからない。わからないわからないわからない。拙者はロジカルファンタジーの全てを知り尽くした男。そんな拙者に知らないことがあるなど……!

 僕は戸惑いを隠しきれなかった。だが、その戸惑いとは正反対に、昇龍は呆れたかのように大きくため息をついた。え? なんで呆れられたんだ?


「だからさ、あんたのフレンドなんだけど。あーし」


「え?」


 フレンド? 今こいつは、フレンドと言った。いやわからない。画面の中のシャルロットたんと会話をしていないせいで耳が悪くなったのかもしれない。


 あのヨーロッパのフランスでの代表的な食べ物、「フレンチトースト」と言ったのかもしれない。

 いや、もしくはこいつは今をときめく女子高校生とやらだ。画像加工に使う、「フレーム」という言葉を発したという可能性だって――


「龍姫だ。前までよく、素材集めとかしてたろ。緊急クエストとかにも一緒に行ったりしただろ。あの双剣使いで中華系の服をよく統一していた――」


「ええええええええええ!!!!!!??????」


 ま、ま、ま、ま、まさか、僕の目の前にいるのがその龍姫さんだっていうのか!? いや、あんな日本清楚代表グランプリ最優秀賞みたいな人が、このギャルだっていうのか!?

 ありえん! ありえんぞ! 拙者は断じてそれを認めんでござるううううう!!


「気づいてなかったの、あんた?」


「そんなはずはない! あんなにも美しく可憐なお方がお前なわけが――」


「じゃあどうしてあんたのログインこと知ってんだよ。素材集めや緊急クエストに一緒に行ったことを知ってるのも何よりの証拠じゃないか」


 確かにそれを言われると弱い。僕はここ最近緊急クエストにはよく、龍姫さんと一緒に行っていた。じゃあ本当に……


「龍姫さん、いつもありがとうございます! こんな形ですが、お会いできて光栄でございます!」


 感動のあまり、本音が出てしまった。目から涙も溢れ始めていた。


「面白すぎでしょ、あんた。それと気持ち悪いからいつも通りの喋り方にもどれ」


 昇龍は再び、呆れるように言った。


 まさか、昇龍と龍姫さんが同一人物だったなんて。話したいことは山ほどあるが、今こんな状況ではな。


「あーしは前からあんたのこと気づいてたんだけど。それにさ、前の……その……返事……聞いてねえんだけど……」


「前?」


 あれ? なんかあったっけ。もしかして、素材トレードの話を無視していたとか!? 説明しよう。素材トレードとは、同じレート帯の素材をトレードできるという仕組みなのであーる! 人間、困ったときはお互い様! それをわからせてくれるシステムでござるよな! はっ! だとしたら拙者はなんて失態を!?


「あんた、今絶対違うこと考えてるでしょ。そうじゃなくて……その……」


 昇龍は布団の中でもぞもぞし始める。なるほど、何を言っているのか全くわからん。


 そのときだった。外から微かに足音が聞こえた。その音に昇龍も気がつき、外の襖を見る。なんだ?


「十兵衛です。営みが終わり次第、出発とのことと旦那様からのご伝達です」


 出発? なんのことだ? これで終わりじゃないのか?


 すると、昇龍は「わかった」とその場で返事をし、立ち上がる。


「東條、今から服を着て準備しろよ。そ、それと、振り向くんじゃねえぞ……!」


「み、見ねえよ……!」


 僕らは背を向きあいながら、訳もわからずお互い服を着ることにした。

 ここでもやはり、嫌な予感がした。だいたいこういう流れはいいものではない。果たして、鬼が出るか、蛇が出るか。

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