58 チョコの渡し方
季節のネタをご用意しました。
二品続けてどうぞ。
二月十三日の放課後。夕日が辺りを橙色に染めている。
私は下校間際に、彼のロッカーにこっそりとアレを忍ばせた。
正面から渡すのは恥ずかしかったから。
たとえ彼女でも、手渡しは恥ずかしいのだ。
「喜んでくれるかな、佐藤くん」
頬を緩ませつつ、学校を後にした。
◇◆◇◆◇
二月十四日の朝。運命の日。
この日は、義理やら本命やらの言葉を冠するアレが地に溢れる。
俺には千代子という相手がいるので、ゼロ個ということはない。
「おい、佐藤」
「何だ、須藤」
「お前の彼女に言ってくれないか。『場所をきちんと確認しておくように』って」
一限の教科書を取るために出た、廊下のロッカー前。
朝っぱらから話しかけてきた須藤の手には、赤い紙で包装された四角い箱があった。
それを見て、すぐさま事情を察する。
俺の彼女は恥ずかしがり屋で、そしておっちょこちょいなのだ。
「あぁ、千代子の奴が間違えたのか」
「みたいだな」
「分かった、ちゃんと言っとくよ」
「頼むぞ」
独り身の須藤には悪いことをした。
千代子には反省してもらわなければなるまい。
「朝からきついな。甘すぎて口から砂糖を吐きそうだ」
何だ、「佐藤だけに」とでも言うのか?
喧嘩なら買うぞ?
…まぁしかし、今日の所はこちらが悪いので何も言わないが。
というか、須藤はおそらく、杉田さんからもらえるので心配しないで良い。
「あの、須藤君、ちょっといい?」
ほら、噂をすればなんとやらだ。




