14 万能の卵
私は、鏑木。蟋蟀博士の助手だ。
博士は何かの研究に携わっていて、私はその手伝いをしている。
今は、頼まれていた仕事を終えて仮眠をとっていた。
が、博士が大声で私を起こしてきた。
「おい! おい、鏑木君! 起きてくれ!」
「…あぁ?」
「ヒィ!?」
気持ちよく寝ていたところを起こされたから、少しばかり殺気がもれてしまった。
「何ですか、博士…。また、未知の生物でも生み出しましたか?」
「カトリーヌは未知の生物ではないよ? ドラゴンに似た爬虫類だよ」
「…、それで何があったんですか? 何かあったから私を起こしたんですよね? 理由もなく起こしたりしていませんよね?」
「も、勿論だよ。見てくれ、これを!」
突き出された博士の右手には、一つの、卵?
「何ですか、これは?」
「ふっふっふ、聞いて驚け。なんとこれは、あらゆる望みを叶えてくれる万能の卵さ」
それは、鶏の卵よりも少しだけ大きい卵だった。
私の脳裏には、英霊同士の戦争さえ引き起こした、某聖の杯が浮かんでいたが、これは卵だ。
この卵が、願いを叶えてくれる?
残念ながら博士は、妄想吹き荒れる夢の国へ旅立ってしまったようだった。
「はいはい、良かったですね。では、おやすみなさい」
「ま、待ってくれよ! 本当なんだ、望みが叶うんだ! 何でも良いから、この卵を持って願いを言ってみてくれ! そうすれば分かる!」
鬱陶しい博士の声が、寝起きの脳に響く。
私は、博士の手から卵を奪い取ると、願いを言った。
「博士の頭部を不毛地帯にしてください」
直後、卵から光が生まれ、辺りは真っ白に。
光の洪水がおさまった後、博士の方を見ると…。
「この卵は私がきちんと保管しておきます」
いいかげん、常軌を逸したモノを生み出す癖はやめてほしい。
今回の代償は、毛根だった。規模が小さかったことが、せめてもの救いだ。




