19 点Pの真実(架空)
二時間目。リンゴーンとチャイムが鳴った。
数学の授業が始まったが、先生が来ない。
心配になった委員長が職員室に行くと、担当の加藤先生が急に出られなくなったらしい。「仕方ないから自習をしろ」と言われたようだ。疲れた顔をしている。お疲れ。
私は、教科書の例題をぼんやりと眺めることにした。
しばらく教科書で時間をつぶしていると、隣の席の未花が話しかけてきた。
「ねぇ、千代」
「なに?」
「どうして、点Pは動きまわっているの?」
教科書から顔を上げて、未花の方を見ると、彼女は腕を組んで教科書をにらんでいた。
「さぁ、なんでだろうね…」
「じっとしていればいいのにさ。動きまわるから、こんな問題が生まれてしまうんじゃん?」
未花はこちらを向いて、左手に持った教科書をバンバンと叩いている。
ちょっとうっとうしくなってきたので、架空の話で黙らせてみよう。
「点Pには双子の兄、点Oがいるんだよ。
それで、点O兄さんが急に倒れたらしくて、安否を確認しようと探すの。
でも、点O兄さんは別の次元にいるから会えないんだって。
つまり点Pは、見つかるはずのないお兄さんを探すために動きまわっているの」
何を言っているんだろう、私…。
ため息をつき、未花の方を見る。彼女は泣いていた。
「う、うぅぅ。なんて良い奴なんだ、点P。そんなことも知らずに、私は、私は…」
変なところで感化されやすいんだから、この子は。
でも、そういう彼女が嫌いじゃない。
私はハッピーエンドの展開を考え、泣いている未花に話してあげた。




