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92 いかないわけにはいかない
「どうしても行くつもりか?」
「父さん…。あぁ、止めてくれるな」
俺はどうしても行かないといけないんだ。
あの、約束の地へ。
「お母さん、お父さんたち、何を話してるの?」
「男同士の馬鹿な話よ」
「馬鹿とは何だ。馬鹿とは」
「そうだよ母さん。俺達にとっては大事な話なんだよ」
自分の人生がかかってるんだ。
「男はいつもそう言う。真面目なことも、馬鹿なことも」
「お母さんが何か語り出した……」
「母さんにも色々あるんだ」
父さんが遠い目をしている。
俺は察して、深くは言わなかった。
代わりに別れの言葉を紡いだ。
「じゃあ、行ってくるよ」
「気をつけてな」
「あぁ」
「お兄ちゃん、いってらっしゃい」
「気をつけるのよ、吉彦」
俺は玄関のドアを開けて、広い世界に出た。
後ろは振り返らなかった。
◇◆◇
「それで、お兄ちゃんは結局どこに行ったの?」
「コンビニだ」
「お父さん…」
「言ったでしょ、男ってのはそういうもんよ」
便利すぎるがゆえに。




