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千変万化  作者: 津浦あゆ
2/10

2・一階

 

 あと十三分。


 校舎には彼女の声が響く。


 『みなさん、聞こえますか。この放送が聞こえた時点で、教師、生徒、事務員、給食員、とにかくこの学校にいる人全員、一階にある被服室、調理室、金工室、ランチルーム、とにかく全員一階に逃げてください。押さない、走らない、喋らないですよ。詳しいことは、全員が一階に避難できたときにお教えします。急いで廊下に出て下さい。逃げないと、死にます。死にたくない人はこの放送に従ってください。繰り返します。急いで廊下に出て下さい。一階に逃げて下さい。逃げないと、死にます。死にたくない人はこの放送に従って下さい。全員ただちに廊下に出て下さい。授業なんか知りません。死にますよ。荷物もいいから。自分の身だけもって逃げなさい。二年の車椅子の岩瀬さんは介助の先生と安全に行動してください。躊躇している暇はありません。死にたくないならこの放送をきいて下さい。一階です。一階に行ってください。死にますよ。………死にたくない奴ぁ、とっとと逃げやがれぇぇぇぇッ!!』


 ぼくらは呆然とこの放送を聞いていた。明らかに出所は北澤悠亜(きたざわゆうあ)だ。


 そして、彼女の彼女らしからぬ発言に、最後の叫びに、ぼくらは動いた。


 走れ、なんだ、なにが起こっているんだ、なんで北澤なんだ、なんで逃げているんだ、なんでぼくらは逃げているんだ。

 

 イスを蹴倒し、整列もなにもなく、階段をころがるようにして(二、三人は本当にころがって)駆け下りる。なんども繰り返された『死』の文字が頭をぐるぐるまわっていた。


 死にたくない。なんでだ。しったことか、死にたくないんだ。なんで死ぬんだ。知らないよ、死にたくないだけなんだ。ぼくは死ぬのか。いやだ、死なない。なにが起こってるんだ。知らないよ、逃げるんだよ。


 思考回路が、麻痺する。まだなにかが起こったわけではないのに、体から汗が噴き出る。


 ぼくはこんなにも危険になれていなかったのか。本を読んで、主人公になりきっていた、あれはなんだったんだ。ただの妄想だ。実際、死ぬと言われただけでこんなじゃないか。


 ぼくは逃げた。波に乗って、階段を三つ下った。


 ぼくが被服室にはいっても、人はあまりいなかった。一階の色んな部屋に分散しているおかげでスペースはあるらしい。240人の少人数中学、万歳。


 息を整えて、でもてもちぶたさになかなか座ることができずにいると、メットをかぶった北澤が入ってきた。


 ぼくたちの向ける、とまどいの目線を気にしたふうもなく、おもむろに話しだした。


 「…みんな、いるよね?……よし」


 今度はスカートのポッケから、例のトランシーバーを取り出す。


 『全員そろいましたか。いない人はいませんね。いいですか、聞いて下さい。全員、ランチルームか廊下に行って下さい。金工室にいる先生達は、大型の机を全部窓に向けてたてて、バリケードのようにして下さい。カーテンもしめて、外から中がみえないように…できたら金工室には入っていてくださってかまいません。廊下のが安全かもだけどね。調理室にいる人たちは、悪いけど給食室に入って下さい。あ、先生達はカーテンを閉めていって下さいね。被服室も、大型の机を窓に立てて、カーテンも窓も閉めて。あ、一番端の窓だけはあけておいて下さい。机もいいです。ランチルームは窓とカーテンだけで良いです。廊下挟んでの北側でしょ。それでもまだあふれている人は窓の施錠をしっかり確認してくれれば、階段下の物置も安全ですからそこに行ってて下さい。お手洗いは窓が閉まっていれば安全ですが、なるべく今のうちにお願いします。いいですか、絶対上にはいかないで下さい』 


 がたがたと、バタバタと、右を左への大移動。あちこちで大声が聞こえる。ぼくのいる被服室でも、先生達がガタガタと机を移動させていた。誰もかれも、困惑の表情を浮かべている。


 いったい、なにが起こっているのか。

  

 北澤は、一番端の開いている窓のところにいた。コンクリの柱を叩き、ちょっと満足そうにしてから、窓ガラスをはずしだした。合い服のセーラー服は、あついのか袖をまくっているが、それでもメットはとらない。


 なにかが、起こっている。

 

 全体のドタバタが収まったのか、シーンとしていた。開いた窓を通してか、雀の鳴き声が聞こえる。


 北澤がトランシーバーを持った。今度はなにを言い出すのだろう。


 『みなさん、いいですか、できましたか?部屋の中にいる人は、なるべく廊下の壁の方によっていて下さいね。被服室にいる人は、開いた窓からなるべくはなれた壁際にいっててください。十人もいないんだから、できますね』


 そこでいったん言葉を切った。時計をちらとみている。


 『いいですか、今から言うことを聞いて、パニックを起こさないでください。あばれたり、この階からでていったりしたら、死にますからね。いいですか。……もうすぐ、この世界は終わります。……チャイムが鳴るとき。あと、七分です』


 ぼくは背後の時計を仰ぎ見た。


 あと七分。

 

 あと七分で、世界が終わる。


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