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心配はしてないんだが?

 今日も学校。朝の八時四十分なのにどうしてこんなにも疲れているんだ。

 僕は憂鬱な気分で朝を過ごしていた。上条のことは心配だが、今は無事を祈ろう。それが上条の望んでいることであり、今の僕にできることだから。


 そっと空を見上げる。

 こんな日でも、空はニッコニコかよ。

 空は快晴。まるで、憂鬱な気分の僕を馬鹿にしているようだった。そうか、もう七月も中盤戦。今週でもう夏休みか。


 祭り。確か、もどきとの約束だったな。八月十九日に地元の夏祭りがある。なんというか、まあ、少し楽しみだな。


 ん?


 窓側とは反対方向の教室の扉の方からものすごいドスドス聞こえる。誰だよ、僕のポカポカサマータイムを邪魔する人間は。

 ――僕は扉の方向を向こうとしたその時だった。


 ガシッ


 思いっきり服の襟を掴まれ、椅子から下ろされる。


「痛い痛い痛い痛い!」


「東條! ちょっとこい!」


 この声は……昇龍妃!? 顔を見ると、昇龍妃そのものだった。あの昇龍妃が僕になんのようだよ!

 僕はそのまま引きずられ、屋上の扉前まで連れ出された。


 ドンッ


 今度は僕の逃げ場をなくすかの如く、床に座っている僕の頭上の壁に思いっきり手をかける。


「な、なんすか……」


 新入りヤンキーが先輩ヤンキーに声をかけるかのように声をかける。それこそ、焼きそばパン買ってこいとかならまだいいが……


「あーしの……男になってくれ……」


「え?」


 男? 拙者は男だ。今更なにを言っているんだ、この女子(おなご)は。でもその前にこの女子は一人称で『あーしの』と言っていたでござるな。つまり、拙者という男を求めているということでござ――


「だから、あーしと結婚しろっつってんの! 馬鹿!」


 すると、昇龍は目を瞑って大きな声で泣きながら言った。その表情は必死そのもののように見えた。


「はあ!? なに言ってんだよ! 冗談は勘弁してくれ!」


「冗談であんたみたいなキモオタにこんなことを言うかっての! 結婚っつっても、フリだけでいいから!」


 フリで結婚ってどういう意味だよ。ていうか、それまでの過程はどこいった? これは詳しく聞いてみないとわからなさそうだな。本音は今すぐ教室に戻りたいけど。


「落ち着けって。一体、なにがあったんだよ」


「あーしの家、極道なんだけどさ、明日までに誰か男を連れてこないと――」


「待て待て待てーい! 極道ってあの極道なのか!?」


 ヤンキーやヤクザ、その他もろもろ世の中には社会に歯向かおうとしたりする奴らがいる。極道はその上位互換、海外でいうところのマフィアと考えてもいい。


「まあ、そうさ。あーしの家は1万人くらいの部下を率いる極道で、殺人とかもしたりしなかったり……麻薬を運んだり運ばなかったりっていう家なんだけど――」


 嘘だろ……同級生がそんなことをしてるってことは……


「殺人!? 麻薬!? 誰か助けてえええ! 殺される――んんっ!?」


 僕は大声を出していたところ、口元を手で押さえられ、言葉を封じされる。


「しっ! あーしはそんなことしてねえって! あーしの部下がやってるだけだから!」


「それでも十分やべえよ!」


 僕は昇龍の腕を掴み、口元から離した。まあ、こいつがそういうことに手を染めなかったことは一安心だが……つまり、どういうことだ?


「それで明日までに見合いの相手を見つけなければ、やべえ男と結婚させられるんだ……」


「まあ、話の筋は大体分かったけど、僕が仮にお前に協力するとして、その後は大丈夫なのか?」


 そんな一日だけフリをしたところで後々バレるのではないか?

 別に心配はしていない。ただの興味本位だ。


「そのやべえ男ってやつは明日じゃないとダメらしいから、明日フリだけしてその後にちょうどいい男見つけや問題ねえっしょ」


「ならいいけど」


 どうする? ただで救ってやるぶんには問題ないが、下手したら僕の首やら小指やらが飛ぶぞ。

 相手は極道。どんな手を使ってくるかはわからない。罪悪感はあるが、僕の命には変えられん。


「すまん、昇龍! 僕はまだ死にたくな――」


 その時、ポケットから着信音が聞こえる。僕は恐る恐る、ポケットからスマホを取り出し、なかを確認する。どうせ、もどきか母さんからのメールだろう。メールだメールだメールだメールだ……


(昇龍妃のお見合いに参加する、なお、参加を了承する際はハイテンションで了承する:5000円)


「おおおおけええええ!! もちろんだぜ、キュートガアアアル!! 君の命、この俺が救ってみせるぜ!! ひやっほおおおお!!」


 僕は副業に書かれた通り、ハイテンションで了承した。なにがハイテンションだよ。マジでやめてくれ。いつものクールな僕が東條隆そのものなんだよ。


「ま、マジか!? いいのか!? じゃあ、明日お見合いだから学校帰りに声掛けっから!」


 そう言うと昇龍は教室まで走って行った。待ってくれ待ってくれ待ってくれ待ってくれ……


「え? あ、明日? い、イェーイ! 妃ちゃんのお見合い相手になれるなんて、隆観劇だぜ!」


 行かないで行かないで行かないで行かないで……終わった……

 僕が言う合間に昇龍は階段を降りて行った。明日って急すぎだろ。こんなんじゃ、命がいくつあっても足りない。副業からは逃げられない。やるしかない。

 僕はその場で目を瞑り、覚悟を決めた。



 ―東條家―


 僕は今日あった出来事をもどきに伝えた。


「ということがあった。明日には僕、東京湾に沈められているかもしれない」


「不吉なこと言わないでくださいよ。いざというときのために私ついていきましょうか?」


 もどきは強いし、いざというときは頼りにはなる。だが、今回ばかりは僕一人で行こう。


「いや、もし他の女を連れてきたとかになれば、僕もお前もただじゃ済まないだろう」


「ですが……」


「心配するな。今までもなんとかなったんだ。今回もなんとかなる」


 そう言い、もどきを安心させる。とは言ったものの、かなり怖いな。

 もういい。考えるのはやめだ。あとは明日の僕に任せるか。

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