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98 お魚くわえた消える猫
波の音と共に、潮風が頬を撫でる。
悲しくなると海を見に来るのは、昔からの習慣だった。
「はぁ…」
今回の悲しみのもとは、失恋だ。詳しくは書くまい。
ぼーっと波しぶきを見ながら過ごす。
月光を反射する海はとても綺麗で、それだけで痛みが和らぐような感じがした。
「にゃーお」
「?」
後ろから猫の鳴き声がしたので振り返った。そこにいたのはやはり猫だった。
巨大なマグロを口にくわえた、普通サイズの猫だった。
猫はじっとこちらを見ている。
僕も負けじと猫を見つめる。
しばらくそのまま視線を交わしていると、猫は突然消えていった。まるで蜃気楼のように、すぅっと。跡形もなく。
けれども、くわえていたマグロはぴちぴちと地面で跳ねている。
「ふ、ふふ、くっくっく」
僕は意味の分からない現状に笑ってしまった。
胸の痛みが少し和らいだ。




