7・人形劇
どうぞお楽しみ下さいww
ぼくは何も話しかけられない。
時折柱の影に隠れながらも、外から弾が降ってくればそれに応戦してライフルを撃つ。さっき、ちらと窓から見えた、あの変な生き物は、少しずつだが減ってきているらしい。まるで幽霊みたいに、ぐちゃぐちゃになっている道なき道を滑るようにして、気味悪くこちらに迫ってきていた集団だが、今はちらほらと視界に入るだけだ。
だがしかしその威力は変わらない。
どこかで見つけだしたのか、交番や警察官から取ったのか、何故か生き物の手には本物の拳銃が握られている。なんとも異様な光景だった。
未だに自分の手を銃にして撃ってくる奴もいれば、半透明の手を見事に人の手型にしてピストルを操っている奴もいる。
瓦礫やブロックに重なって、何体もの生き物が倒れている。
撃たれたのだろうが、血は流れていない…いや、ちゃんとあった。この生き物は、どうやら血まで半透明らしい。世も末だね。
まさに世紀末。止まない銃声。あちこちで上がり続ける悲鳴。血を流して呻いている近所の人。それを素通りして学校に弾を撃ち続ける生命体。
そのとき
「ッ……!!」
ほとばしる鮮血。紅に染まる床。北澤が、撃たれた。
身を翻して柱にもたれる。そのまま背を滑らせるように、ズルズルとしゃがみこんだ。セーラー服の白は紅く染まり、腕を伝って指から滴る。
一番北澤の近くにいたぼくも、ドアのほうで倒れていた友人たちも、廊下から開いたドアを通して見ていた人たちも、固まってしまった。ただただ呆然とするばかり。
ぼくは我ながら神経は図太い方だと自覚している。なにせ今までこの状況にそれなりに適応して、なんとかある程度の理解は持てているんだから。
だけど──────────
北澤が撃たれて、僕はとてつもない喪失感に襲われた。
窓から見える、おぞましい戦いは、ぼくにとっては所詮人事でしかなかった。四角い枠のなかで繰り広げられている人形劇を見ているような感覚。
そう、人形劇で例えるのならば、人形を操る、人間が、突然劇に乱入して、人形に倒されてしまったような。そんな滑稽で、淋しくて、そして耐え難い喪失感。
観客と人形劇を繋ぐ、唯一の鎹が壊されたような、頼りなさ。親を見失った迷子のように、心身を占める絶大な不安。
目の前で崩れ落ちる、腕を紅に染めた北澤を見て、ぼくは一瞬、自分が小さな布ぐるみの人形になった気がした。
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