理由なんていらないんだが?
僕ともどきは美沙の家に着いたらすぐに部屋に案内してもらい、説明を受けることにした。
「まず、壊れたスマホは治ったんだが、パスワードがわからなくてよお……あてずっぽでなんか入れてくれ」
渡されたのは新品同然に見間違えるほどの上条のスマホ。あんなにもバキバキに画面が割れてたのにすごいものだ。
「あてずっぽって……」
思いつく限りの四桁の番号、一から九千九百九十九の数字を頭の中で考える。というのは嘘で、僕はそんなに考えられない。だからとりあえず、あいつがやりそうな数字を考える。
そして、黙ってそれを打ち込んだ。
「開いたぞ」
すると、馬鹿みたいに一発で開く。自分のスマホでこの数字を入力するやつ初めて見たぞ。まあ、変態が考えつきそうな数字だな。
「え!? お兄ちゃん、まさかのハッカー!?」
「そんなんじゃない。男の知恵だ」
だが、画面に現れたのはよくわからないメッセージ画面だった。そこには宛先なしで打ち込まれたメッセージが書かれていたが、内容はよくわからないものだった。
【デバイスを白色の丸い機械にかざ】
「デバイス?」
おそらくあいつは、なんらかの事情で最後まで打ち切ることができなかった。それだけ何かに追い込まれていたとも考えられる。
「なんでしょうかね、これ」
「これが上条くんが残したやつ?」
美沙ともどきも覗き込むが、二人もよくわかっていないような様子だった。
「デバイス……白色の丸い機械……シゲ爺。白色の丸い機械はどうだったんだ?」
僕が渡したのはこの壊れた上条のスマホと、白色の丸い機械。あれが何もないとは思えない。そこに何か手がかりがあればこの文章を解く鍵になるかもしれない。
「ああ、これか? 作業してる最中に黒色のところから赤外線みてえなのが出たんだよな。確か、このボタンだったか……」
シゲ爺は白い丸い機械を持ち上げ、そこに付いているボタンを押すと赤色の線が出てきた。決して強い光ではないが、直視はしたくない。
上条のスマホのホームボタンを押し、スライドさせる。見た目は今流行の機種に似ていたが、入っているアプリが違った。アプリのアイコンも、見たことのないよくわからないやつばかりで、下に書いてある文字もよくわからない文字が並んでいた。
その中には白色の丸い機械のアイコンが書かれたやつも――
「……そうか! わかったぞ!」
「ほ、本当か!?」
すぐさまアプリを開くと、表示されたのは自分の顔が映されていた。カメラ機能?
「シゲ爺! その機械をくれ!」
「お、おう!」
シゲ爺から白色の丸い機械を渡してもらい、ボタンを押し、赤外線を出す。そこにカメラに映るようにスマホをかざすと、ゲージのようなものが現れ、読み込みを始めた。
「ふう……」
「やるじゃねえか、たー坊!」
「さっすが美沙のお兄ちゃん!」
「やーめーろ。僕はたださっきの文章に従っただけだ」
上条が残した文章。白色の丸い機械というのはさっきのやつ。デバイスはこのスマホ。つまり、白色の丸い機械をデバイスにかざすということは、データを送るという作業になるわけか。
だがこのスマホ、明らかにこの世界のものではない……
じゃあやっぱり、インベストってところからの……
「あ、ロードが完了したみたいですよ」
完了画面とともに現れたのは指が大きくなったり小さくなったりするマーク。タップしろってことか。恐る恐るタップをする。すると、自動で動画が再生された。
最初は何も映っていない上空から撮られた学校の校舎が映っていて、しばらく何も起きなかった。これ、録画だよな。
「じゃあ、わしは疲れたから寝るわい。昨日から徹夜だったからのお〜」
そう言うとシゲ爺は扉の方に向かっていった。徹夜でやってくれてたのか。本当にこの恩をどう返したらいいか……あ、そういえばデートがあった……
