4・鳴り響いた
あと一分。
あと一分で、世界が終わる。
正直なところ、ぼくはあまり理解ができなかった。多分、みんなや先生も、結構理解出来てないと思う。だってこんな短時間で、こんな膨大な情報を無理矢理詰め込んで消化しろと言われたって、無理にもほどがある。
ぼくには今までの説明で、チャイムが関係ある、というところしか分からなかった。
ぼくたちの学校は、地下にチャイムがある。一階はここで、玄関は二階。三階と四階は教室で、理科室とかの特別室もみんな教室に振り分けられている。プールは屋上。体育館はバスケのコート一個分だけ。でもま、先生を合わせても240人ないから、不便はしてない。
ところで、ぼくが今いるこの被服室にはちいさな、縦横五十センチの正方形の扉があって、そこを開けるとハンドルがある。これは地下の歯車に繋がっていて、毎朝事務員さんが回しているんだ。するとチャイムの歯車が巻かれて、あとは勝手に一日分鳴らしてくれる。
その扉があるのは、開いている窓の向かいの壁。北澤が、守っている壁。
北澤は壁の柱に身を潜め、足下の椅子にリュックと換えの弾らしきものを置いた。かと思うと屈み込んでリュックから、スキーの時のゴーグルみたいなものを出し、それをつける。トランシーバーは生徒手帳を出したのか空になっている胸ポケットにしまわれていた。それを取り出し、ダイヤルを回してボタンを押す。また放送が響いた。
『北澤です。みなさん、いまから、世界が終わります。そしていまから、地獄が始まります。絶対に、動かないでください。窓際にも、寄らないでください。深緑の制服をきた人達が来たら、その人達の指示に絶対に従ってください。まとわりついてでも助けを請うてください。この階には、絶対奴らを入れさせません。玄関も階段も、南向きだから、大丈夫です。入ってこられません。私は、今から、銃を使います。お願いだから、騒がないようにしてください。命をかけて、まもるから。最初の天変地異で、揺れがきたとしても、この階は大丈夫です。一昨日、補強工事を深夜の間に済ませました。……どうか、一緒に頑張って下さい』
放送は、きれた。北澤は一瞬切なそうな顔をして、しかしすぐにまたトランシーバーのダイヤルをまわす。今度は放送じゃなかった。
『北澤です。整いました。あと十五秒です。……発砲許可、了承』
電源は入れたまま、機械をポッケに戻す。
時計をみた。
五……四…、三…二、一
キーンコーンカーンコーン
鐘が、鳴り響きだした。視界がゆれた。
世界は、終わった
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