命はお金には変えられないんだが?
どうすらば……!その時だった。スマホから着信が入る。本来表示される番号のところにはわけのわからない文字が並べられていた。
「誰からですか? って、この文字はインベストの……」
「上等じゃねえか!」
「――って、隆さん!?」
僕はボタンを押して電話に出ることにした。その時の感情の多くは怒り。人の命を弄んでまだ弄ぶ。ここまでしておくってことは覚悟はできてるんだろうな!
「やあ、久しぶりだね隆くん」
その声には聞き覚えがあった。五十代ぐらいのこの声。間違いない。あの時鉦蓄といた、龕您ってやつだ。
「気安く呼ぶな。今回のことはどういうことだ!」
こいつらが副業を全て出している。どういうつもりか知らんが、いい加減にしやがれよ。
「そのことで話をしにきたんだが、私も最初は反対をしたんだ。だが、これもインベストのため。悪く思うなよ」
「そっちの都合は知らんが、一一人の人間を犠牲にするかもしれなくてもやらなくちゃいけないことなのかよ!」
「我々にも一つの治めるものがある。何千万と暮らす市民と一人の別次元の人間。君ならどっちを救う?」
何を言っているかはわからない。別次元の人間とは僕のことだろうか? そして、インベストという一つの世界がある。それをこいつは天秤にかけているのか。
「この際だから聞いておく。僕に副業ばかり出して目的はなんだ!?」
「具体的には言えないが、これは君のためでもあるんだ」
「ふざけるな!」
僕のため? ふざけるなよ! これまで悪意の感じられるものも含まれていた。全ては僕のためになるなんて言えないはずだ。
「っていうのは表向きの話。本当はインベストを支える上で大事なことなんだよ」
少しの沈黙が間に挟まる。
「では本題に入ろうか。我々としては早急に玄橆を捕まえなければならない」
「そんなもの勝手にやれ。僕を巻き込まな」
別に僕は玄橆とかいうやつに何かされたというわけではない。かといってこいつらに手を貸す義理もない。何より、命を賭けられているわけだからな。
「副業達成の報酬は五十万円だ」
「金の問題じゃない。第一、五十万円と命は本来は比べるべきものではないだろ」
命はお金には変えられない。そんなこと、子供でもわかる。何よりこいつらはおそらく、お金に関してはプロフェッショナル。いや、だからこそ考えが非道なのかもしれない。
「ふっ。そうかもしれないな……」
苦笑いかのように龕您は笑い、その瞬間、体に妙な感覚が伝わってくる。まるで、身体中の血管が毒に侵されたような。だが、その感覚はほんの一瞬のものだった。
「ううっ! なっ、なんだいまのはっ!?」
「大丈夫ですか!?」
もどきは心配して近くに寄る。もどきも触れてはいけないことをわかっているのだろう。
「君の体には特殊なセンサーを付けさせてもらった。対象に触れれば、その対象は24時間センサーが付けられる。ただし外せば……この先は言わなくてもわかるな?」
バングルの爆発。すなわち、死を意味する。こいつ、前はまだマシなやつだと思っていたが、そんなことはなかった。結局投資議会はいかれた奴らしかいないんだ。
「ちょっと待てよ! ノーヒントでどうやってやれっていうんだ!?」
「ヒントならある。君の友達の中にいる」
一瞬言葉の意味がわからなかった。その言葉の意味がわかるにつれて、腹部が痛みが生じる。何かが壊れる。そんな言葉も頭の中でぐるぐると渦巻いていた。
「ということだ。健闘を祈る」
「……おい!?」
僕が喋る前に電話は切れた。僕はその場で四つん這いになり、絶望した。黒い何かが心の中をかき乱す。吐きそう。すごい吐きそう。
なんだ……こんな感覚初めてだ……
「僕の関係者……そんなの、誰なのかなんてわからない……それに、あいつらを疑うなんて僕には……」
「大丈夫です。隆さんは今までも命を張って頑張ってきました」
僕が絶望している中、もどきは横で座り、声をかける。
「隆さんはいつもどおりでいいんです」
いつもどおり。
当たり前だけど、何かとても大切な言葉な気がする。あいつらを疑うのは辛いが、このままじっとしていても死ぬだけだ。その言葉で何かが吹っ切れた気がした。
「それに隆さんには私がいます。絶対的味方である私が。だからその――」
「ああ、やるよ。いつもどおりな!」
僕は立ち上がり、正面を見た。正面に鏡で写っている僕はとても凛々しく、今ならなんでもできる気がした。やるんだ、いつもどおりに!
「はいっ……!」