騙されたんだが?
「そう、僕が玄橆だ。上条樹はあくまでもこの世界の名に過ぎない」
信じられない。信じられなかった。ずっと一緒にいたやつが、インベストの裏切り者と言われ、大罪と言われている玄橆ってやつで……とにかく、思考が追いつかなかった。
「僕はずっと君たちを騙してきたんだよ。このタイミングを待っていた。そして僕は、インベストをめちゃくちゃにした張本人さ」
本当なのか? 本当に僕を騙していたのか? ありえない。もし僕を騙していたのならば、あの行動と矛盾している。
「嘘だな。インベストをめちゃくちゃにしたかどうかは知らないが、なぜ副業が起きている時、毎回僕を助けるような真似をした? 僕にはお前が悪い奴には見えない」
「ただの気まぐれさ。そんな甘い考えしてると、いつか傷つくのは君だよ」
いつもと明らかに口調が違う。だが、一瞬奴の瞳が曇ったように見えたのは気のせいだったのだろうか。こいつは何かを隠している。それは、こいつの一番近くにいた僕だからわかるものだった。
「で、このタイミングってどういう意味だ?」
「こういうことさ」
上条……いや、玄橆は右手を広げ、もどきに向けた。
「……え……?」
広げた掌には、青い光線がだんだんと作られ、円を描く。
まずい、このままだともどきが……! 僕はさっきの戦いで立ち上がることができない!
「逃げろもどき!」
もどきは後ろを振り返って走り出そうとするが、そんな間も無く、それは放たれた。
「タイムカプセル!!」
青色の閃光がもどきに向かって打たれ、もどきは青色の光に包まれた。
すると、青色の古代文字のようなものが至る所に書かれた、ボールのようなものにもどきは閉じ込められた。そこには『10:00』と表示されており、『09:59』、『09:58』と、一秒毎にカウントダウンがされていく。
「てめえ! もどきに何しやがった!」
「邪魔されては困るからね。デジタルワールド」
玄橆は何かを呟き、周りが青色のに染まる。距離はおよそ、半径十メートル。
「これで数分はこのエリアにいる人は映らない。東條隆。やっと君を殺せるよ」
玄橆の手には、いつのまにか白と青の柄のハンドガンがあり、それを僕に向けた。前言撤回。奴は敵だ……
「おい……やめろよ、上条……」
「ごめん、こうするしかないんだ……」
もどきはバンバン叩くが、開かなかった。それに、何か言っているんだろうけど、声も小さくて聞こえない。
そして、妙な音の銃声が鳴り、僕の腕を貫いた。
結局、上条樹はなんだったんだろう。表向きはいいやつ。けど、裏向きは僕を殺した奴。
ほらみろ。結局人間なんて、最後には裏切るんだよ。
ほんと、少しでも信じまった僕が馬鹿みたいだ。
「た……しさ……」
思えば、僕の人生ってなんだったんだろう。
「たかしさ……」
僕ってなんのために生きてたんだろう。
「隆さん!!」
「うおあ!? シャ、シャルロットたん!?」
とっさに僕は起き上がり、周りをキョロキョロ見回す。そこにはシャルロットたんの姿はなかったが、もどきが隣にいた。
「はい、シャルロットです」
もどきはニコニコして言った。こいつ、声までシャルロットたんと似てるって、どれだけ真似事をするんだよ。まさか、尋常じゃないボイトレや、リスクを補う手術までして声帯まで変えたというのか!?
「はあ……本物のシャルロットたんがこっちの世界に来たと思ったんだけどなあ……って、あれ? 僕、死んでないじゃん!?」
「いやだから本物だと……はあ、まあいいです。隆さんは確かにあの時打たれました。その腕の傷が証拠です」
僕の腕には包帯が巻き付けられていた。確かに少し傷も痛む。
「ですが、そこに入っていた銃弾は強力な麻酔弾のようで、隆さんは八時間保健室で寝ていました」
「八時間!? って、もう五時かよ!?」
時計を見ると、針は五時を指していた。そんなことなら病院に運んでくれよ。あ、でも説明できないか。そこももどきが保健室で止まらないか説得してくれたのか。
「はっ……! そういえば上条はっ……!?」
「あのあと、どこかへ消えていきました。授業にも出ていませんでしたし」
「くそっ……! まあでも、殺すとか言っておいて、僕を殺し損ねるとか敵ながら情けない話だ」
僕は壁を叩き、怒りをぶつけた。そんな怒りを嘲笑ってやろうという気持ちで押し殺す。自分でも何が本当の気持ちなのかがわからない。裏切られて悲しむべきか、打たれて怒るべきか、生きてて喜ぶべきか。
「本当に上条さんは隆さんを殺す気だったんでしょうか?」
「どういう意味だ?」
もどきが真剣な表情で僕を見つめる。
「だって、殺すのにわざわざ麻酔弾なんか使いますか? それに、腕を狙ったというのも不可解です」
「確かにな」
それもそうだ。麻酔弾を打たずに、普通の弾を使えば僕を殺せたはず。そして、あいつはなぜ腕を狙った? 僕を殺すなら、胸部あたりを打てばいい話だ。だから殺す気はなかったというわけか。
「それに、上条さんが私に向かって打ったあの技。あれも十分が経過したら自然と出られるようになりました。それから数分後、青色のフィールドも消え、周りからも認識が可能に」
「おそらく、もどきには勝てないと踏んで足止めをしたのか」
もどきはこう見えてかなり強い。力で勝てないなら、トラップを仕掛け、足止めをさせるという意味か。そうまでして僕を眠らせた理由はなんだ?
「その説が濃厚ですね。それで、目を覚ました私が急いで保健室に運んだというわけです。そのあとは保健室の先生はいましたが、四人で交代に隆さんの様子を見にきていました」
「四人?」
「私、美沙さん、天空城さん、それと昇龍さんです」
「昇龍って、昇龍妃!? え!? 僕、その間にもしかしてボコボコにされなかった!? って、今天空城って! あいつ、病院にいたんじゃ……!?」
ダメだ! 頭が追いつかない! どうなってるんだ!? 昇龍は僕のことを嫌ってるわけだし、天空城に限ってはまだ入院していたはず……!
「昇龍さんは手伝わせてとか言ってました。ていうか、天空城さんと朝話してたじゃないですか」
「いや、どこの世界線の僕だよ。もういい。帰るぞ」
僕はベッドを降り、保健室の扉に向かった。
「ああ、待ってください!」
といっても、朝までの記憶はない。もしかしてそれと何か関係しているのか?
過去の僕、変なことしてなければいいが。