話を聞いて欲しいんだが?
僕はリュックを背負い、ある場所へ来た。
「それで、なんで美沙さんの家なんですか?」
「美沙の家は便利屋だからな。パソコンの修理はもちろんのこと、家の壁の修理、下水管工事、蜂の巣の駆除、料理配達、家政婦、家の片付けまでなんでもこいだそうだ」
「便利屋すぎません!? というか、家豪邸……」
それもそうだ。こんな、東京ドーム半分くらいあるような家、豪邸と呼ばずしてなんと呼ぶ。これが僕の家の横にあるというのもまた驚きだ。
「そりゃ、親子揃って腕が腕だし、このくらい住んでてもおかしくはない。……昔はよく遊んだものだな」
その瞬間、昔のことがフラッシュバックされる。美沙とは色んなことがあったものだ……ほんと……
「さて、入るぞ」
僕は敷地内を歩く。改めて見ると本当に高い。庭だけでどれだけあるんだよ。
そして玄関の扉に着いくと、横にあるインターホンを押す。
「東條です。用事があって来ました」
「合言葉は?」
この声は美沙のお爺さんにあたる、江南茂。通称、シゲ爺だ。この爺さんこそ、なんでもできる便利屋のカリスマ。今年で七十三になるんだっけか?
「……」
言いたくない! 言いたくねえ! なぜか合言葉を毎回求めるシゲ爺。別に開けごまぐらいならいってやらんこともない。けど、あれだけは……
「合言葉は? お?」
「いやだよ! 誰が言うか! あんなバカみたいな言葉!」
「さてはてめえ! たー坊じゃねえな! けえれええ!!」
すると、庭から銃のようなものが四台ほど出現する。なお、銃口は全てもれなく僕は向いている。どうせBB弾だろうが、シゲ爺のことだ! 油断はできん! もしかしたら、マッハ三十二くらいで飛んでくるBB弾かもしれん!
「わかった! わかったから!」
僕は思いっきり息を吸い、それを発言した。
「愛ラブ美沙! 可愛いぞ美沙! 俺の美沙! よっ、世界一の美少女!」
「お兄ちゃ〜ん! 美沙もだ〜いすき! ちゅっ!」
上の階にいる美沙がピンク色のひらひらの部屋着姿で窓を開け、飛ばして来た。だから言いたくなかったんだよ……
すると、ガチャっと鍵の鳴る音が聞こえ、玄関の扉が開く。全く、絶対知ってて言わせてるだろ。
「行くぞ、もどき。って、もどき?」
もどきの顔を見ると、少し俯いていた。なんか、たまにこいつこういう顔するよな。
「え……?あ、はい……! 行きましょうか……!」
少しぎこちない返事をして、前を歩き出した。修学旅行の時もそうだ。悩んでるなら僕に言ってくれてもいいのにな。まさか、信頼されてない……なんてことはないよな……
やはり、中へ入ると上には豪勢なシャンデリア、赤色のカーペット。前面にある、二階にある大きな中央階段。そして、五人暮らしとは思えないほどのこの規模。
幼なじみがお嬢様というのも、考えものだな。
「久しぶりだな、たーぼ――って、てめえ! やっぱりたー坊じゃねえな! 何もんだ! 美沙はやらんぞ!」
シゲ爺は中央階段から降りてきている最中に、光線銃のようなものを取り出し、僕に向ける。
「シゲ爺! 僕だよ! 隆だってば! あと別に後者はいらないから!」
「嘘付けい! たー坊はもっと丸っこくて可愛かったんでい! てめえみてえな夜中ほっつき歩いて女と盛ってそうな野郎とは訳が違え!」
「言いがかりが酷すぎだろ! 夜中ほっつき歩いてもいないし、盛ってもないから――ひいいい!!」
「この野郎――」
シゲ爺はめちゃ真剣な顔をして、銃の引き金を引こうとする。孫を守りたい一心なのはわかるが、話くらいはせめて聞いてくれよ。
「おじいちゃん! 何してるの! その人、お兄ちゃんだってば!」
