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39 誰もお前を愛さない、が
「なぁ、巻き寿司食べたくないか?」
夫が何か言っている。
無視し続けると拗ねるから、それを見極めて話してあげないといけない。
まったく、いつまでも子どもなんだから。
「実は、すでに作る用意をしているんだ」
何か反応を返すまでもなく、夫は積極的だった。
「米とのりとサーモンと醤油と巻きす、だ」
一息に告げる夫。
確かに、台所のテーブルの上には、夫の言ったものが乗っていた。
「まずは、巻きすの上にのりを敷き、その上にごはんだ。
さらに、サーモンを乗せて巻くん…だ…」
黙って見守っていた。が、惨状が生まれ、沈黙が増しただけだった。
危惧していた通り、夫は上手く巻くことができずに、サーモンがはみだし、ご飯がぐちゃっとなった。
私は、夫に言った。
「Nobody loves you」
夫は、テーブルの下で丸くなった。
いじけたらしい。
仕方ない。たまには甘さを見せてやらないといけないようだ。
「でも、私はあなたのこと、好きよ」
夫は泣きはらしながらも、抱きついてきた。
まったく、いつまでも子どもなんだから。