助けに行くんだが?
家に帰り、リビングのソファに座る。母さんはお風呂に入っていていない。作戦を立てるなら今がちょうどいい。
「まずこの上条さんが連れ去られた場所はどこなんでしょうか?」
映像を再確認しながら、もどきと話していた。そこで僕はあることに気づき、巻き戻しをする。そこには、その場所を示すあるものが映り込まれていた。
「この塔……御影塔か?」
「御影塔?」
僕はスマホの地図アプリを開き、検索をして指定の場所を示す。すると、マーカーは今より結構距離のある場所を示した。
「テレビでは見たことがあるが、ここから一番近い港だ。そしてこの御影塔はここにしかない。だが、距離が遠すぎる……」
ここから百二十キロはある距離。急いで行くとなると到底追いつかない。それも自転車ともなれば、僕の体力も考えて、明日中には着かないだろう。
「それにこの映像は一昨日撮られたもの。あんな拷問受けてたら普通なら死んでてもおかしくない」
絶望的だった。あいつの安否すら危うければ場所も遠すぎる。このままだとあいつは……
その時だった。スマホの着信音が鳴る。少し怯えながらポケットからスマホを取り出し、内容を確認する。
「……っ!?」
それは、さらなる追い討ちをかけるもの。まるで、傷口をえぐられたような感覚。やるしかないのかよ……
(6時間以内に玄橆を救う:500000円)
「こんな、めちゃくちゃじゃないですか!」
どういうつもりだよ、投資業界! 前は捕まえろだったのに、今度は救うだと? 何がしたいんだよ……! いや、そんなことよりもこのままだと僕まで危ない……
「救うどころか僕まで死んでしまう……どうすれば……」
「……」
もどきも何て声をかけたらいいか分からず、ただ黙っていた。
僕は唇を噛みしめ、必死に考えを模索する。何も思いつかない。
でも、あいつは死なせない! あとで今まで何をしたかを聞き出してやる! そして、死ぬ前に一発ぶん殴ってやる! だから、何としてでも僕があいつを――
「話は聞かせてもらったよ。ほら、さっさと行くわよ」
その瞬間、後ろの扉が開き、そこから聞こえたのは母さんの声だった。
「何ぼけっとしてんの? 友達を助けに行くんでしょ!」
開いた口が塞がらなかった。ということは、母さんが――
「で、でも母さん、パートで疲れてるでしょ! 休んだ方が――」
「だからあんたは少しは母さんに頼りなさいってば! 息子のピンチに駆けつけない親がどこにいるんだい?」
「母さん……」
そう言うと母さんは外へ出て行った。僕らも後を追い、外へ出る。母さんの車は2シートスポーツオープンカーっていう二人乗りのやつらしい。だから、運転する母さんはもちろん乗るとして、僕がもどき二人を乗せることはできない。
「もどきは家にいてくれ。もしかしたら投資議会の連中がこの隙をついてここにくるかもしれない」
「わかりました。ですが、これだけは約束してください。相手は投資業界トップ3、龕您さんです。彼は人の心を読め、物凄い怪力の持ち主です。だから、無茶だけはしないでください」
投資議会のやつらはどいつもこいつも超人のような能力者ばかり。過去には、炎を自由自在に操れるやつもいれば、手品師のようにあらゆる技を使うやつもいた。
そして今度は人の心を読める能力。なおかつ、怪力男。正直、勝てる見込みはない。それでも、僕に戦う以外の選択肢はない!
「わかった」
母さんの車の助席に乗り、扉をガシャっと閉める。エンジンをつけ、車が声を上げる。
「飛ばすぜえええ!!」
そして、僕を乗せた車は目的地に向かって出発した。出発する直後、もどきは不安そうにこちらを見つめていたが、僕は黙って頷いた。
高速道路を使い、すごいスピードで道路を駆け抜ける。
どうか、スピード違反になっていないと祈りたい。
スマホの位置情報を見て、現在地から上条がいる港までの時間を見る。およそ、あと1時間か。
ていうか、そもそも上条はどうしてあのとき僕を殴った? そしてなぜ逃げた? もしかして、あいつは僕の出されていた副業を知っていた? だとしたら、あいつはわざと――
「友達が心配?」
沈黙を続けていると、母さんが喋りかけてきた。僕は正面の車を見ながら会話をすることにした。
「そ、そんなんじゃないし……! 借りを返したいだけだ……」
あいつには副業で何度も助けてもらった覚えがある。まあ、主に覗きの時だったけど。それに――
「あんたってば、ほんっと正直じゃないわね。じゃあなに? その子のことが嫌い?」
「嫌いじゃねえけど……あいつはスケベで……たまに気持ち悪くて……一緒にいるだけでうるせえやつだ。でも、嫌じゃなかった」
たとえ過ごしてきた日々が演技だってあいつが言ったとしても、僕は心のどこかで楽しいと感じていた。それに、あいつは間違いなく、心から僕らと青春しようとしていた。それは、あの無邪気な笑顔が物語っていた。
インベストだか裏切り者だか知らないが、そんなの関係ない。
「あいつは……代用の効かないダチだよ」
「……そう。いい友達、持ったのね」
少し目を逸らし、空を見る。気がつくと僕はスマホを右手で強く握りしめていた。死ぬんじゃねえぞ、上条。
ー港 コンテナ内ー
「ふんっ!!」
「ぐはっ……!!」
「そろそろ白状したらどうだ? 腹が減っただろう? 傷口が痛むだろう? 今全て吐けば、命だけは助けてやる。命だけは……な」
「だから……言ってるだろう……僕が口を開けば、インベストに混沌が降り注ぐことになるぞ……」
ここは意地でも黙るしかない。二日間、拷問を受けているが、僕は内容を話すわけにはいかなかった。これを話せば、僕のしてきたことが無駄になる。
「ふっ! それは耳にタコができるほど聴いたよ。だったら言ってみろ! その混沌とやらが来たらなんだ? インベストが滅ぶとでもいうのか?」
「ああ……そうだよ……」
「ぐっ……!! ほざけ、小僧!!」
「ぐはっ……!!」
僕はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ……じゃなきゃ、あれを破壊した意味がなくなる……だから、お前だけが頼りなんだ……隆……