「ありがとな、シゲ爺。こんな遅くまで」
「いいってことよ! あ、今日は泊まってってもいいぞー。部屋はもちろん、美沙の部屋での!」
「なっ!?」
「ちょ、おじいちゃん!?」
全く、悪ふざけが過ぎる。とはいえ、夜は遅い。この動画が終わったらすぐに帰るか。
シゲ爺が部屋を出ていったところを見送り、再び映像に目をやる。映像に目をやると、そこにはある二人の人物が映っていた。
「上条と……こいつは軌賀!?」
「き、軌賀さんがどうして……」
一人は上条。そしてもう一人は投資議会トップ5の軌賀。なぜこいつがここにいるのか。しかも、ここは学校。訳がわからなかった。
「な、何してんだよ、こいつら!」
「……っ!?」
お互いに銃を向け、今にも撃ちそうな勢い。どちらかが撃てばどちらかが死んでしまうのではないかというレベルの緊迫感。
すると、今度は一気に空間が別世界のようなものになる。崩壊した世界のような空間。前の時もそうだったが、全部こいつがやっているのか。
「ねえ、この人マジシャンか何かなの?」
「マジシャンか……」
たしかにこいつの使う技は、どれも手品師のようなものばかりだ。この下に着ているであろう派手な服や帽子もそれを物語っている。
その後、彼らは意味のあるのかないのかわからない超次元の戦いを数十分にわたって繰り返していた。少し長いと感じ、早送りをすると軌賀の方がやられていた。
「死んだのか? いや、違う」
微かだが、軌賀は息があった。軌賀に近寄り、何かを言う上条。銃を持ち、軌賀に向けたその時だった。
上条の後ろから静かに紫色の空間のようなものが開き、その中から一人の男が現れる。
龕您。こいつまで来ていたとは――
「……っ!?」
その瞬間、上条は龕您によって背後から刺されて倒れた。腹部や口からの出血が激しく、身動きが取れずにいた。さらに龕您は軌賀と上条を運んで紫色の空間の中に消えていった。
だが、映像はここでは終わってはいなかった。
その後、どこかの部屋のようなところで軌賀を横にさせ、また別のところに移動。
今度は港のコンテナのようなところに上条を放り投げ、上条の上着を脱がしてから手を後ろからロープで縛り上げ、思いっきり腹部を殴り続ける。
『吐け! さあ、吐け!』その言葉と暴行を何度も繰り返し続け、見てられず、画面をタップして映像を停止させた。
「こ、こんなの……酷すぎます……」
「こいつら、まじで許さない!」
もどきは口を押さえて泣き、美沙は怒っていた。どちらかといえば今の僕の感情は怒りに等しい。
たとえあいつが許されないことをしようが、それが殴っていい理由にはならない。それにあいつはきっと何かを思ってやったことだ。
僕はあいつを信じたい。
「今から上条を助けに行く」
「無茶だよ! あんな魔法みたいなのを使ってくるやつらに勝てる訳ないじゃん!」
「そうですよ! 隆さんが投資議会に勝てる見込みがありませ――」
「それでも……!!」
僕は大きな声をあげ、怒りと共に言葉が出てくる。
「僕はあいつを助けたい……! 友を助けるのに理由なんていらないだろ……」
「隆さん……」
「お兄ちゃん……」
言ってしまった。言ってしまったよ、心の底から友って。それは自然と出て、それは躊躇うことを知らなかった。僕は心のどこかでそう感じていたのかもしれない。やつのことを友だって。
こんなこと、生まれて初めてだ。
「もどき、一旦家に帰るぞ。美沙、遅くまでありがとな。シゲ爺にも改めて礼を言っておいてくれ」
僕は玄関へと向かっていった。
「う、うん……」
まずは戻って作戦を立て直す。そして、なんとしてでも上条を救い出す。これが今僕に課せられたミッションだ。