休憩している暇はないんだが?
僕ともどきは修学旅行から帰った夜、僕の部屋で話し合いをしていた。床に座っている僕ともどきの間には、あの銀色のトランクがある。
「で」
「で?」
「この一千万どうするよ?」
「どうします? 私としては全額投資をしてほしいのですが」
そう、この中には一千万円が入っている。僕はそっと中を開けた。そこには諭吉! 諭吉! 諭吉の山!! これだけ全部使って課金すればシャルロットたんは……より最強でキュートなキャラに……! 新着のスク水コスも悪くない……
「ムヒヒッ!」
「隆さん、また変なこと考えてません?」
もどきはムッとした表情でこちらを見つめる。
「か、考えてねえよ!」
いや、変ではないだろ。一千万円手元にあったら、ゲーマーならば全額課金するという考えの一つや二つ、浮かぶものだろ。なんだよ、僕が悪いみたいに言いやがって。
「そんなことよりだ。僕はこれを投資するつもりだ」
これまでも投資によって救われるものがあることはわかった。投資議会に従うのは尺に障るが、僕はやる。いつか報われるであろう、誰かのためにも。
「もどき、いけるか? 今晩はお前を寝かせない……」
「は、はい……! 頑張って受け止めます!」
一夜漬けで投資をやるつもりだった。万が一にも一千万円が母さんにバレでもしたら、説教コースいきだ! だからもどきには悪いが、この一千万円は朝になるまでには使い切る。
「あー」
もどきは早速口を開けたが、そうなると僕の理性が保たんのだよ。
僕はヘッドフォンを取り出た。このヘッドフォン、5万円したかなり高価なもの。だからこそ、周りの音を完全に全て消すノイズキャンセルが付いているのだ。
このことに気づいていれば、前回からつけておけばよかった。
「あと、縛っていいか?」
「ええっ!? 隆さん、縛りプレイのご趣味が!?」
「ちっがーう! 前みたいに暴れ出さんようにだ!」
前はえらいことになったからここは縛っておこう。PCのコントローラーの紐をもどきの体にタンスと巻きつける。手を上に縛り、身体中に巻きつけているせいで体のラインがだいぶ見えてしまう。
いや、考えるな! 所詮はリアル女! こんなやつに興奮なんてしない!
「隆さん……」
「なんだよ……」
「その……エッチなことだけはしないでくださいね……」
頬を染めて言うもどき。
「お前が言うな!!」
ヘッドフォンを耳につけ、トランクから早速百万円の束をまず取り、それを小分けにして三万円ずつ分ける。その作業をするということは、約三百三十五万回は繰り返すことになる。
よっしゃ! いくぜ!
あれから何十分か経過したが、もどきの体は悶えてはいるが、声は聞こえない。さすがはヘッドフォン中佐でござる!
四十分後
すごい! これならいける! って、まだ約三百回しかやってないが、ここからペースを上げていけばやれる!
一時間半後
やばい、そろそろ手が疲れてきた。休憩込みではあるが、もどきもだいぶ疲れてきている。夜の十時か。
「もどき、なんか飲み物取ってきてやるが何がいい?」
もどきは下を向いて動かなかった。
「お、おーい? もどきさーん」
返事がない。ただのもどきのだよな?
「あの〜」
「きめんだよ……」
何か言っているみたいだが、ヘッドフォンのせいで何も聞こえない。
「えっ……」
「きめえっつってんだよ! このキモオタがあああ!!」
おかしい。いつも穏やかなあいつがここまで変わるなんて、やはり投資の!その瞬間、コントローラーの線を全て切り、暴走を始めた。
「コントローラー少佐あああ!!」
「お前さ、いつもいつも行動がキモいんだよ! いい加減にせんか!」
もどきは足を振り回し、それが僕の体に当たる寸前0.41秒前!
「ぶはっ!!」
思いっきり蹴っ飛ばされて、机の角に頭をぶつける。
そのはずみでヘッドフォンも壊れる。ヘッドフォン中佐……こいつ、やっぱ暴走するじゃないか。
「そんなことより、投資を……」
「投資とか言いながら性的興奮をお前は満たしてんだろ! あぁ!?」
「やめて……やめて……ンアッー!」
その後僕はいろんな意味でもどきにめちゃくちゃにされ、目が覚めた頃にはもどきは普通に戻っていた。
自分のしたことに気づいていないのか、めちゃくちゃ体を気遣ってくれたが、もう身体中あざだらけだ。
「これはいけませんね。少し休みましょう」
もう二千回くらい投資をしたが、何も起こらない。金額もそれなりのはず。これも投資議会の狙いなのか?
「いや、休憩している暇はない。僕はやる。まだいけるか?」
「はい! 隆さんのためならどこまでも!」
そして、それから8時間後の朝6時。数々の苦労があり、あれからも何度もボコボコに殴られ、時には理性が保つかどうか危ない時もあったが、なんとか全ての金額一千万円を投資することができた。
「やった……!やったぞ、もどき……!」
「ええ!私たち、とうとうやりましたね!」
僕ともどきは手を合わせ、ハイタッチをする。だが、本当の地獄はここからだった。
「……なっ!?」
すると、机に置いてあるスマホから着信が入る。スマホを手に取り、すぐに確認した。
目の前に書いてあるものは最初は理解できなかった。受け入れるのにはかなり時間がかかった。今回の副業、もしかしたら過去最大でヤバいかもしれない。
(玄橆に触れる、または自身が触れられること。なお、副業が達成されるまで玄橆以外の人物に触れる、あるいは触れられないこと。この副業は12時間以内に遂行せよ:500000円)
「なんだよこれ……どういうことだよ……!」
触れる? 触れない? そもそも玄橆ってなんだよ。どこかで聞いたことが……そうか! 思い出した。前に斬賀が言ってたインベストの裏切り者ってやつか。
「えっ……!? 流石に今回のは度が過ぎます!」
もどきも僕のスマホの表情の副業見てかなり驚いている。簡単に言えば、玄橆ってやつに触れれば達成。それ以外に触れれば失敗となる。もしできなければ、いつもの如く「死」。
だけど、なんの手掛かりもない中、どうやってこいつを探せばいいんだよ!