美沙が上の廊下をバタバタと走ってきて、大きな声でシゲ爺に呼びかける。
「え? そうなの? それならそうと言ってくれよ、たー坊〜!」
「言っただろ、クソジジイ!!」
目を点にしたかと思えば、肩に手を回し、バシバシと肩を叩くシゲ爺。ほんと、調子のいい爺さんだ。そこがまあ、いいところでもあり、悪いところでもある。長所と短所は紙一重とはよく言ったものだ。
僕らは場所を変え、来客部屋に入ることにした。来客部屋なんて普通の家じゃないんだがな。お茶やお菓子も出され、僕でもわかるくらい、あの有名ブランドのものを使っている。
「それで、そっちの嬢ちゃんは?」
シゲ爺はもどきの方を見る。
「隆さんの妹で、シャルロットといいます」
「んん? たー坊に妹なんかいたか?」
「おじいちゃん、ちょっと……」
美沙はシゲ爺に耳打ちをして説明をする。
「……っ!? そ、そんなことが……ううっ……あんたも大変だったんだなあ……」
すると泣き始めたじゃないか、この爺さん。何を言ったんだ、美沙よ。いやまあ、美沙には父親の隠し子って言ってあるけど……まさか、言ってないだろうな。
「いや、そんなことよりも直してもらいたいものがある」
「なんだ? わしに治せれんものなどねえ」
シゲ爺の目は侍の如く、鋭く尖った目をしていた。この目でどれだけ稼いだか。それを思うと恐ろしく思う。
「これなんだが」
僕はリュックの中に入っているあるものを取り出して机の上に置いた。
「って、ちょっと!? これ、パソコンじゃないですか! これじゃないですよね!」
そう、このパソコンはかつてこの悪魔のリアル女、もどきによって破壊されたパソコンだ。時間と費用が当時はなかったが、今ならできる!
すると、シゲ爺は黙ってパソコンを見始めた。シゲ爺は機材を持ってきてパソコンに接続した。シゲ爺ならきっと拙者のパソコンも――
「ああ、たー坊。こりゃ直せれねえわ」
チーン
「ジュースこぼしてある程度対処はしたけど、修理に出すまではしなかったってとこか。もう少し早くここに来てりゃ、このくらい直せたんだがなあ」
「時間と費用が無かったんだよ!」
副業には追われ、修学旅行があり、お小遣いは全て投資に貢ぐ人生。そして、やっと今不幸か幸運か、前回の副業で手にした五十万円が手元にあるから直せると思いきたのに……
「バックアップは取ってあるか?」
「ああ、それならここに」
透明の袋に入ってるUSBメモリを取り出して茂爺に見せる。すると、茂爺はその透明の袋に入っているUSBメモリを真剣に見つめ、机に置く。
「キーボードは濡れて使えねえのはたしかなんだが、だが、電源がつかない理由はそれだけじゃねえ気がする……」
「それだけじゃないだと?」
たしかに、コーラをぶちまけたのは事実。それでキーボードがつかないのは納得がいくが、このくらいならデータ自体は復元できるだろう。もちろん、もっと早く出せば良かったのだろうが、それ以前の問題のようだ。
「おう。それを調べるためにもこのUSBメモリ、わしに預からせてくれんか? このままじゃ、便利屋のわしのメンツが立たねえ」
「ああ、それはいいけど……」
シゲ爺は少し浮かない顔をしていた。彼にも職業柄としてのプライドがある。だからこそ、原因を特定したいというのもあるのだろう。
そう言うとシゲ爺はUSBメモリを自分のポケットにしまった。
「あの、隆さん? パソコンはいいのですが、今日はそっちじゃなくて……」
「ああ、そうだったな」
拙者としたことが、拙者とシャルロットたんを繋ぐラブブリッジの修復に力を入れてしまっていたよ……
それに気づくと僕は、例のもの二つを机の上に置いた。