厨二が発動してるんだが?
「あ、やっほーお兄ちゃん!」
「なんかさっき、窓ガラスが割れる音が聞こえたんですが……」
玄関まで走り、美沙ともどきと合流する。ちなみに、その距離合計十メートル! これは、あちらの世界では1000メートルにも及ぶ距離だ!
「行くぞ、魔物が迫っている……!」
我は学校まで走り出した。もどきと美沙も我を追いかけるように走る。
「隆いい! 待ちなさい!」
「魔物ですか……! って、いませんよ」
「くっ……! やはり素人には見えないか…… 我がマザーが魔物に侵食され、魔物化した!」
魔物を侵食させ、それを食らうものよ! この世界にまで危害を加えようとは! 体もだいぶ、ガウェインの力に馴染んできた。この力で魔王を……!
「いやあれ、いつもどおり怒ってるおばさんじゃん。どうせまたお兄ちゃんがなんかしたんでしょ」
「違う! あれはどう見ても魔王軍が動き始めたんだ! もしや、お前らまで奴らの手に落ちているということか……」
魔王軍はまだ倒していなかった。洞窟に眠る黒竜を倒したからって調子に乗りすぎた! 4年間力を封印していたせいで我の力は衰え、今や勇者とはいえぬ。だが、やるしかないんだ。
「なんか美沙さん、隆さんおかしくないですか? 声もいつもより低いし、喋り方も変です」
「いやあ、なんか中学二年生の頃、急に包帯を巻き出したり眼帯をし始めたりしたんだよ。厨二が発動していた時期があって……」
厨二だと……!? 今とても聞き捨てならないことを言ったな、こいつ……! いくら魔王軍に操られているからってかなりくるものが……!
「厨二ではない! 我は……! ううっ……! 頭が……! 過去の冒険の記憶が……! ああっ、蘇る……!」
我の頭は何かに侵食されるかのように激しい頭痛が我を襲う。忘れたかった記憶。救えなかった民たち。くっ……!あの惨劇を思い出すわけには……!
「まあでも、その1年後になんか知らないけど治ったんだよ。でもまたこんなことになるとは……」
「うわあ……少し恥ずかしい過去ですね……」
「こうなったら強引にでも……! えい! えい!」
美沙は手を伸ばし、我の服に触ろうとする。ダメだ、今の我に触れられれば我は死ぬ。今回、魔王軍から呪いをかけられた。誰かに不要に触れれば我は死ぬ……! もちろん、黒竜の力も失う。
「やめろ! 触れるんじゃない! 封印が解かれる!」
だが今は黒竜が宿っている身。僕はこいつの手すら簡単に避けることができた。先ほどは力にならない未熟さゆえ、侵食された我がマザーの力には圧倒されたが、今は違う。
「美沙さん! 一旦このままにしておきましょう!」
女が美沙の腕を止める。この女、何者だ! 我の力を見たのは初めてとはいえ、我の力をすぐに受け入れるとは……
「いや、前までのオタクっぷりの方がまだよかったよ! こんなのただ恥ずかしいだけじゃん!」
「でも今はダメなんですってば!」
美沙は女手を強引に離す。
「もういい! 今のお兄ちゃんとは話したくない! じゃあね」
美沙は早歩きで先を歩いて行った。なんだ、あの女。我がこの力を解放するといつもあんな感じだ。いや、違うもしや我の力に怯えて逃げていったか。
「恐れを期して逃げて行ったとは……くっくっくっ……」
「隆さんも隆さんです! いくら仕方ないとはいえ、やりすぎです! 周りを見てください! 恥ずかしくないんですか!」
「周り?」
周りを見ると、民たちがこちらに視線を送る。
「この闇の力を宿し勇者に対してなんだその目は!」
魔王軍に侵略されて不安なのはわかる。 だが、我をそんな目で見ることないだろ! 我は罪人。闇の力を宿いし罪人。だが、そんな罪人でもいきたいと思えるものはあるだろう!
「わかったらさっさとそんなことやめて行きま――」
「貴様ら! いずれは魔王軍を倒して我に感謝する時がくる! その時まで安心して暮らしていろ!」
不安な気持ちはわかる。だが、ここは落ち着かせることが大事。それが闇の勇者の役目でもあるからだ。
「もう知りません」
女もようやく我の力を完全に理解して諦めたようだ。全く、世話を焼かせる。だが、ここから先は戦場。触れられずにいけるのか?