8・銃撃戦
第八話にして始めての北澤視点です。どうぞお楽しみください!
撃たれた。
過去に何度か経験したこの衝撃。
そのまま転がるように私は壁際ににげた。間髪いれずに、跡を追うように、鳴り止まない銃声。
「…ッ!」
小さく舌打ちしそうになり、出来なかった。口内が粘ついてきて上手く舌が動かない。血液が足らず、唾液が上手く作れなくなっているのだ。そんなに出血は多かったのかと驚いて自分の腕を見てみれば、なる程、出血多量の筈である。みごとに弾は貫通しており、二の腕の上側からも下側からも血が噴き出ていた。
窓の外から打ち込まれ続く弾丸は、またあの小さな扉に集中し出している。まずい。
私は足下に置いてあるリュックに今もっているオートマを仕舞い、短機関銃を出して右手に持ち替えた。今は怪我のことなどかまっていられる状況ではない。
膝建ちになり、再び窓のそとに向かって銃を連射する。左腕はもう段々と痛みしか感覚がなくなりかけていたので、右手だけで銃を操っているわけだが、さすがにいくら鍛えた身ではあっても機関銃を片手は辛い。
ある程度乱射して外からの攻撃の波が減ってきたところで、いい加減限界がきた。目眩がひどくなり、もう自分の鼓動さえ聞こえない程に耳鳴りがする。体がぐらりと何度も傾き、その度に左腕に走る死痛で覚醒してはいるが、もうそれもあやうい。
クラスメイトと思しき男子生徒が何度か、何か叫びかけてきているのが意識の端々で伺える。誰だったか、もう脳があまり回らなくなってきていたので、名前は思い出せないが、さっき私に話しかけてきた子だったろう。
もうだめだ。幸い攻撃はUSの援護が到着してくれたのか、もうほとんど無いといっていいほどに減ってきているので、安心していいだろう。だが油断はできない。
今にも吹っ飛びそうになっている意識をかろうじてつなぎ止め、リュックから手探りで応急処置用のポーチをひっぱりだした。
ここまで出血していてはもう気休め程度にしかならないこもしれないが、一応止血剤は服用しておく。あとはもう、ガーゼでも三角巾でも包帯でもなんでもとにかく使い、がむしゃらに止血手当をするだけだ。一向に血は止まる気配もなかったので、とりあえずガーゼで傷口をおさえ、スプレータイプの消毒液をぶっかける。もうすでに激痛に慣れ始めていたので、消毒でしみる、なんてことは感じなかった。
その上を包帯でぐるぐる巻きにして、二の腕全体を巻いてしまう。さらに肩口のあたりを止血のため、三角巾を細く裂いてつくった止血帯で巻き縛った。どこに動脈があるのかを再度確認できるほどの余裕は、今の私にはない。
ポーチの中に入っていた、ゼリー飲料型の栄養剤を一本咀嚼し、私はまた窓に向き合った。攻撃がまた復活しはじめているのだ。TCとやらはいったいどれだけこの地球にきているのか。
三角巾を使えば両手が使えなくなる。普段から、拳銃よりも機関銃やライフルの方を愛用している私に、その選択はできなかった。包帯だけなら、血さえとまれば、多少無理をすることにはなるが、両手で銃が撃てる。
さすがウチの組織公認のゼリー飲料。この回復力の早さは折り紙つきだ。脳に栄養が渡り行き出し、止血剤の効果にも二乗がかかっている気がする。実際、包帯にしみ出してきていた鮮血は、さっきに比べてずいぶんと落ち着いてきているのだ。
「北澤……?おい、大丈夫かよ、やばいぞ」
辺りの声も、音も、ようやくまた認識できるようになってきていた。しかし感覚が戻り始めるということは、腕の痛みも再び意識され出すと同じ。やまない激痛に吐き気もしてきていた。
「危ないから…隅いってて」
男子生徒にそうい言って、また窓に向かう。弾を込めながら、そういえばと思い出した。確か、自分と対極の席に座ってた、同じクラスの南崎。
その後もなん匹かTCをうち倒し、あたりにUSが来てくれているという事実も確認し、少し安心して、また弾をこめる。あれからリュックを探り、引っかき回してみたら、無事に麻酔薬を見つけることが出来たので、それを傷口に、包帯の上からかけた。部分だけを麻痺させる分量はきちんと教わっているのでまちがえはしない。おかげで今は守備よく学校を守り切れている。
だがしかし如何せん、不安が残ってはいるのだ。
――弾が尽きる――
もうあと弾薬のケースは二つしかない。TCが攻撃を開始してからもう約45分が経過しようとしているのだ、当たり前だろう。なにせ今まで、手当の時間は除いても、あとはずっと撃ちっぱなしに近いのだ。
そろそろ補給がほしいのだが、自分の仲間が今どういう状況に陥っているのか、ここからでは皆目検討がつかない。トランシーバーで連絡を入れようとしてみても、電波がやられているのか、応答は無かった。
相手の攻撃がいつおわるのか、こちらからは分からない。TCは南から北にしか移動できないようなので、私が南側の面の攻撃だけをせき止めれば、もう奴らが戻ってくることはない。しかし、地球は丸いのだ。やがて時がたてば、またこの場所にきてしまうかもしれない。
いずれにしても、今の私には、弾と、援護と、仲間が、痛切に必要だった。
――三田さん…――
階段を駆ける足音。ざわめく廊下。背後に迫る気配。
「悠亜ッ!!!!」
仲間は、来てくれた。
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