3・チャイム
あと七分。
あと七分で世界が終わる。
ぼくたちはまだ理解が追いついてなかった。
『あと七分で世界が終わる』?この学校のチャイムがなんだっていうんだ。そもそも世界ってなんなんだよ。地球か?地球様には何億もの歴史があるんだぞ。チャイムごときで壊されてたまるか。それよりなんだ、授業はどうした。あと一時間で昼休みだったのに。おい、北澤悠亜、お前はいったい何者なんだ。
間をおいて、また北澤の掠れた声が流れる。
『今から、詳しいことを説明します。お願いだから、きちんと聞いていてください。あと五分の間に話します』
『私は、ある国際特務機関に属しています。秘密機関で、正式な名前はないから、自分たちで《US》って呼んでる。あぁもう、めんどいから敬語はぶいちゃうね』
唇を舌でしめらせてから、また北澤は続ける。
『USは世界から命令を受けて動く。基本、USは組織としては類い希な、実力主義のとこだから、私は小六でUSに入れてもらった。…黙ってたのは、悪いと思ってる…』
ふと目をそらして時計を見ると
あと六分
時は着々と進んでいるのだ。
北澤も 同じように時計を見、またしゃべりだした。
『私の祖父は、USの副会長にまで昇りつめているの。父は日本支部の会長。この二人に、小さい頃からUSの技術やらをたたきこまれたおかげで、私は英語もしゃべれるし、銃もうてる。推してもらって、今は部下も持てるくらいの地位にいる。実習生だから実際は持ってないけど』
北澤はいったん言葉を切った。
『そのUSが、ある国際宇宙組織と手を組んで分かったことだけれどね、数日前の話なの。地球の近く。火星よりも近いところで、超新星爆発がおこったのよ』
ぼくはピンとこなかった。なんのことだ。なんで宇宙にまで話しは発展してるんだ。
『…新しい星ができたんです。星と一緒に、新しい高度知能生命体も。要するに、宇宙人が誕生したって事』
ざわめきは起こらなかった。みんなが、スピーカーを睨んでいた。
『その生命体は、一昨日にTCと名付けられた。これはthousand changeの略の事。千に変化する。その名の通り、彼らには変化する能力が生まれついていたの。手、のみだけど。そして、何故か、南から北にしか移動できないの。爆発の方位とかが関係あるのかもしれないけど、まだ詳しいことは分かってないから』
あと、四分。
『彼らはこの学校の、このチャイムの音と、なにかしら因縁があるらしい。だから常にこのチャイムと共に生活してきた者、あなた達は危険なの。今日欠席した3人は、USのメンバーを家に向かわせてるから心配ないとおもう。それからね、チャイムが鳴ると同時に世界は終わるの。さっきからいってる通り』
『どんな天変地異が起こるか分からないけど、それでもなんらかの形で世界は終わる。TCが来る。その星に宇宙機関のメンバーを急遽組ませて派遣してみたらしいけど、交渉不可能どころか襲われた。みんな、心臓をひとつき。銃でね。彼らは手を変化させられるから、ピストルみたいな形に手を変えて、弾さえ詰めれば銃になるの。それで撃たれたのよ』
あと二分
『USの軍隊ももうすぐ駆けつけてくれる。でも、この建物を守るので精一杯でしょうね。チャイムとTCに、なんの因果関係があるか知らないけど、でもこのチャイムを襲いに来ることは確か。ほら、この学校って、地下にチャイムがあるでしょ。それも金属板の。TCはチャイムを襲いたいのは確からしいけど、壊すことはしたくないみたい。だから、世界が壊れても、ここは安全。だけど、一番危険。他の国や、住民は、天変地異についての心配はあるけど、TCの邪魔をしないかぎり襲われることはない。いまUSが猛スピードで情報網回してるから、きっと大丈夫。でも、あなた達は分からないの。もし、音に関係があるのなら、私たちの鼓膜をやぶっても、脳をあさっても、その音の記憶を手にいれようとするかもしれない。もし、音波に関係があるのなら、私たちの脊髄を吸い出してでも、その波を拾おうとするかもしれない。……なにせ、言葉が違うんだから、なにが本当かなんて分からないんだけどね…。とにかく、だからあなた達は、USの保護下にいてもらわなくちゃならない。もし私が生き残ってたら、この戦いが終わってから、どんな質問にでもこたえるから、それまで、どうか、耐えて。もうすぐ、援護がくるから、それまでは…』
あと、一分。
『私が、この学校を守ります』
北澤はトランシーバーを切って、銃を構えた。
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