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87 死肉と生肉
夫と二人で料理をしていた時のことだ。夫がこんなことを言い出した。
「何で生肉なんだろう…。これって死んだヤツから取ってるから、死肉だよな?」
両手で豚の生肉を持って、一人呟く夫。
そんな夫に私は言った。
「生は生きているって意味で使ってないんじゃない? 火を通してないとか、そんな感じだよ」
割と核心をついた言葉だったのに、夫は納得がいっていないようだ。
「でもなぁ、『生』って漢字は『生きている』って感じだしなぁ」
正論で押し通すような言葉は、夫のお気に召さなかったらしい。
ここは夫のお気に入り、あのワードの出番だな。
「それが『日本語の妙』ってやつだよ」
「そっか! 『日本語の妙』か!」
それを聞いた途端、目の前の霧が突然晴れたような明るい顔をする夫。
相変わらず、チョロい夫だ。チョロおだ。
以降、夫は笑顔で生姜焼きを作り続けた。




