38 栞
お風呂から上がって、日課の読書を楽しんでいた時のこと。
一冊目の区切りがいいところで、本を閉じた。
手は二冊目へと伸び、物語の扉が開いた。
ハラリ。
挟めていたしおりを抜き取ろうとした時、きちんとつまんでいなかったのが悪かったのか、しおりは指の隙間からこぼれ落ちてしまった。
「あら、あら」
床に落ちたはずのしおりを探すために、身を屈める。
別に、そこまで大事にしていたわけでもない。本屋で数冊購入した際、店員が入れてくれたものだ。限定品というわけでもないので、想い入れもなかった。
でも、読み進めた場所を示してくれるしおりは必要な物だ。
他にもいくつか持っているけれど、何だか「探すべきだ」という考えに憑りつかれてしまい、足元を探した。
けれど、落ちたはずのしおりが見つからない。手から落ちたのだから、私の足元にあるはずだ。なのに、いくら探してもしおりは出てこない。
結局、それから三十分ほど、しおりの捜索に費やしたけれど、遭難したしおりは見つからなかった。
私は、
「しおりは別の次元に落ちたんだ。それで、本当に必要とする人の元へ旅立ったのだ」
そう思うようにした。
たまに思い出して、再び捜索を試みる。でも、やっぱり見つからない。
あのしおりは、新しい主人の元で元気に暮らしているかしら。
そうして今夜もまた、私は本を読み始める。