ツンデレ属性は効かないんだが?
僕はもどきと保健室を出て学校の校門を出ると、そこには美沙がいた。カバンを両手で持って立っている。なんだあいつ。誰かを待っているのか?
「美沙さん、どうかしたんですか?」
もどきが声をかける。すると、片目を閉じてこちらをチラッとみる。
「ふ、ふんっ! べ、別にお兄ちゃんのために待ってたんじゃないんだからね!?」
な、なんだよこいつ。いつになく塩らしいというか……
だが、拙者にはツンデレ属性は効かないでござるよ! 拙者は全ての属性を無に変えし存在! 東條隆! 強いて言えば、拙者に効く属性といえば、そう! ずばり! シャルロットたん属性――
「隆さん……」
シャルロットたん属性はいいでござるよ! あの光に包まれるような、母の腕に抱かれるような暖かい温もり……! ああ、シャルロットたんはいいぞ〜!
「隆さん」
めっちゃ、すこ! で、ござるな! 皆の衆もシャルロットたんをすこれすこれ! すこすこす――
「隆さん!」
「うをお!? な、なんだよ……」
もどきは大きな声で僕の名前を呼んだ。さっきからこそこそこちらに何かを言おうとしていた気がしなくもないが、急に大きな声を出されるとびっくりする。
「もういいです! 耳貸してください!」
僕は小さくそっとしゃがみ、もどきと背を合わせる。すると、もどきの息がかかってゾクゾクする。
「美沙さんに二ついうことあるんじゃないんですか?」
「二つ? ないよ、そんなの」
「朝のことと看病のことです」
ああ、看病ね。看病は四人がかりで僕の世話をしてくれたんだったな。そのことに関しての礼なら言うが、朝って……
「朝? なんのことだよ。僕は何もしていない」
というか、朝のことは何も記憶にない。それで謝れと言われても、僕は何もしていないため無実だ。仮にしていたとしても、もう一人の僕がやったことだ。そう、僕ともう一人の僕は別人。つまり……! 無実さ……
「もういいです! とにかくなんでもいいから謝ってください! 女の子は繊細なんですよ!」
「たく……」
僕だって繊細だっつうの。僕は姿勢を戻し、美沙の方を向く。まあでも、こいつの悲しむ顔は見たくないし――
「美沙……」
「な、なに……?」
「朝のことは……そ、その……悪かったな……」
頭を掻きながら言った。
「べ、別に……それに、私も少し言いすぎたかも……」
美沙も少し俯いてしまったが、状況は良くなったのか?
な、なんかわからんが、これがいわゆる、ナカナオリってやつか?
「それと、さっきは看病してくれてありがと……な……」
「お、おう……」
美沙は目を逸らして一言そう言った。おうって……まあでも、感謝しているのは事実だ。ありがとな、美沙。
「これで無事、仲直りですね! さあ、家に帰りましょう!」
こうして僕らは、無事前までの関係性に戻ることができた。夕日が沈む中、家に向かう。ぶっちゃけ、上条のことは心配だが、明日になればけろっと顔を出すだろう。とにかく今は、生きていることを噛み締めよう。
「な、なんだよ……いったい誰がこんなことを………!?」
家に帰り、タカシアイランドに入ろうとすると、廊下の窓がものすごい割れていた。強盗でも入ったのか!?
「そうだ! 母さん! 母さんは無事か!?」
「とうううあああかあああしいいい!!」
ものすごいスピードで階段を登ってくる母さん。もう目が血走っていて真っ赤だった。頭には角のようなものも見えなくもない。
「母さん! 大変なんだ! 窓ガラスが割れてて、もしかしたら強盗が――」
「てめえがやったんだろうが! この、馬鹿息子おおお!!」
「お、お母様!?」
母さんは両手でゲンコツを作り、頭を挟むかのようにして両手でグリグリと押しつける。
「いたたたたたた!! 母さん、痛い! 痛いってば!!」
血の出るほどの痛み。なんか、五感を感じる全ての場所から血が出そうな勢いだぞ。
「あんた! 言うことは!?」
「ごめんなさいごめんなさい! もうしませんから! だから許してえええ!!」
それから数分間はグリグリが続いたが、やっと解放された。そして今は、廊下で説教され中でござる。
「それで? なんであんなことしたの?」
「母さんには関係ないでしょ……」
僕は俯いて床を見る。たく、なんで僕がこんな怒られなければならないんだよ。第一、何度も言うけど朝の記憶がないんだよ。
「あんた、最近なんかおかしいわよ。急激に痩せたのもそうだけど、現実の女の子に興味ないあんたが覗きをしたり、今日なんて変な格好して学校行ったじゃない!」
母さんは真剣な表情で僕に訴えかける。僕だって全てを曝け出して楽になりたい。けど、それができないから苦労してるんだ。
「僕がなにしようが勝手だ。心配しなくても僕はやってけるさ」
別に母さんの心配なんていらない。心配されるほど子供じゃないし、もう十七だ。母さんの手を煩わせるわけにもいかないし。
「心配するに決まってるじゃない! 親なんだから!」
母さんは大粒の涙を流し、僕を抱きしめた。久々に感じたこの温もり。いつぶりだろう。こんなにも暖かいと感じたのは。
「母さんね、あんたを産んだ時、この子が困ったときは助けてあげようって決めてたの。だから、困ったことがあれば母さんに言いなさい。母さんがなんとかしてあげるから」
「うっ……母さん……」
気がつくと僕の目からも涙が溢れ出ていた。どこか堪えようとしているが、溢れてしまう。それが涙というもの。
「あんたのやってることは、全て意味があることだってわかってるから。あ、でも私がおばさんになったら今度はあんたが助けなさいよね」
「わかってるさ。ていうか、母さんはもうおばさんでしょ。あーあ、なんか気分が萎えてきちゃった」
「は、はあ!? なんなのよ、あんた!?」
僕は母さんの手を振り解き、立ち上がって自分の部屋に向かった。
タカシアイランドに入り、布団に潜る。母さん、そんなふうに僕のことを思っててくれてたんだ。てっきり、母さんのことだからいつも無作為に怒ってるのかと思ってたよ。
僕は目から落ちる滴を布団で拭き取る。
「母さん……ありがとう……」
そして僕は深い眠りへとついた。